神様、迷子を助ける
俺と鈴は自己紹介をして少女の警戒心を和らげつつ、名前を尋ねた。
「よ、ようこ」
「ようこちゃんかぁ、可愛い名前だね」
「妖狐? 妖の類かしら」「お前は一旦黙ってろ」
佐々木陽子ちゃん。5歳。母親とお出かけ中にはぐれてしまった。
「ことの経緯はこんな感じだな。あとは……お前の奉仕だろ?」
こいつに任せてもいいのかと、不安な気持ちになりながらも鈴に引き継いだ。
鈴はポケットから小さな勾玉を取り出した。
少女は勾玉をじっと見つめて、「……きれい」と目を輝かせる。
鈴はにこりと笑い、そっと勾玉を陽子の首にかけた。
「これを付けていればお母さんに会えるわ」
(なんだ、やればできるじゃないか)と安心してしまった。
鈴が神格を使って良くなった試しがないことを忘れたかったのかもしれない。
遠くから、足音とともに人影が全速力で近づいてくる。
「お! お母さんが来て……くれ、た!?」
俺は目を疑った。先頭の女性を筆頭に、大勢の女性がこちらに全速力で駆け寄ってきた。
物々しい出来事に、俺は少女を抱きかかえて女性群から走って逃げた。
「おおおい! これどういう効果だよ!?」
全力で走りながら鈴に食って掛かった。
「ようこちゃんを中心に半径100メートルにいる大人の女の人が近寄ってくるアイテムよ!」
親指を立ててドヤ顔を決め込む。すごく腹が立つ。
「見境なさすぎだろ! 本物のお母さんはいるのかよ!」
少女は追いかけてくる女性陣の中に母親がいるか探すも「あそこにはいない」と答えた。
「じゃあ、意味ねぇじゃねぇぇか!」
俺は少女の首にかかった勾玉を外して明後日の方向に投げた。すると女性群も、勾玉の方へ向かって行って事態は収拾(?)した。
息を切らしながら、文句を垂れる。
「お前と一緒にいると、ロクな目に合わねぇ」
「仕方ないわね、じゃあ次は……」
鈴は先程とは逆のポケットに手を入れ物色を始める。
(うちの制服のスカートってそんなに物が入るのか?)
「じゃじゃーん! 転送フラワー!」
鈴が取り出したのは、手のひらサイズの向日葵形バッジだ。
「それマジでやめろ!」
(どこぞの便利ロボットかよ)とツッコミを入れたくなる俺に構わず、鈴はニヤリと笑って女の子にバッジを差し出す。少女は目を輝かせた。
「かわいい……」
「可愛いでしょう?」鈴は満足げに胸元へバッジを着ける。
「待て、それはどういう効果があるんだ?」
先程の出来事を踏まえて先に効果の確認を取る。
「これは、行きたいところを思い浮かべながらボタンを押したら、そこに瞬間移動する優れものよ!」と、またも自信満々に親指を立てる。
効果だけ聞けば、俺も欲しいと思える超優秀なアイテムだが。
「……デメリットは?」
「わんちゃん時間軸がズレるかもしれないから、行った先が100年後かもしれないし、100年前かもしれないけど……まぁ大丈夫でしょう」
俺は少女の胸元に付いたバッジを掴むと、ためらわず踏みつけて破壊した。
「なんで壊すのよ!」鈴が叫ぶ。
「お前がそんなポンコツ道具を出すからだろ! 百年後とか百年前とか、救いようがねぇだろ!」
変なアイテムや魔法に頼らず、普通に母親を探すように命じた。姫島先輩に叱責される可能性をほのめかすと、鈴はぐうの音も出ず、観念したように頷いた。
始めに少女がいた場所に戻り、とりあえず周辺の建物を調べた。
特に主婦が立ち寄りそうなスーパーや百貨店など、しらみつぶしに歩いた。
しかし、それらしい人物には出会わなかった。
俺は改めて、少女に訪ねた。
「ようこちゃんのお母さんの特徴……見た目ってどんな感じかな?」
「えっと、おにいちゃんよりも大きくて」
(俺より大きい……170センチ以上)
「おねえちゃんよりも髪が長くて」
(ロングヘアかな?)
「世界で一番強いお母さん!」
(…………わからん!)
唯一の手掛かりとなりそうなのは、俺より大きいってこと。
女性の中でも割と長身って考えれば、絞れないこともないが……。
「おにいちゃん、あの人すごい大きいわよ」
鈴の指す方を見ると、2メートルはありそうな大柄な後ろ姿。
「それに髪も長いわよ」
確かに腰に届きそうな長髪だが……あの筋骨隆々な姿はどう見ても。
「お母さん!」
少女の呼び声に、大柄な筋肉質の人物が物凄い速さで振り返る。
少女はその人物に手を振っている。
「え、え? あれが君のお母さん?」
「うん!」満面の笑みで頷くと、少女は母親の元に走っていった。
ピンク色のエプロンをピチピチに来ている母親たる人物の顔を見ても、口の周りに来い髭を生やし、堀の深い顔はどう見ても男性だった。
大柄な男性は少女を抱きかかえると、こちらに歩み寄ってきた。
別に悪いことをしたわけではないのに、圧の凄みに縮こまる。
「この度は、娘がご迷惑をお掛けしました」
深々と頭を下げる母親。
見た目に反して、丁寧で優しかった。
その姿に俺の緊張も解れ、大丈夫ですよと言うが先に。
「ようこちゃんのお母さんは男の人だったの!?」と口走る鈴。
「バカ! 何言ってんだ!」俺は鈴の口を抑え、少女の母親に頭を下げた。
「すみません! 連れが失礼な事を!」
(もうだめだ! 殺される!)
心内で遺書を書き残していたら。
「いいのよ。気にしないで」
怒ることなく、大らかな態度で返してくれた。
どうやら、幼くして母親を亡くした娘の為に父親兼母親として育てて来たそうで、今日は母親の日だったらしい。
「おにいちゃん、おねえちゃんありがとう!」少女は俺と鈴に手を振りながらお母さんと一緒に帰っていった。
「神格がなくてもちゃんと解決できるだろ?」
「……まぁね! 私にかかればこれくらい余裕だし!」
見栄を張る鈴の表情はどこか照れくさそうに笑っていた。
次の日。
俺と鈴は事の出来事を姫島先輩に報告するべく、生徒会室に来ていた。
姫島先輩は高級な椅子に座り窓側をずっと見ていたので、俺たちは椅子の背もたれに向かって報告した。
「ってことがあったんですが、ちゃんと解決出来ました」
俺は、鈴が無茶せずに奉仕活動したことを報告した。
鈴も鼻を伸ばし、誇らしげにしている。
「…………」
姫島先輩から何も返事がない。
「あの……先輩?」
「君たち……昨日、何か問題を起こさなかったかい?」
椅子を回転させてこちらに顔を向ける。
その表情はどこか重く暗い。
「問題は……特に」
すると、先輩は重厚感ある机の引き出しを開け、取り出した物を机に置いた。
それを見て、俺と鈴は一気に血の気が引いた。
「これは『人寄せの勾玉』だ。昨日のとある場所に女性が群がって、ちょっとした騒ぎになってたよ」
机の上で勾玉をころころ転がす仕草は、すべてを理解した上で敢えて俺たちに問うていた。『本当に問題はなかったのか』と。
「でも、ようこちゃん喜んでたし……」と言い訳する鈴だが。
「あ?」
「「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
全力的誠心誠意の土下座のおかげもあってか、1か月生徒会の雑用係の罰だけで済んだ。




