遅ればせながら自己紹介
察しの良い方はお気づきだと思う。竜が当たり前に存在する国で生活していながら、ファンタジー!!と興奮している私はこの国の、いやこの世界の人間ではございません。
日本人。女子高生。18歳。名前は高科風音。
まぁ、所謂あれです。異世界トリップ。若干口にするのは恥ずかしい歳であるし、ネタとしてはありきたりですが。まぁ、ちょっとお付き合いくださいよ。
日本人として普通に生活していた頃の私は病弱でもなかったし、別に現実が嫌になった訳でもなかった。誰でも持っているような悩みや妬みは当然あったけど、特別他の世界に逃げ出したいと思った事はない。けれど、現実はこうなった。
きっかけがなんだったのかは未だに分からない。気づいたら突然この世界にいて、街の人に助け出された。どうやら私は何の変哲も無い草むらにつっぷして眠っていたらしい。
誰かに呼ばれたわけでもなく、勇者になって魔王を倒してくれと頼まれるわけでもなく、巫女として世界を救ってくれと言う人も居ない。ここに来た私には何もなかった。目的も理由も原因も。善意も悪意も何も無い。ただ此処にいるだけ。
昔からファンタジー大好きな私からすると拍子抜けもいい所だが、役に立ちそうな特技もチートな能力もないので逆にほっとした。異世界召喚されて勇者になる人なんて、生まれつきの勇者だったんだよ。ただの女子高生に世界を救えなんて到底無理な話だ。
此処が地球ではないと分かり、最初に思ったのはファンタジーが好きすぎて異世界に来る夢を見ているんだろうという事。超絶美形の王子様もツンデレ魔法使いも出てこず、チートな能力も魔法も使えないなんてどんだけ想像力が無いんだ私!!と最初は自分の妄想力の不甲斐なさを悲観していたけれど、いつまでも醒めない夢にどうやらそうではないらしいと気づいた。
私がここ、白の国で暮らし始めてから既に12ヶ月が経過している。実は日本で交通事故にあって私の体は植物人間状態。今は長い長い夢を見ている――というオチもありかなぁと思っていたんだけど、猫舌の私が何度も熱いお茶で軽い火傷をしているので多分違うと思う。だって本気でヒリヒリするもん。翌日までヒリヒリしているんだもん。絶対夢ではない。
日本にいた筈の私の存在が一体どうなっているのか、正直気にならない訳ではない。けれど考えても答えの出ないことをいつまでも気にしている暇は無かった。何せ自分は無一文。その日の飯にありつきたければ働くしかない。高校在学中様々なバイトをしてきたお陰で接客にも営業スマイルにも自信はある。体力も少々。この街の教会で紹介してもらった馬の世話のお仕事に就かせてもらい、生活の為にせっせと働く毎日。
てなわけで、ここでの私は“馬屋のカノン”で通っております。