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空の飛び方  作者: 著:ナースロボ_タイプT 代筆:かくは夜は垂れ、白線へ赴く
1/1

#1 日記の代替を

日付を書き、その日にあった出来事と体調を記載する。

そんなカルテを紙に書き記す。


紙には換えがいくらでもある。パーツには換えはあるけれど、限りがある。そして、君には換えがない。


そう、覚えている。


記録を始めたのは6月。梅雨の終わり頃。

湿度70%前後の環境は、まだ紙の保存には不向きと言えた。

湿気を帯びた紙にわたしは記録を始める。

あなたの名前は姓と名の構造をしていない。

自身を寓話と括るあなたの、深緋の瞳孔を視認できなくなる。

空室だらけのこの館に、扉は二つ。

玄関と、あなたの部屋の扉のみ。


そうして書き始めた記録がカルテではなくなったのは3日前。

6.2畳の部屋から出る日のこと。


内開きの扉を止める金具を隠して置かれた段ボールから、120サイズのものを取り出す。

ナースバン90×70mm120枚入が8箱入る段ボール箱に、あなたは本を詰めていく。

105×148mm。128×182mm。135×188mm。148×210mm。

噛み合わない大きさで底を隠す。

148×210mm、135×188mm、148×210mmで詰めた本は、段ボールの厚みにより僅かに曲線を描いた。

積み上げるほどに増す傾きに、あなたは蓋をする。


わたしの進捗を聞かれる。

文具、家電、食器、調理器具。

本以外をわたしが担当していた。

緩衝材で包装し、衣服で隙間を埋めた段ボール箱は、あなたの詰めた箱より幾分か軽い。

3箱目を積み上げ、残りがデスク周りだけであることを告げる。


一言、短い返事をし、あなたはデスクへ向かう。

子供用の勉強机には引き出しが5つある。

文具。電子機器とコード。小物。娯楽品。

予め棲み分けられた固まりを半透明の袋に詰め、わたしの前に置いていく。

置かれた袋を拾い上げ、結び目を作り、仕舞う。

袋は空気を含み、互いに距離が生じた。


あなたは最後の引き出しを開ける。

そこには142枚の紙がある。

寓話『ミザリィ』のカルテ。

鍵は壊れていた。


鞄を持たないわたしにはもう持ちきれなくなってしまった束の、その1枚目をあなたは手にとる。

小さな声量で「空白ばかり」と漏らしていた。

二枚目を手にすることなく引き出しは閉まる。


あなたは素足でわたしの稼働範囲に入り込む。

深縹の虹彩に、オレンジの色彩が映りこむ。

深緋の瞳孔は半円を象っている。


あなたの瞬きを4度視認し、視覚を遮るように伸ばされたあなたの腕を掴む。

それ以上近づくことのなくなった手から徐々に力が抜ける。

掴む力を抑えると、あなたの腕は胴の横へと収まった。


口内が確認できる距離で、あなたは発する。


日記の代筆を。

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