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神様、妹になる  作者: 白影ゆうき


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9/11

神様、メイドになる

「おかえりなさいませご主人様」

 銀髪のツインテールによく似あった白黒のメイド服。スカートのフリルから伸びるスラリと細い足。

 屈託のない笑顔は、心に元気を与える栄養剤。悔しいがこれほどメイド服が似合う人は中々いないだろう。まぁ、人ではないんだが。


「りんりん凄くいいね!」


 りんりんとは鈴の源氏名のようなもので、お客様に自己紹介などをする際に使う仮の名前だ。

 鈴のメイド姿を見て褒めるのは、この店のレジェンドメイド『まいまい』

 メイド歴20年のベテランで、仮に高校生から始めたとしても年齢は…………まぁ邪推はやめておこう。

 まいまい先輩のようなレジェンドメイドの元であれば、少しは真っ当になるだろうと安心した俺は、出されたコーヒーを口にしてホッと一息ついた。

 優雅な時間を過ごしていると鈴がこちらに近づいてきた。


「……なんだ、りんりんよ」


「……なんで私だけが働いているのよ」


「……ふっ」


 カップに手を伸ばし、口元へ運ぶ。

 カップから大人な香りはビターで味も苦かった。


「俺が……バイトに落ちたからだよ」


 そう。俺はキッチンの応募に落ちてしまったのだ。

 と言うのも、最近はストーカーなどのリスクを懸念して、女性しか雇わないメイド喫茶も珍しくなく。例に漏れず俺も書類選考で落とされていた。

 しかし、ここで鈴がバイトを辞めてしまっては振り出しに戻る。

 危惧した俺は、スマホを取り出し鈴に向けた。


「妹の働く姿をしっかりと納めないと!」


 カメラに反応してクルリと回りポーズを取る鈴。


「ああ、すごくいい! このまま妹が一生懸命働いている姿も納められればなぁ」


「任せて! お兄ちゃんの為にりんりんしっかり働くから!」


 傍目から見れば、働かない兄の為に稼ぐ妹の姿。

 周りの客も、俺に悲惨な視線を向ける。

(大丈夫。これも全部願いの為……ぐすん)


「りんりんのお兄さん、すごいね……」


 まいまいの引き攣った顔。

 全く違う意味合いで捉えた鈴は「そうなの! お兄ちゃんはすごいの!」と返した。

 その一言に、俺の心は深くえぐられた。


 カランカランと扉が開く。

 緊張した様子の男性二人組が足を止め、視線を泳がせていた。


「りんりん、お声かけして」とまいまい先輩。


「どしたん?」

 友達に声をかけるみたいな軽さで、鈴が笑顔を向ける。


「えっと……初めてで、その……」

 男性客の手がハンカチをきゅっと握る。


「へー、立ちっぱなしも疲れるし、とりあえず座ったら?」


 ……沈黙。

 場が凍りついた瞬間、まいまい先輩がすかさず前に出る。

 華やかな笑顔と完璧なお辞儀で「おかえりなさいませ、ご主人様!」


 鈴はキッチンへ引きずられていった。


「りんりん! ご主人様お嬢様には敬語で接さなきゃダメ!」


「敬語ってよくわかんない」


 ……なるほど。

 採用面接で「はい」「まぁーそうです」しか言わなかったのに受かった理由、今ようやく腑に落ちた。


(まいまい先輩、教育係のバトンは全力でお渡しします)


 鈴の暴走は止まらなかった。

 配膳された料理に堂々と手を伸ばし、ひと口パクリ。


「ちょっ……え? これって……」と客が目を丸くする。


「安心してください! 毒見です!」

 満面の笑顔で断言。


 ……毒なんて入ってるわけがないのに、鈴の笑顔に胸を撃たれ、ついでに食べかけの部分から口をつける始末。


 次はオムライス。

「何かいてほしいの?」と聞いたかと思えば──リクエストの「♡」を完全スルー。

 皿いっぱいにケチャップを走らせ、数分後。


「……これは……最後の晩餐!?」


 精緻な人物画、机、食器。どう見てもアート作品。

「私の芸術も捨てたもんじゃないでしょう?」と胸を張る鈴に、客たちがスマホを取り出し、オムライスの注文が殺到した。


 ……いや、俺の想定してた「社会勉強」とは完全に違う方向に行ってるんだが。

 鈴のオムライスイラストがSNSで拡散され、芋づる式に客が来るもんだから、まいまい先輩も「もう、りんりんの好きにしちゃって!」と完全に店を乗っ取られている。

 店内にはりんりんコールが響き渡り、調子付いた鈴。


「今日来てくれたみんなの為にもとっておきを見せてあげる!」


 神の姿に変身し、それを見た客も店員もまいまい先輩も跪いた。

 天を仰ぐように祈りを捧げる者。涙を流して「奇跡じゃ」と吐露する者。「りんりんはメイド界のレジェンドだわ」と戯言を垂れるまいまい先輩。

 流石に度が過ぎると判断した俺は、鈴の手を取り強引に店の外に出た。


「やりすぎだ!」と注意する間もなく、店の客たちが俺を追いかけてきた。


「りんりんを誘拐したぞ!」「過激派オタクは死刑!」「家に帰してほしいぜよ!」


 俺が鈴を拉致したと感じがいした様だ。

「鈴は俺の妹だ!」と弁明するも「りんりんはみんなの妹だ!」と訳の分からない事を言い返し理解されない。


「お前が引き起こした事態だろ! 何とかしろ!」


「えぇ、良い信仰者なのに……」


 完全に神視点で物を見ている。

 良くない…………良くない状況だが、それ以上の追われている状況の方が良くない!

 俺は惜しみなく鈴に名の見込む。


「お願いします。しがない兄を救うと思って、何とかして頂けませんか?」


 鈴は後ろの信者たちを惜しい表情見つめるも「まぁ、お兄ちゃんがそう言うなら」と信者たちに神格で記憶操作し、事なきを得た。

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