他人の剣法 【シナリオ形式】
■登場人物
(読み物としてはネタバレがあるので今回は後述;)
(1)黒田城下、お堀端(夜)
お堀端は、花が咲く直前の桜。
字幕「筑前黒田領 寛永五年春――」
(2)辻番所(夜)
歳老いた小者A、提灯を持って入る。
小者A「結構なお晩で…」
三人程、老若の小者が時間をつぶしている。
奥で同心がひとり、煙管の煙を燻らしている。
側の座り机には放り出された手配書。
同心「明日あたりは、桜が咲くかな。」
小者A「お花見日和でございますか。」
同心、なにげに手配書をめくる。
同心「その後、あの辻斬りについて、何かわかったことは?」
小者A「今のところはまだ何も…」
同心「もう五人も斬られている。」
小者A「へえ、そのようで。」
同心「おととい斬られた武士は、なかなかに剣が達者だったっていう話しだが…」
小者A「辻斬りも手練れのようですな。」
そのとたん。
朝勝「お御免。」
障子を開いて現れたのは、
長身痩躯で、人品卑しからぬ初老の浪人。(信太朝勝。#102まで、朝勝
の顔は、さりげなく印象が薄くなるように演出をお願いします)
驚く番所内の人々。
構わず、朝勝、一礼する。
小者A「何かご用で?」
朝勝「…その先の辻に、人が倒れている。お調べを。それでは。」
朝勝、再び一礼すると立ち去りかける。
同心「(あわてて)もし、御姓名をお聞かせ願いたい。」
朝勝、ふと立ち止まる。
朝勝「(あまり言いたくなさそうに)…信太朝勝…と申しま
す。」
朝勝、立ち去る。
呆然としている一同。
はっと気が付いた同心、
同心「おい、行ってみよう。」
(3)黒田城下、町辻(夜)
人通り絶えた夜道に、黒装束の男(浪人A)が倒れている。そよ風が吹き抜
けていく。
役人たち、とりかこむ。
黒装束の男、覆面を半分脱がされた大兵の浪人Aである。手には抜き身を持
ち、口からは反吐を吐いて失神。
同心、刀を取り上げる。
小者A、浪人Aの顔をのぞき込む。
同心、刀をじっと見る。
同心「うーん…かなり使いこんでいるぞ、この刀は。」
小者A「旦那様、この男、息がございます。」
(4)番太小屋前(朝)
番太が出てきて、拍子木を鳴らす。
番太「六ツでござぁい…」
(5)辻番所(朝)
同心、入ってくる。
小者A「お早うございます。」
同心「昨日の浪人者は?」
小者A「息を吹き返しました…」
(7)辻番所、牢
同心、小者をつれて取り調べ中。
浪人A「しかり。辻斬りをやっていたのは、たしかにそれがしでござる。」
同心「それで、なぜあのようなところに倒れていたのだ?」
浪人A、しばらく下を向いていたが、
浪人A「…こうなったら潔く申し上げよう。それがし、幼少より剣を学び、いっ
ぱしの使い手を自認しておったが…あれほど恐ろしいと思ったことはなかった。
とにかく、斬りつけても斬りつけてもまるで風を斬るようで、かすりもしない。
あせって斬りつけているうちに、扇子の一撃をくらっただけで倒れてしまっ
た…。あれはまさに、人間ではなく、神の技じゃ…」
困惑して顔を見合わせる小者Aと同心。
浪人A「拙者の慢心を諫めるために現れた、剣術の神様だったに違いない…」
浪人A、真剣な目で土間の床を見ている。
(8)朝勝の家、玄関
武家屋敷の中の長屋。玄関に、書きなぐられたような小さな看板。
看板「微塵流 信太朝勝」
(9)朝勝の家、座敷
朝勝「ははは…神様などと…それがし、ただの人間でござる。」
縁側にすわっている朝勝。
若い弟子Aがお茶が出している。
同心と小者が来ている。
同心「やはり貴殿があの信太朝勝先生でしたか。いえ、お噂はかねがね…それに
しても信太先生、だれも敵わなかった辻斬りをあっさり捕らえたとは、全く
すばらしいお腕前で。」
朝勝、お茶をすすり一息おくと、
朝勝「…昔の人も、心正しければ利は我にあり、と申しております。」
朝勝、ふと、遠い目。
同心「‥心正しければ、ですか…。あ、長々とお邪魔しました。お役目中ですから、
それではこれにて…」
黙礼を交わし、同心と小者は出ていく。
しばらく縁側で見送っている朝勝。
弟子A、片付けに出てくる。
弟子A、片付けている途中でふと手を止めて、
弟子A「先生、御城下で大変な評判ですよ。信太先生が辻斬りを捕まえた、と。」
朝勝、ふと自嘲気味な笑み。
朝勝「世のためとはいえ、余計なことをしたかなあ…」
弟子A「は?」
朝勝「いや、こっちのことじゃよ。」
弟子A、片付け終えて下がる。
朝勝「(ぽつりと)心正しければ、か。」
(10)辻番所
同心、奥の間で帳面をめくっている。
小者A、箒とちり取りを手に土間の掃除。
同心「…わからん。」
小者A「…? 何がでがす?」
同心「あの信太朝勝という老人…どこで生まれて、どこから来たのか、さっぱり
記録がないんだ。言葉つきからは、東国の生まれじゃないかって気がするんだが」
小者A「近所でも、知ってる者がないようでした。」
同心「弟子はどうだ? 調べてみたか?」
小者A「へえ。それが、弟子たちにも、昔のことはほとんど話さないとか…」
同心「何かありそうな気がするな、あの爺さん…。」
(11)朝勝の家、玄関
ちょっとした行列がやってきて、玄関先に止まる。
駕籠から、家老が降りる。
(12)朝勝の家、座敷
縁側に朝勝が座り、奥に家老がすわる。
朝勝、深々とお辞儀する。
朝勝「このようなあばら家へ、御家老様じきじきにおでましいただくとは…」
家老、尊大にうなずく。
家老「この度、殿におかれてはそちの働きを耳にいたし、ぜひ対面したいと申され
ておる。武芸の話などいろいろ聞きしたいとのことじゃ。」
朝勝「それは光栄な…しかしそれがし程度に使われる方は、藩中にいくらでもおら
れましょうに。」
家老「謙遜なさるな。お召しを断るのは、殿に対し無礼でござるぞ。」
朝勝「はあ…」
家老「いずれは、仕官のお話もあるかもしれぬ。ありがたくお受けするがよい。」
朝勝、無言で一礼する。
(13)番太小屋前(夜)
番太が出てきて拍子木を鳴らす。
