回復アイテムを下さい
一度は入ってみたいと思っていた。でもまさか、それがこんなに早く叶う事になるなんて……。
という訳で私は現在お城の中。どうやら今居る場所は客室の一つらしい。外観と同じくお城の壁や柱の基本は白。ふかふかのソファはワインレッドに細かな花の刺繍が施された一品で、木製テーブル、家具や調度品の全てが私の目には一体おいくらするのか分からないくらい非常にお高そうなものばかり。うっかり触って傷でもつけたらシャレにならないので、案内されたソファでじっとしているしかない。
因みに拉致まがいな方法で私をここまで引きずってきた騎士のお二人も同じ部屋に居る。当然彼らは壁側に立ち、黙って控えているけれど。後はメイドさんが数人。基本誰も無駄口を叩かないので部屋の中はシーンとしている。
はぁ、空気が重いよ。帰りたい。確かに入ってみたいと思っていたよ。でも平民には無理です、ここ。居るだけでじわじわとライフポイントが削られている気がする。
騎士さん達は結局最後まで私を拉致った理由を教えてくれなかった。牢屋に連れていかれた訳じゃないからまだ良いけど、理由くらい教えてくれたってバチは当たらないと思う。同じ騎士でもルードさんはそんなにケチじゃないぞ。
心の中でぶちぶち文句を垂れていると、部屋の外から声がかかった。
「殿下がいらっしゃいました」
そして壁際にいた騎士二人が両開きのドアを開ける。そこから現れたのは小さな少年。リアスくん――もといリーリアス王子。
私は慌てて立ち上がった。
「リア……リーリアス殿下。どうして……」
彼が私の顔を見る。そんでもって眉間に皺が寄った。子供らしくないその表情に私は怖気づく。やっぱりパレードの時こちらを睨んでいたのは間違いじゃなかったのだ。
やっぱり私が悪いの? これ?
背筋の伸びた綺麗な姿勢でツカツカとこちらに歩いてくる彼は、なんだか昨日とは別人のよう。王子だと知って私の見方が変わってしまったのかもしれないけど、昨日のような子供らしさは見当たらない。
彼が向かいのソファに腰を下ろすと、すかさずメイドさん達がお茶を用意する。
「もうここは良い。下がれ」
そうリーリアス王子に言われて仕事を終えたメイドさん達はワゴンを押し、部屋を後にした。私はそんな彼の姿に唖然と突っ立ったまま。
「カノン」
「あ、はい……」
「座っていい。お前達も下がれ」
すると命じられた騎士さん達が顔を見合わせた。当然だろう。彼らが居なくなれば私と王子の二人きりになる。何か起きた時、王子の傍に誰もいないのではまずい。
「聞こえなかったのか? 下がれ」
それは紛れも無く王族の威厳を持った言葉。
……やっぱり君は王子様なんだね。リアスくん。




