腹が減っては祭が出来ぬ
「ひゃー!! すごい人だぁ!!」
人、人、人。朝からどこの通りも人だらけ。年齢も容姿もバラバラな人達が賑やかに祭を楽しんでいる。
白の国の人達は銀髪に白い肌の人が多いが、様々な国からの観光客が集まっているだけあって髪の色も目の色も服装も様々。街を飾るリースに負けないぐらい華やかな光景だ。
かく言う私も地元の人間しか知らない裏道を使いながら祭を楽しむ。取りあえず目的は屋台!! この日限定のパンやデザートを出す店は事前にリサーチ済み。今日は仕事もお休みなので買い食いし放題!
飲食店やお土産屋さんは今日がかき入れ時だが、その他の地元民の多くの目的はなんと言っても午後のパレード。これは滅多にお目にかれない各国の王族が馬車に乗って街を回るもので、とても華やかな行列になるらしい。これを見ようとわざわざ他国から観光客が押し寄せるぐらいだ。
この世界に来て一年近く経つ私もこのパレードを見るのは初めて。白の国が主役の新節祭を経験するのが初めてなので当然だ。もう楽しみで楽しみでしょうがない。地元民である地の利を活かして、観光客に邪魔されずにパレードが拝める場所も事前に確保済みである。ま、時間が来るまでは存分に腹ごしらえしておこう。
私は目に付いた屋台を片っ端から覗き始めた。
* * *
「カノン!」
「あ、ルードさん!!」
銀髪にグレーの目をした人の良さそうな顔に声をかけられ、私は彼の名前を呼んだ。正確な年齢は聞いたことがないので分からないけど、見た目は二十代後半ぐらい。穏やかな印象でそれなりに整った顔をしているが未だ独身だというのだから驚きだ。貴族出身でない騎士には独身が多いらしい。やはり男ばかりの職場では出会いがないのだろうか。私のファンタジー知識によると騎士はモテモテのイメージがあっただけに意外である。
身長160cmしかない私は180近くあるルードさんを見上げた。
「そろそろ移動ですか?」
「うん。行こうか」
人ごみを掻き分けながら進むルードさんの背中について行く。あともう少しでパレードが始まる時間。私は待ち合わせをしてルードさんと一緒に見る約束をしていたのだ。観光客に邪魔されないパレード観覧スポットとはルードさんが教えてくれた場所だったりする。
彼は最初に私を保護してくれた日から何かと面倒を見てくれる良いお兄さんだ。元の世界に姉は居たが兄はいなかったので、居たらこんな感じなのかなぁと思うと嬉しくなる。
丁度その時、街中にラッパの軽快な音色が響いた。パレード開始の合図である。