番太「五つ半でござぁい…」
(14)朝勝の家、座敷(夜)
朝勝、灯りをつけて白紙の巻き物に
向かっている。
障子の外に、弟子Aが来る。
弟子A「先生、夜も更けてございます。そろそろ、お休みになられたほうが…。」
朝勝「油が勿体ないか。」
弟子A「いえ、そんな…。」
朝勝、笑う。
朝勝「これは、急いで仕上げねばならぬ。訳がある。」
弟子A「訳でございますか。」
朝勝「…いずれ、解る。」
朝勝、巻き物に視線を戻す。
(15)城、外観
城の外観。
(17)城、大広間
群臣居並ぶ緊張感の中で、下座に控え礼をする裃姿の朝勝。
ただひとつ、太鼓の音(心理描写音)。
(18)朝勝の家、風呂場(夕方)
弟子A、火を焚いている。
朝勝が入浴中。
弟子A、何か尋ねたいが言い出せないという表情。
(19)城内、大広間
殿、肘置きにもたれて思案顔。
家老がやってくる。
家老「お呼びでございましょうか。」
殿「来たか、近う寄れ。」
家老、膝行で近づく。
殿「昨日、目通りした信太と申す武芸者じゃが。」
家老「はあ」
殿「生まれを尋ねても師匠を尋いても、のらりくらりとはぐらかして答えてくれ
ん。」
家老「不埒な奴にござりますな。」
殿「あれは、何かあるぞ。ことによると、実は大罪人か何かで、それで過去を隠し
ているのかもしれん。」
家老「まさかそのような…!」
殿「おもしろそうじゃ。探ってみよ。」
家老「殿、それは…」
殿「余の命じゃ。速やかに調べよ。」
家老、やむを得ず一礼する。
(20)朝勝の家、土間(夜)
釜の残り火が土間を照らす。
桶の水を流しながら、弟子Aが食器をゆすいでいる。
奥から出てくる朝勝。手に、墨が付いている。
朝勝「済んだか。」
弟子A「(驚いて振り向き)間もなくでございます。」
朝勝「済んだら、香取様へ行こう。」
朝勝、背を向ける。
(21)町外れの香取神社(夜)
林の中で、木刀を手にしている朝勝と弟子A。
型の練習で、激しい気合いの割にゆっくりした動きがしばらく続く。
弟子A、滝のような汗。
朝勝「ふむ…いいだろう。」
朝勝、木刀を引く。
朝勝「なかなか上達しておる。」
弟子A「有り難うございます!」
朝勝「夜も遅い。そろそろ帰るか。」
弟子A「はい。」
二人、社殿前で柏手を打ち一礼。
(22)黒田城下、町辻(朝)
同心と小者Aが急ぎ足。
小者A「しかし旦那様、本人に尋いたって、果たして答えるでしょうかね?」
同心「お殿様の命だからな。答えぬ訳にもくまいよ。今度こそあの爺さんの、
正体が解るぞ。」
(23)朝勝の家、玄関
同心と小者A、弟子Aと会っている。
同心「旅に出た?」
弟子A、ショック状態でぽつりぽつりと話す。
弟子A「今朝…置き手紙がありまして…私に免許皆伝をくださる旨と…旅に出て、
ここには帰らない旨、記されてありました。夜の明けぬうちに…出ていかれた
模様で…ございます。」
同心、ちょっと迷ってから、
同心「貴殿を一人前と認めてのことであろう。そう気を落とされることはない。」
答えない弟子A。
同心「差し支えなければ、その置き手紙とやらを見せていただきたいが…」
弟子A「…どうぞ。」
弟子A、同心と小者Aを中に招く。
二人が入ったあと、弟子A、ふと遠くを見る。
(24)街道筋
明るい日差しの中。
旅装の朝勝、草の中に腰を下ろしている。竹筒の水を飲み、口元が微笑む。
(25)江戸、大通り
人通りの激しい町中。
字幕「江戸 寛永五年夏――」
(26)江戸、堀川端
小舟が堀を下っていく。その向こうに、道端を歩く旅装の朝勝。
(27)江戸、常盤橋
橋を渡る朝勝。
ふと、懐かしげに橋の欄干を見て足を止める。
欄干に、深く切りつけたような古い傷跡。
(28)道場跡
更地。ペンペン草が生えているような状態。
その前に、感慨深げに立つ朝勝。
朝勝の後ろには無関心に通りすぎる人々。
(29)一膳飯屋
ひまそうな一膳飯屋。
朝勝、ゆっくりと入ってくる。
親爺「いらっしゃいまし。」
朝勝、刀を外し旅装をくつろげて座る。
朝勝「酒を少しと、何か食うものをくれ。」
親爺「へい。」
親爺、すぐに小徳利をもってくる。
朝勝、何か考えるような顔つきで酒を飲み出す。
親爺、惣菜の類いをもってくる。
朝勝、ふと思いつき、
朝勝「親爺、その先の更地だが…あそこは昔、剣術の道場だったんじゃないか?」
親爺、一瞬怪訝な顔つきで朝勝を見るが、すぐ思い直して
親爺「へえ。あそこは潰れましたよ。もう…ずいぶん前ですがね。」
朝勝、湯飲みの酒を飲みながら
朝勝「いったい、何があったんだ?」
親爺「お客さん、知らんのか? 有名な話だがね。」
朝勝「長いこと西国にいたものでな。よかったら、聞かせてくれないか。」
親爺、興がのって来る。
親爺「いいでしょう、今日はどうせヒマだ。」
親爺、腰掛けに腰を下ろし、煙管を取り出す。
親爺「あの道場を作った武芸者、何と言ったかな…たしか微塵流、根岸なにがし…」
朝勝「…根岸兎角?」
親爺、火打ち石と火口を手に、
親爺「そう、根岸兎角! こいつは悪いやっちゃ。」
朝勝「(驚いて)根岸兎角は悪い奴か。」
すでに火のついている煙管。
親爺「そうでさあ。そもそも、この根岸兎角って男は、ですな…」
画面がしだいにボケててゆく(ピンボケと台詞でつなぐ)。
(30)沼池
次第にピントが合ってくる。
沼地に小舟を浮かべて網を投げている岩間小熊。
逞しく太って挑戦的な表情の色黒の男。
親爺の声「常陸の国、江戸崎にすんでいた、諸岡一羽斎っていう剣術の名人の、
三人のお弟子のひとりだったそうですがね…。」
小熊、網を手繰るが、小魚が少しかかっているだけ。
(31)貧相な船着き場
駕籠を背負った泥之助が通りかかる。
土子泥之介、若いが、貧弱そうな男。
泥之助「どうです、小熊さん。」
小熊「泥之助か。いかんなあ、ここは。あまりとれん。そっちはどうだ?」
泥之助「まあ、開墾したばかりの畑ですし。たいしたものはできませんよ。」
(32)一羽斎屋敷、座敷(夕方)
布団を敷き、寝込んでいる諸岡一羽斎。
