見た目は子供。中身は大人?
竜の寿命は長い。平均600〜800歳。人の血と混じる前の竜はそれこそ何万年と生きたと言う。逆に竜の血が薄いほど短く、例えば城下に住む一般の人々の寿命は150歳。私からすると“それでも150歳!?”って感覚だけど。
(あぁ、異世界だ……)
絶対的な違い。いくら見た目が似通っていても、やはり純粋な人間の私と同じではない。確かに目の前に居るリーリアス王子は生まれてから30年経っているのだろう。でも王族が80歳で成人を迎えることを考えれば、見た目通りまだ子供と言える年齢の筈。同じ時を生きていても成長するスピードが違いすぎる。いくら彼が自分は子供ではないと言い張っても、私達の間に人間と竜という違いがある限りその差は埋めようがない。彼が成人する頃、私は70歳近くのおばあちゃんだ。
知らなかったのか?と竜について説明してくれた王子がこちらを見ている。そして言葉を失っている私に首を傾げた。
「カノン?」
「あの……、私は……」
異世界人である事を言わずに、私達の絶対的な違いを説明するにはどうすればいいのか。上手い言い訳が思いつかず言葉に詰まる。
ねぇ、リーリアス王子。ただの人間でしかない私は、君と一緒には生きられないんだよ。
「失礼致します」
二人の間に漂っていた空気を変える様に凛として涼しげな声が割って入る。扉に目を向ければ、そこに立っていたのは銀髪のお兄さん。あ、白の国の人ですね。服装を見るとお城で働く侍従さん達と似通ったものを着ている。但し紺色の詰襟には銀の刺繍で三本のライン。結構地位の高い方のようです。
そんなお兄さんを見てリーリアス王子はむっと口を引き結んだ。
「なんだ」
「リバイロ陛下がお呼びです」
「……分かった」
あぁ。翠の国の王様だね。つまり、リーリアス王子のお父さん。
彼は疲れたように溜息を零して私の手を離した。ほっとしたのも束の間、彼の手が私の頬に触れる。
「カノン。中座してすまないがすぐに戻る」
「あ、いえ。お気になさらず……」
「それと、俺のことはリアスと呼んで欲しい。いいな?」
「…………はい」
う〜〜〜〜。言葉はお願いだけれども完全命令だ。そもそも王子様の“お願い”を一般市民が断れる筈も無い。……って、私まだここにいなきゃダメなんですか? それも決定事項ですか。そうですか。
リーリアス王子が文官らしきお兄さんを伴って出て行く。入れ替わりにメイドさんが入室して冷めたお茶を淹れ直してくれた。
(つ、疲れた……)
一体何がどうなってるんだろう。もしやドッキリの看板持った人が後から出て来て、ネタばらししてくれたりするのだろうか。