病いでかなり弱っているが、剣の達人らしく、眼光は衰えていない。
障子は開きっぱなしで、外が見えている。そこへ通りかかる小熊と泥之助。
小熊「先生、ただ今帰りました。」
一羽斎、もそもそと動く。
一羽斎「(弱々しく)苦労をかけるな。」
小熊「いえ、そんな…(微笑)」
黙って聞いている泥之助。
一羽斎「…兎角はどうした?」
急にムッとする小熊。
泥之助「兎角さんは昼前に出かけました。まだ帰りません。」
一羽斎、息をついて目をつぶってしまう。
(33)一羽斎屋敷、炊事場(夕方)
小熊、竈の前にすわって飯炊き。火を吹いている。
後方、囲炉裏の鍋では、小魚の煮物がぐつぐついっている。
そこへ、桶を担いだ泥之助が入ってきて、ゆっくりと桶を置く。
泥之助「ああ、小熊さん、兎角さんが…」
小熊「あんな奴にさんづけするのはよせ。」
泥之助「でも、目上の人ですし…」
小熊「目上だろうが何だろうが、お師匠様に入門したのは俺たちのほうが先だ。
それを…筋がいいだかなんだか知らないが、まったくお師匠様もお師匠様だ。」
泥之助「じっさい、今じゃとても敵いませんからね。」
小熊「いいや! 俺はあんな奴に負けんぞ! ええい、あいつの話をしてると
不愉快になる! 帰ってきたら…」
泥之助「そうそう、その兎角さんが今さっき帰ってきたんですよ。」
「なにい!?」と、声には出ないが怒りの表情の小熊。
(34)一羽斎屋敷、座敷(夜)
兎角が一羽斎の布団脇に控えている。
根岸兎角、二枚目で長身の若者。
兎角の前に籠がある。
兎角、籠を開ける。中には、藁で包まれた鶏卵が入っている。
一羽斎「ほう、卵か。これは、病いには何より…」
兎角「どうぞおあがり下さいますよう。」
一羽斎「いつも、苦労かけるのう。」
兎角「いえ…それでは、これにて。」
兎角、一礼して下がる。
(35)一羽斎屋敷、縁側(夜)
兎角が出てくると、小熊が掴みかからんばかりの勢い。
小熊「兎角! てめえ、どこに行ってた!」
兎角「なんだい藪から棒に。町へ出て商売してきたんだよ。」
小熊「商売ぃ~?」
兎角「なあ、小熊。先生が病に倒れた今、弟子もみんな逃げちまって、俺たち
三人しか残ってねえ。みんなでがんばって日々の食いぶち稼がなきゃならねえっ
て言ったのは、お前さんだぜ。」
小熊「だから俺っちゃ網を打ったり畑耕したりしてるんじゃねえか。毎日町へ出て
くのはてめえだけだ!」
兎角「俺だって遊びに出てるわけじゃねえよ。現に、お師匠様に一番いいもの食わ
してるのはこの俺じゃねえか。」
小熊、黙り込んでしまう。
兎角「さ、そんなことはどうでもいいから、俺たちも飯にしようぜ。」
さっさと立ち去る兎角。
小熊(独白)「いい気になるなよ…」
(36)一羽斎屋敷、外(朝)
すずめの鳴き声。
(37)近くの神社
木刀を手にした小熊と泥之助、気合いも激しく型稽古中。
それを面倒そうに見ている兎角。思わずあくび。
小熊「こら、兎角! なにしてる!」
兎角「いやあ、すまんすまん。」
小熊「すまんですむか! こっち来い!」
兎角、ヤレヤレといった表情で木刀を手に立ち上がる。
泥之助と入れ代わる。
兎角「どの組太刀でやるんだい?」
小熊「お前の好きなように来い!」
小熊、びしっと力強い構え。
兎角「いいのかよ?」
兎角、口笛を吹くような表情できれいに構える。
小熊「さあ、来い!」
小熊、目を血走らせてる。
兎角、目に微かに笑いを浮かべ、口をすぼめながら、小熊の回りを少しずつ
移動する。
泥之助、ふたりを心配そうに見比べている。
気合い一閃、あせって動いた小熊を兎角が簡単に追い詰めてしまう。
兎角「と、まあこんな具合だな。」
小熊「う…」
兎角、木刀を下げて小熊から離れる。
兎角「さ、次はなにをやる?」
小熊「う…、今日はここまで!」
(38)一羽斎屋敷、裏手
いきなり薪木が二つに割れる場面でつなぐ。
泥之助が薪割りをしている。
(39)一羽斎屋敷、座敷
一羽斎、やや血色が良くなって、布団に起き上がっている。
側に和尚が座り、談笑中。
一羽斎「今日は加減もよくなった。」
和尚「それは、重畳…。」
一羽斎「和尚の世話になるのは、もうちょっと先に伸びたかのう。」
和尚「ぬかしよるわ。」
両者、声を出して笑い合う。笑いが途切れると、薪割りの音が響いてくる。
一羽斎「…うん。あの音なら、泥之助じゃな。」
和尚「まだ、ボケてはおらんようじゃな。」
一羽斎「ぬかせ。」
また笑い合う二人。
和尚「…泥のやつも、先生のおかげでいっぱしの男になって良かったよ。わしが
拾ったときには、泣くこともできない泥まみれの貧相な赤ん坊だったのに…」
一羽斎「それで、土子 泥之助、か。」
和尚「わっはっは。しかし、ぴったりな名ではないかね?」
一羽斎「ふふふ…」
和尚、少し間を置いて真顔になる。
和尚「しかし先生。お迎えが来たら、だれに道を譲るつもりだね?」
一羽斎、すっとぼけた表情。
和尚「一子相伝の秘伝の巻物を渡すのだろう? ひとつしかない巻き物は一人に
しか渡せまい?」
一羽斎、さらにすっとぼける。
和尚「岩間小熊、土子泥之助、根岸兎角。どいつもそこそこ使うようじゃが、
先生から見たら誰が一番優れていると思うね?」
一羽斎、大きく息をつく。
一羽斎「誰ということもない。小熊は小熊、泥之助は泥之助、そして兎角は兎角。
人は、誰が優れ誰が劣るなど、簡単に決めるもんでもないわい。心が正しければ、
それでよい。」
和尚「ほ…こりゃ、拙僧の言うべきことを取られてしまったな。」
また笑い合う二人。
一羽斎「しかし、いずれはわ一羽流の秘伝書、誰かに授けねばならんのう。」
和尚「誰にする?」
一羽斎「さて、誰にしようか?」
またくすくす笑い。
(40)一羽斎屋敷、炊事場
兎角、柄杓で水を飲んでいる。
一羽斎と和尚の笑い声が響いてくる。
兎角、ちらと目をやって柄杓を置く。
(41)一羽斎屋敷、裏手
泥之助が汗まみれで薪割りをしている。
兎角、ちょっと奇麗な着物を着て通りかかる。
泥之助「ああ、兎角さん。お出かけですか?」
兎角「うむ…ちょっと行ってくる。」
(42)宿場町
街道筋の宿場町。
賭場や岡場所があり、昼間から盛っている。
ガラの良くない連中や、乞食風の連中が入り浸り、騒いでいる。
そこへ兎角が通りかかる。
客引きの女、窓の中から声をかける。
お冬「あ~ら、根岸先生じゃありませんか。今日は寄っていただけないの?」
兎角、ニヤリと笑うと暖簾を潜る。
(43)娼窟、奥部屋
行為が終わったあとの兎角とお冬。
お冬、兎角に甘える仕種。
お冬「先生が用心棒に来てくれて、この辺もずいぶん静かになりましたよ。」
兎角「そうかい?」
お冬「なにしろ、どんな暴れ者も兎角先生にゃ敵わないからねえ…。払いの悪い奴も
ぐんと少なくなったし。」
兎角「ま、困ったことがありゃ、いつでも俺を呼びな。」
お冬「しかし、先生にも兄弟子さんがいるんでしょう? その人たちもさぞかし強い
んだろうねえ。」
兎角「なぁに、ちょっとは使うが、てんでお話にならないバカどもだよ。せっかく
身に付けた技を生かそうともしないで、毎日畑仕事や魚捕りに精を出してやがる
んだ。」
お冬「まあ、それじゃあまるで、お侍じゃなくてお百姓じゃない?」
兎角「いいんだよ、あいつらは。おめえにゃ俺がいるじゃねえか…」
兎角、女に覆い被さる。
お冬「あれ、また…? まったく、お強いんだから…」
兎角「おうよ。こっちだってな…」
濡れ場。
お冬の気をいかす声でつなぐ。
(44)娼窟、勘定場
女達の悲鳴につながる。
やくざ者が激しくつき倒される。
やくざ者「なっ、なにしやがんでえ!」
着流し姿の兎角、鞘を握って膝を立て、
ポーズを作っている。
兎角「おう。たっぷり楽しんどいて、払うもの払えねえっていうのは、ちっと心得
が甘くねえかい?」
やくざ者「払うも何も、無え袖は振れねえって言ってるだろう!」
兎角、ずいっと乗り出して
兎角「それじゃ、最初からヤリニゲするつもりだったったのか」
やくざ者「なんだぁ? でえてえ、てめえは
何なんだよ! こう見えても俺はなあ…!」
兎角、聞く耳もたず抜刀、刀が一閃。
やくざ者、悲鳴を上げ、あわてて外へ這い出そうとする。帯が切れ、ふんど
しが落ちる。
兎角、やくざ者の着物の端を踏んづけ、尖っ先をやくざ者の顔に当てる。
やくざ者「ひいぃぃっ!」
兎角「(顔を寄せて)なあ、俺は何も命まで取るとは言ってねえぜ。出すもの出しゃ、
なんてことはねえんだよ。なあ。」
やくざ者「わかった! 払う、金は払うから助けてくれえっ!」
兎角、立ち上がってにやっと笑う。
「いいわっ、兎角先生っ!」「いい男ーっ!」「シビれるぅ!」などと
女達の喬声。
(45)一羽斎屋敷、座敷(夜)
兎角が一羽斎の布団脇に控えている。
兎角「お師匠様、今日は砂糖と申す南蛮渡来の薬を手に入れてまいりました。」
兎角、さりげなく部屋の中にちらちら
と視線を走らせている。
一羽斎「すまんのう…。しかしお前は、いつもいつも、こんな高価なものをどう
やって…?」
兎角「まあ、それは…多少、つてを頼って商いをしたりしておりますので…。」
一羽斎「そうか…無理はしないでくれよ。」
兎角「それはもう。では、ごゆるりとお休みを。」
兎角、一礼して(もう一度部屋の中をさりげなくぐるり見渡してから)出て
いく。
一羽斎はその意味にすでに気づいている。
(46)一羽斎屋敷、板の間(夜)
狭苦しい板の間で、小熊・泥之助・兎角が雑魚寝。
小熊、高いびき。泥之助、小さくなって眠っている。兎角は起きており、天
井をにらんでいる。
兎角の心の声「一羽流の伝書は、お師匠様の部屋の何処かにあるはずだ。でも、
いったい何処に…?」
兎角、寝返りを打つ。
兎角の心の声「俺は、何を考えている!」
小熊、寝返りを打つ。いびきが響く。
兎角、舌打ちしたげな顔。
兎角の心の声「そうだ、もう学ぶべきことは学んだんだ。いつまでもだらだら、
こんな無粋な連中と暮らしてても仕方ないだろう…。」
兎角、小熊たちに背を向ける。
兎角の心の声「バカ! 病気のお師匠様をおいて、出ていくつもりか? そんな
不義理なこと、できるか!」
兎角、目をつぶる。
窓の外で、虫が鳴く。
兎角の心の声「じゃあ、俺は、こんなところで病人や馬鹿どもと一緒に暮らしていて、
満足なのか…?」
兎角、また寝返りを打つ。
兎角の心の声「もういい、明日…考えよう。」
(47)近くの神社
木刀を手にした兎角と泥之助、気合いも激しく型の稽古中。
小熊、厳しい目で見ている。
(48)一羽斎屋敷、炊事場
泥之助が竈で飯炊き、兎角は囲炉裏で煮込み。
泥之助「兎角さん」
兎角「ん?」
泥之助「どうしたら、私の剣も兎角さんのように鋭くなれるのでしょうか。」
兎角「鋭く…俺が?」
兎角、苦笑いしながら鍋の蓋を取ってかき回す。
兎角「そういうのは、人に教わるもんじゃねえだろう。」
泥之助「そうですか?」
兎角「泥、剣なんてもんはな、結局、なんもかんも、自分でやるしかねえんだ。
たとい兄弟弟子でもな、兄弟は他人の始まりっていうんだぞ。他人の剣法に頼ろ
うったって、足をすくわれるのがオチさ。」
泥之助「(竈に薪をほうり込みながら)そういうもんですかねえ…」
兎角、あきれたような目で泥之助を一瞥。
(49)娼窟、奥部屋
半裸の兎角にすがり付くようにして目をつぶっているお冬。
兎角、何か考え込んでいる。
お冬、ふと目を開けて兎角をつねる。
兎角「痛っ!」
お冬「何を考えているの?」
兎角「何って…、(つっけんどんに)おめえにゃ関係ねえよ。」
お冬、もう一度つねる。
兎角「痛テッ!」
お冬「他の女の事を考えてるのね…悔しい!」
兎角「女?」
お冬「そうじゃありませんか。何だか、心ここにあらずで…。これじゃあたし…」
兎角「何を言って…」
兎角、抱き寄せようとするが、お冬に手を払われる。兎角、乱暴に組み敷き、
唇を吸う。
お冬、涙を流してる。
兎角、動きが止まる。
お冬「たしかにあたしは、何の取り柄もない汚れた女ですよ。そうじゃないかい?
だけどこんなあたしだってね…好きでこんな暮らししてるんじゃない。それを…
悔しいじゃないか!」
兎角、硬い表情でお冬から離れる。
お冬、静かに泣き続けている。
お冬「人なんて勝手なもんさ…誰だって、自分さえよけりゃあ、それまでよ、さね。」
兎角「お冬、俺は…」
お冬「格好つけるんじゃないよ。あんただって、ちょっと刀を使える他に、何の
取り柄があるって言うんだい?」
兎角、唇を噛んで考え込む。
お冬、泣きながら笑い出す。
お冬「行きなよ…もう用は済んだんだろ? 用が済んだ女のところにいつまでもいたっ
て、空しいだけさ。」
兎角、布団を払って立ち上がる。
(50)田んぼの畦道
鳥の鳴き声が聞こえる。
(51)田舎道
兎角、ボーッと歩いている。
やくざ者が歩いてくる。
やくざ者、兎角に気がつく。
兎角、考え込んでいて気がつかない。
そのまま通りすぎてしまう。
(52)利根川べり
兎角、流れる水を見ている。
ふと、石を拾い、飛び石をする。
繰り返し、何度も飛び石をする。
いきなり、後ろで足音。
兎角が振り向くと、屈強なチンピラや浪人たち一〇人に囲まれている。
兎角「何だ、お前等は…」
やくざ者、前へ出る。
やくざ者「やい、木っ葉浪人! この前は、よくもハジかかせてくれたな。」
兎角「なんだ、誰かと思えばこの前のヤリ逃げ野郎じゃないか…」
やくざ者、顔を真っ赤にして激怒。
やくざ者「うるせえやい! 兄ぃ、こいつをぶっ殺しちまってくれ!」
浪人B、無表情にゆっくり抜刀しながら進み出る。
浪人B「そういう訳だ。おまえさんに恨みがあるわけじゃないが、弟分に頼まれ
ちゃ、イヤとも言えないからな。」
兎角、浪人Bをじっと見つめる。
兎角「なあ、やめようぜ。」
浪人B、怪訝な表情。
やくざ者「どうした。おじけづいたな! ヘヘヘ…」
兎角、やくざ者を無視して浪人Bに。
兎角「あんた、それなりに修行積んだ人だろ……観りゃわかる。…勿体ねえ、
こんなつまらない喧嘩で怪我ァすることはねえよ。」
目つきが鋭くなる浪人。
やくざ者「なっ、何言ってやがる、頭でもおかしくなりやがったのか!」
兎角、やくざ者を無視して。
兎角「ひい、ふう、みい…十人だろ。あんたひとりがこいつら五人分として、合せて
十四人だろ。十四人じゃムリだぜ、諸岡一羽斎の弟子を斬るのは。」
いきり立つ一同。
やくざ者「ぬかしやがる…! やっちめえ!」
チンピラたちが手に手に刃物を持って
かかってくる。
兎角、これを素手でいなす。
浪人B、しばらく鋭い目で見ているが、隙を見つけて突き込む。
兎角の着物の袖が斬れる。
兎角、表情に余裕がなくなり抜刀。
川岸で大乱闘。
チンピラたち、次々と「たたっ斬」られ、利根川に血煙り・水しぶきが上が
る。
致命傷にならないところを斬られてのた打ち回るチンピラたちも。
返り血と跳ね泥と興奮で、目を剥いてものすごい形相の兎角。
浪人、かなり真剣な顔で切り込む。
兎角と浪人、凄惨な対決。刃と刃が絡み合い、ともに必死の表情で気合いも
激しく水煙をあげながら切り結ぶ。
その側で、泣きわめきながら転がる致命傷を受けてないチンピラたち。
ビショ濡れになりながら、ついに兎角の一撃が浪人を切り裂く。
浪人、無念の中にもなぜか安堵のような笑いを浮かべ、水に倒れる。
川面に、多量の血が流れていく。
悪鬼のような形相で荒い息をする兎角。
兎角、目を血走らせ、息のある者に片っ端からとどめを刺してゆく。
その迫力に腰を抜かすやくざ者。
兎角、冷酷な笑いを浮かべ、やくざ者ににじり寄る。
恐れで声も出ないやくざ者。
じりじりとにじり寄りる兎角。
這って逃げようとするやくざ者。
兎角、その背中に刃を突き立てる。
断末魔の悲鳴。
兎角、突き立てた刃をねじってから抜き取り、さらに突き立てる。返り血が、
兎角の冷酷な笑いを浮かべた顔に飛び散る。さらに突き立てる。悲鳴がかす
れていく。
背中を切り裂かれ、動かなくなっているやくざ者。
兎角、肩で呼吸し、冷酷な笑いで固まった顔のまま、自分の手を見る。
血が固まって、手のひらが刀に貼り着いてしまっている。兎角、まだ血の流
れている川に歩み入り、刀と顔と手と着物を洗う。
兎角「人ってなあ、こんなに簡単に斬れるもんだなんだなあ…小熊や泥との稽古
よりも、よっぽど簡単だぜ。」
刀と顔と手と着物を洗ってると、その側を流れる浪人の無残な死骸。
兎角、突然、激しく笑うかのような表情となり、いきなり嘔吐。
川面で、水と血と反吐が混ざり、死体といっしょにゆっくりと流れていく。
(53)ススキ野原(夕方)
夕陽にゆれるすすき。
(54)田んぼ(夕方)
農村の遠景。籠を背に家路をたどる農民のシルエット。
(55)川原(夕方)
S#52とは別の場所。
兎角、着物の前をはだけ、大の字になって鞘を握り、目をつぶっている。
虫(蜻蛉かなにか)が飛んでいく。
水面に夕陽が照り返す。
兎角の目に涙。
(56)一羽斎屋敷、土間(夕方)
むしろを敷いて食事中の小熊と泥之助。
そこへ、疲れ切った様子で帰ってくる兎角。
ムッとする小熊。
泥之助「遅かったですね、兎角さん。」
兎角、虚ろな目で二人を見る。
兎角「…ああ…ちょっとな。」
兎角、乱暴に草鞋を脱ぎ、洗い桶の水を足にぶっかける。
疑問顔で見ている泥之助と無視して粟飯をかっこむ小熊。
兎角、そのまま板の間に上がり込み、横になってしまう。
泥之助「兎角さん、飯は…」
兎角「いい。今日は食いたくない。」
心配そうに見ている泥之助。
小熊「泥、そんなやつほっとけ!」
兎角、睨むような視線を小熊に走らせようとするが、途中でやめる。小熊、
それに気づいていない。
(57)屋外(夜)
夜の帳が降りる。
(58)一羽斎屋敷、板の間(夜)
眠っている小熊と泥之助。
天井を睨んでいる兎角。
(59)屋外(朝)
夜が明ける。
(60)一羽斎屋敷、板の間(朝)
目を覚ます泥之助。
起き上がってキョロキョロ。
兎角がおらず、寝具もきれいに畳まれている。
泥之助「…小熊さん、小熊さん!」
(61)利根川べり(早朝)
小舟が川を下っていく。
舟に乗っているのは、旅装の兎角。ボーッと行く先を見ている。
(62)一羽斎屋敷、土間
脱力している泥之助。
荒々しく小熊が入ってくる。
小熊「あの野郎、どこにもいねえ!」
泥之助「…出てっちゃったんですね…」
小熊「許さねえ…病気の師匠をおいて出てくなんて…今から追いかけて…」
泥之助「無理ですよ、何処へ行ったのかも判らないのに。」
小熊、鉄鍋を蹴っとばす。
(63)一羽斎屋敷、座敷
布団に寝ている一羽斎。加減はよくなさそう。
側にいる和尚。
一羽に気づかれない風に、部屋外にひかえている泥之助。
和尚「逃げた?」
一羽斎「(弱々しく)兎角の奴も、耐えられなくなったようじゃ…。まあ、
むりも…ゴホッ…ないがのう。」
和尚、泥之助を一瞥。
泥之助、心ここにあらず。
和尚、一羽斎に顔を寄せる。
和尚「流儀の件はどうするつもりじゃ?」
はっとする泥之助。
和尚「巻き物じゃよ、免許皆伝の巻き物は…」
一羽斎「…奴が、持って、逃げた。」
和尚「持って、逃…」
和尚、はっと気がついて泥之助を見る。
泥之助、聞いてないふり。
和尚「泥之助、湯を持ってきてくれまいか?」
泥之助、うなずいて去る。
和尚「どうするんじゃ、一羽流は?」
一羽斎「ふっ、この体で伝書なぞ…」
和尚「もう書けんじゃろな。」
(64)一羽斎屋敷、縁側
泥之助、盗み聞きして唇を噛んでいる。
(65)船着き場
小舟に網の用意をしている小熊と、側に立つ泥之助。
小熊「なんだと! それじゃ…」
泥之助、うなずく。
小熊「野郎…兎角の野郎、絶対にゆるさねえ…居所が判りしだい、この俺が出向い
てたたっ斬ってやる!」
泥之助「だめだ、小熊さん。」
にらみ合う二人。
泥之助「今、ここには私たち二人しか残っていないんです。三人でも大変だった
お師匠様のお世話、私一人だけでどうしろと言うんですか!」
小熊「何だと!」
小熊、ぐっと息をのんで黙り込む。
泥之助も口惜しそうに水面を見ている。
小熊「だが、このままじゃおかねえ。絶対、このままじゃおかねえ! 見てろ…」
(66)江戸、常盤橋
「常盤橋」の文字。
そこは人通りの激しい町中。
所々に普請の槌音が響いてている。
字幕「江戸、文禄元年――」
露店が出て、大工のあんちゃんたちが、くっちゃべりながら立ち食いしてる。
非常に活気のある、建設中の町。
編み笠を被った武芸者、雑踏の中、肩で風を斬っていくが、ふと足を止める。
武芸者「卒爾ながら…このあたりに、微塵流・根岸兎角殿の道場があると聞いた…」
あんちゃん「ああ、この先ですよ。」
武芸者「…かたじけない。」
(67)微塵流道場、前
看板「微塵流 兵法指南 根岸兎角」
武芸者、看板の前に立って一瞥。
バシッ、と激しい打撃音。
(68)微塵流道場、内
打撃音でつなぐ。
肩を押さえ、うずくまる武芸者。
壁際に正座して見守る、大勢の兎角の門弟たち。
正面には「愛宕太郎坊大天狗」と大書された掛け軸。
派手な服装の兎角、あざ笑うかのような表情で木剣を肩にする。
兎角「弱くはないが、わが微塵流と戦うにはまだまだ修行が必要だねえ、あんた。」
武芸者、兎角を睨みつけるがぐっと怒りを抑え、
武芸者「…まいりました。」
兎角「ん。」
兎角、満足そうにうなずく。
(69)一羽斎屋敷、座敷
一羽斎、横になっている。
和尚が来ている。
和尚「江戸の町でえらい評判という噂じゃよ。いくら試合しても負け知らずだとか。
さすが、一羽斎先生の高弟じゃな。」
一羽斎嬉しさと悲しさの混ざった笑い。
和尚「とにかく、おおっぴらに天下一と名乗っておるそうじゃ。」
(70)一羽斎屋敷、炊事場
泥之助「それだけでなく、自分は愛宕山の天狗から剣術を習ったとか吹聴して、
流儀の名前も微塵流と名乗ってるっていう話です。先生の剣法を自分の工夫で
あるかのように…」
小熊、歯ぎしり。
小熊「お師匠様がこんな状態でなければ、今すぐにでもぶち殺しに行ってやるもの
を…」
泥之助「(呟くように)兎角さん…見損ないました。」
小熊「(聞きとがめ)なんだと? あいつは最初からそういう奴なんだよ! だい
たい、お前はボーッとしてるからだなあ、人を見る目がないんだよ!」
泥之助「はい…」
突然、和尚の声。
和尚「泥之助! 泥之助! 小熊殿…!」
(80)森の中の一つ墓
卒塔婆「(戒名の下)俗名 諸岡一羽斎 文禄二年夏」
和尚、舎利礼の読経を終える。後ろにいるのは小熊と泥之助だけ。
和尚「これから、どうする気じゃ。」
小熊「決まってます! 江戸へ出て、裏切り者の兎角めをぶちのめす! 駄目でも、
相討ちくらいにはなってやる。なあ、泥!」
泥之助、何となくうなずく。
和尚「しかし…二人とも江戸にいってしまっては、この地で一羽流の剣法を伝える
者がいなくなってしまうであろ。一羽斎先生の道場をどちらかが守らねば…。」
泥之助「(素早く)小熊さん、私が江戸へ行きます。小熊さんはお師匠様の教えを
守り伝えてください。」
小熊「な、何をぬかす! 俺に仇討ちを諦めろってか!」
泥之助「そうじゃない。御流儀は私でなく、小熊さんが伝えるべきだ。」
小熊「やかましい! お前が江戸へ行ったところで、返り討ちにあうだけだろうが!」
泥之助「小熊さんだって、兎角さんにはしょっちゅう後れを取ってたじゃないで
すか!」
小熊「なんだとぉ、貴様ァ!」
和尚「これこれ…墓の前で喧嘩する奴があるか! お師匠様が黄泉路で泣くぞ。」
はっと気が付く二人。
小熊「しかし、仇はこの俺が…」
泥之助「いいえ、小熊さんには一羽流剣法を守っていっていただかないと…」
和尚、ため息。
和尚「では、こうしたらどうじゃ。籤を作って、引いてみるのじゃ。籤は天の
お導きというぞ。」
二人、顔を見合わせる。
(81)一羽斎屋敷、座敷
小熊と泥之助、向き合って座っている。
泥之助、こよりを二本握っている。
小熊、真剣な顔で唸りながら紙縒りを見比べる。
泥之助の顔にも緊張。
泥之助「小熊さん、早くしてください。」
小熊「わかってる、畜生め…!」
小熊、右を取ろうとするが、やはり左、いやいややっぱり右と手を浮かす。
泥之助「小熊さん。」
小熊「うるさい! 集中できん!」
小熊、さらに手を左右へ遊ばせる。
泥之助、見ているうちに苛々してくる。
泥之助「小熊さん!」
小熊「うるさいと言って…!」
一本抜いてしまう。
小熊「あ・・・」
泥之介「あ・・・」
小熊「(焦って)い、今のは無しだ。」
泥之介「勝負にやり直しはありません。」
小熊「泥之介、貴様、兄弟子に向かって…」
泥之介、隙を見て小熊のこよりを奪い取り、残ったものと比べる。
小熊「こらっ、泥之介!」
泥之介「…当たりです、小熊さん。」
小熊「なに?」
泥之介「江戸へ行くのは小熊さん。ここに残るのは私…そうなりました。」
小熊「(呆然としてから、はっと気がついて大笑)そうだろ、そうだろ! 仇討ちは
俺の役目だ、天がそう命じたってわけだ!」
大喜びで部屋を出て行く小熊。
その背中を複雑な表情で見ている泥之介。
(82)鹿島神宮
雨が降っている。
拝殿前の砂利に、びしょ濡れのまま無言でぬかずく泥之介。
泥之介の声「なお、万に一つ小熊に利無き時は、それがし江戸へ上り兎角と雌雄を
決すべし。千に一つそれがしをも敗れれば、生きてここへ戻り、社殿にて腹かっ
さばいて神宮を汚し、未来永劫、狐狸の類の棲家となさん。これ、まったく
私欲によるものならず、ただ亡き師の恩に報いんがためなり。
よって件の如し。」
懐より出した書状を拝殿に供え、二礼、柏手をうって地に伏拝。
遠くで雷が落ちる。
(83)江戸、常盤橋
雨曝しの格好の小熊、橋のたもとに高札を立てて、その前に刀を抱いて座り
込み、ニヤリ。
その前を、高札を眺めながら通りすぎる人々。
(84)微塵流道場、内
門弟A「お師匠様は捨て置けと言われるが、どうにも我慢ならん! 勝手に
天下無双を名乗られて、黙って見てろというのか!?」
門弟B「『天下無双 一羽流 岩間小熊』…聞いたことないけどなあ。」
門弟C「いずれは田舎の剣客だろうが…」
門弟A「天下一は、我らがお師匠様、根岸兎角先生ただ一人! なにが、『剣法に
望みの人あれば一手御指南仕る…』だ!」
門弟C「まあまあ…名を上げたいがためにそうやって喧嘩を売ってる田舎者よ。」
門弟D「(駆け込んできて)おーい、聞いたか!? この前の道場破りが常盤橋の男と
勝負するらしいぞ!」
(85)江戸、常盤橋
双方木剣での静かな太刀廻り。
長い睨み合いの後、勝負は一手で終る。それは、兎角のときとまったく同じ技
武芸者「がっ…!」
武芸者、木剣を取り落として膝をつく。
歓声を上げる野次馬。
木剣を手にニヤリとする小熊。
観衆の中に混じっている微塵流の門弟たち。
(86)微塵流道場、内
兎角、しずかに酒を飲んでいる。
兎角「小熊が、なあ…」
(87)一膳飯屋
町人A「ふうん、また勝ったのかい、あの橋の男。」
町人B「こうなるともう、江戸でも敵うのは微塵流の兎角先生しかいねえんじゃ
ないのかい?」
離れたところで聞いてる門弟A
町人A「あ~、だめだめ。微塵流一門は、あいつには手を出すなって言われてる
らしいぜ。」
町人B「なんでだ、そりゃ?」
町人A「恐えんだろ、兎角先生も、あの常盤橋の男が。」
大笑いする町人達。
憤懣やるかたない門弟A。
(88)微塵流道場、内
兎角、しずかに酒を飲んでいる。
門弟D「お師匠様! 大変です」
(89)江戸、常盤橋
野次馬の人だかり。
その中を戸板で運ばれていく門弟A。
得意げな小熊。
小熊「(大声)なにが愛宕天狗だ! 微塵流なんざ、こんなもんなんだぜ!」
わっ、と野次馬たちの喚声。
(90)微塵流道場、内
運ばれていく門弟A。
喧騒。やがてみんな去り、兎角だけが残る。
兎角「だから捨て置けと言ったんだ。お前らが敵う相手じゃ無え。」
兎角、立ち上がって刀を取る。
兎角「小熊…斬るしかないのか、あんたを。」
甲高い気合とともに居合一閃。
道場の戸板が二つに切れて倒れる。
(91)江戸、常盤橋
夜明け。
橋のたもとに置かれた果たし状。
太鼓の音。
書状を前に、刀を抱き、橋に向かってあぐらをかいてる小熊。
(92)江戸、町中
太鼓の音。
陣羽織に鉢巻で、太刀を手に歩く兎角。
離れて着いてくる門弟達と野次馬。
(93)江戸、常盤橋
太鼓の音。
あぐらをかいてる小熊。
(94)江戸、町中
太鼓の音。
太刀を手に歩く兎角。
(95)江戸、常盤橋
太鼓の連打。
小熊、ふと顔を上げる。
反対側に兎角が立っている。
ゆっくりと立ち上がる小熊。
これまで以上の数の野次馬。
(96)城の天守閣
殿様(徳川家康)や家臣達も、いろいろ話ながら常盤橋の方を眺めている。
(97)江戸、常盤橋
しばらくにらみ合う両者。
群集が次第に静まってくる。
通り抜ける風。
眼下の川には鯉が泳いでいる。
複雑な表情で見詰める兎角。
無表情の小熊。
小熊「…いざ。(大刀を抜く。)」
兎角「おう。(大刀を抜く。)」
両者、しずかに構える。
川では、そんなことにかまわず鯉が泳いでいる。羽虫も飛ぶ。
兎角が先に飛び出し、橋の上で斬り合いとなる。
決死の使い手どうし、ほぼ互角の腕前。
やがて鍔ぜり合いとなるが、兎角が押し、橋の欄干に小熊を押し付ける。
激しい息遣いで押し合う両者。
その瞬間、小熊が体を入れ替え、兎角の足をすくう。
兎角「あーーーッ!!」
叫び声とともに川に落ちる兎角。
小熊「(絶叫)兎角、見たかッ!!」
兎角、水面に顔を出す。
小熊、まだやっつけ足りないといわんばかりに、鼻息も荒く、欄干に斬りつ
ける。
兎角、観念した表情で静かに水に潜っていく。
(98)江戸、神田川べり
かなり離れた岸。
水を垂らしながら岸に上がる兎角。
着物の水を絞っていると、門弟達が駆けつけてくる。
兎角「…足を攻めてくるとはなあ。小熊のやつをあなどったのが俺の不覚。」
門弟達「(口々に)兎角先生!」
兎角「剣の道はまったく深い…まだまだ俺も修行が足りねえや。」
門弟B「し、しかし…」
兎角「実はな、愛宕大天狗ってのは真っ赤な偽り。俺はあの岩間小熊と同じ、
師岡一羽斎先生の弟子なんだ。」
おどろく門弟達。
兎角「しかしこうなっちゃしょうがねえ…道場の神棚にある巻物な、あれは小熊に
返しとけ。もとはといやあいつが受け継ぐべきものだ。」
門弟C「兎角先生?」
兎角「俺はこのまま旅に出る。修行のやり直しだよ。お前たちともおさらばだな。」
門弟B「し、しかし私たちはこれからどうしたら…」
兎角「小熊に剣法を習えや。あいつもなかなかの使い手だぞ、何しろ俺に勝ったん
だからな。」
ぬれた着物を着ながら大笑いする兎角。
兎角「じゃ、みんな。達者で暮らせよ。」
門弟たち「兎角先生!!」
兎角、振り向かずに手を振って去ってしまう。
口惜しそうに顔を見合う門弟達。
(99)微塵流道場、内
小熊が乗り込んでくる。
道場内に居並んで平伏してる門弟達。
小熊、門弟達を無視して師範の座へ。
そして、三宝に乗せられてる巻き物を手に取る。
小熊「これが…お師匠様の…」
手早く紐を解き、さっ、と開く。
小熊、怪訝な顔で巻き物をめくっていく。だんだん焦り顔。
小熊「おい! 兎角の奴、伝書をどこへ隠した!?」
門弟C「は? それが伝書でございます。兎角先生から、小熊先生にお渡しする
ようにと。」
小熊「ニセモノじゃあんめえな?」
門弟C「めっそうもない。」
小熊「そうか…(巻物を乱暴に戻しながら)で、てめえらは兎角の門弟かい?」
門弟C「はい。本日から、岩間小熊先生の門弟となることをお許しください。」
小熊「(満足そう)ほう。殊勝な心がけだな。」
門弟C「それが兎角先生の命なれば…」
小熊サッと顔色が変わる。
小熊「兎角、兎角、兎角…あんな奴のどこがよくてそんなこと言うんだ、てめえら
まで!?」
驚く門弟達。
小熊「ええ? どうなんだよ!」
門弟Cを蹴飛ばす。ふっとぶ門弟C。
小熊「俺はあんな奴とは違うぞ。今からさっそく稽古つけてやる。木剣持って
かかってこい!」
小熊、手近の木刀を取ってぶんぶん振り回す。
戸惑う門弟達。
小熊「どうした! 兎角の門弟は、腰抜けぞろいか?」
耐え切れずに一人が木剣を取り、気合とともに斬りかかる。
が、一撃くらって倒れ、叩かれたところを抑えてうめく。
次、次と掛かっていくが、やはり小熊にやられてしまう。
やがて道場の中は、打撲に苦しむ者たちで死屍累々。
小熊も息が荒いが、どことなく満足そうな表情。
小熊「ふぅ~。ちょぃと汗かいたぜ。おい、おまえら! お師匠様が風呂を
所望だぞ。とっとと湯を沸かせ!」
満身創痍の門弟達、不服そうな表情ながら部屋を出て行く。
(100)微塵流道場、風呂場
もうもうと湯気が立っている
小熊「ふぃ~…」
リラックスして、褌一丁で入ってくる。
その後についてくる、襷姿の満身創痍の門弟たち。
門弟C「お背中を。」
小熊「おう、流せ。」
どかっ、と座り込む小熊。
門弟C、背中を流し始める。
小熊「もっと力入れろぃ! このヘタレども!」
門弟C、顔を歪めるが、見せないように。
小熊「ところで、なんで背中流すのにこんなに大勢で…」
門弟C、焦って合図。
門弟たち、小熊にとびつき、抱え上げる。
小熊「なっ、何をする!?」
門弟C「それっ!!」
門弟たち、小熊を風呂桶に叩き込む。
小熊、断末魔の絶叫。飛び出そうとするが、風呂の蓋で抑え込まれる。
門弟C「いくら貴様でも熱湯には敵うまい! 兎角先生の仇!」
全身火傷状態の小熊、風呂の蓋を叩き破って飛び出し、門弟Cの首を絞める。
絶叫。
風呂桶が倒れ、盛大な湯気。
ホワイトアウト。
(101)微塵流道場、葬儀場
ろうそくの炎からF.I.。
粗末な祭壇に位牌と骨壷がいくつか置 かれて、乞食坊主がお経を上げている。
葬式のようだが、参列者は誰もいない。
そこへやってくる、編笠の男(泥之介)。
乞食坊主、驚いてお経をとちる。
泥之介、位牌の一つを覗き込む。
位牌の文字「~~、俗名 岩間小熊」
泥之介「遅かったか…」
泥之介、位牌に手を合わせる。
しばらく瞑目していたが、いきなり位牌と遺骨を奪うように持ち去ろうとす
る。
乞食坊主「も、もし!?」
泥之介「身内の者です。」
(102)微塵流道場、道場
泥之介、師範席の三宝にある巻き物を凝視。
そこへ喪服姿の門弟たちが駆け込んでくる。
門弟たち「待てい!」「狼藉者!」「位牌泥棒!」
どたどたと現れ、泥之介を取り囲む。
泥之介「あやしい者ではございません。常陸の国江戸崎の住人、土子泥之介と申す
者。兎角さんや小熊さんの弟弟子です。」
門弟A「弟弟子だ?」
泥之介「小熊さんの遺骨と一羽斎先生の伝書を江戸崎に持って帰るため、受け取りに
まいりました。」
門弟A「そんな勝手を許すか! 第一、弟弟子だと言う証拠があるのか!?」
門弟D「そ、そうだ。証拠をみせろ!」
泥之介「証拠? どのような…」
門弟A「…では伝書の内容を言ってみろ!」
泥之介「伝書を見たことは無いので言えません。」
門弟たち、一斉に嘲笑。
門弟A「それじゃ、太刀筋で見せてもらおうかな。」
スラリ、と剣を抜く。
泥之介「まて。私はあなた方と闘うために来たのではない。奪われたものを返して
もらえればそれでよいのです。」
門弟たち、抜刀。
門弟A「問答無用!!」
泥之介に斬りかかる門弟A。
泥之介、必死に避けていたが追いつめられ、ついに抜打ち。
悲鳴を挙げて崩れ落ちる門弟A。
門弟たち「おおっ!」「斬った」「斬った」
泥之介「あ、いえ、私は…」
門弟D「こやつ生かして帰すな!」
道場内で壮絶な斬り合い。
泥之介、悲しそうな顔をして門弟たちを全員斬ってしまう。しかし血はあま
り飛ばない。
着物の端々が切れ、息も荒い泥之介。
血ぶるいもせず刀を納めると、師範席にどかどかんと上がり、巻き物をサッ
と開く。
死屍累々の床に伸びる、白紙の巻き物。
泥之介「これが…お師匠様の教え…剣法一羽流の極意だというのか。こんなものの
ために…」
泥之介、巻き物を踏みにじろうとする
が、戸惑い、そして考え直し、丁寧に
巻き戻す。
巻き物を大切そうに懐に仕舞うと、遺骨と位牌を抱いて去りかける。
泥之介、出口で軽く振り向き。
泥之介「みなさん、峰打ちですよ。私は常陸の国・江戸崎の住人、諸岡一羽斎の
門弟の土子泥之介。意趣返しがしたければいつでも江戸崎へ御出でください。」
そしてそのまま出て行く。
一人、また一人と、不思議そうな表情で起き上がる門弟たち。
(103)一膳飯屋
(#29の続き)
親爺「…と、いうわけでさ。」
親爺、煙草の灰を落とす。
親爺「その後、道場は廃れて、いつしか取り壊されたんで。」
朝勝「なるほど…そんなことが…小熊は死んだか…。そしてあの泥之介が…。
(溜息)」
親爺「土子泥之介は、常陸の国で御流儀を守って、今では一羽流の大先生、大勢の
門弟を育ててるということでさ。」
朝勝「(つぶやき)お師匠様の、本当の跡継ぎは泥だったということだな…(親爺に)
いや、かたじけない。拙者、そろそろ…(銭を置き、立ち上がって去ろうとする)」
親爺「あ、もし! お武家様、あなた様はもしや…」
朝勝「うん?」
振り向いて、唇にひとさし指を当てる朝勝。その顔は、歳をとってはいるが
兎角その人だった。
(104)江戸、常盤橋
釈杖をついてやってくる旅の雲水。
橋の上で足を止め、欄干に手をかける。
そこには、斬り込んだ跡。
雲水は出家した朝勝。
朝勝、愛剣を川に捨てようとするが、
ふと考え直す。
朝勝「…これもまた剣法。…心正しければ、他人の剣法もまた剣法…泥は。
でも、俺は俺の剣法を残したよ。」
溜息を吐くと、刀を腰に戻し、経文をつぶやきながら去っていく。
終
■エンディングテーマ
「他人の剣法」
https://tmbox.net/pl/1170460
■登場人物
<人物>
兎角:根岸兎角。長身でいろいろと小才のある男。
小熊:岩間小熊。小太りで力持ちの豪傑風。正義漢だが兎角とは仲が悪い。
泥之助:土子泥之助。真面目一辺倒の小柄な青年。
一羽斎:師岡一羽斎。3人の師匠の老剣士だが、重病で寝たきり。
和尚:一羽斎の親友。
朝勝:信太朝勝。剣術の達人で謎の老人。
同心:若い同心。
小物A:年寄りの小物。
浪人A:辻斬り。
番太:時報を告げる男。
弟子A:朝勝の門弟。
家老:黒田藩家老。
殿:黒田侯。
お冬:淫売宿の女で兎角のなじみ。
やくざ者:兎角を恨んでる男。
浪人B:やくざ者の用心棒。
武芸者:旅の男。兎角に挑んで敗れる。
門弟A:兎角の門弟
門弟B:兎角の門弟
門弟C:兎角の門弟
門弟D:兎角の門弟
町人A:
町人B:
乞食坊主:葬儀の経を上げる。
徳川家康:天守閣から決闘を見守る。
親爺:一膳飯屋の親爺。朝勝に、「常盤橋の決闘」の顛末を語る。