神様、監視される
俺と鈴の前に現れたのは、生徒会長の姫島雪奈……ではなく、神見習い監視官のラフィーネ・フィローゼだった。
普段は男女問わず人気の高い姫島先輩だが、ラフィーネとして現れた姿はまるで別人。
短めの髪を耳にかけ、鋭い藍色の瞳。制服をきちんと着こなし、肩幅の広さがボーイッシュな印象を際立たせる。
腰まで届きそうな髪と、鈴と同じ金色に輝く瞳の変化は、普段の先輩の印象とはまったく違った。
「君の授業態度は目に余るものがある。まずは最低限の常識を再度認識してもらうため、放課後私の所まで来ること」
「えー、鈴何もしてないのにー?」
(いや、十分しでかしているだろ……)
俺は心の中でツッコミを入れつつ、場の雰囲気に押される。
「神界法の騒乱罪に該当する。人間界の平穏を無秩序に乱すその行い。我々も看過できない」
確かに会長の言うことはもっともだ。人間ではない驚きもあるが、それ以上に、しっかり働いてくれる姿に感動すら覚える。
「ほら、監視官もああ言ってるから。放課後、忘れずに行くんだぞ」
「……でも」
「お兄ちゃん命令な」
俺の威圧に、鈴は渋々ながら頷いた。
放課後――
教室を出ると、鈴は落ち込んだ様子で俺の隣を歩く。
「お兄ちゃん、今日は私、監視官ラフィーネ先輩に指導されちゃうんだよ?」
「自業自得だし、俺に言われても困る……」
(今日一日。俺の平凡な高校生活は、完全に破壊されっぱなしだ)
廊下の奥、職員室の隣の空き教室に向かうと、ラフィーネが既に立って待っていた。
「では始める。まずは人間界の最低限の常識を、君に再認識してもらう」
鈴はカバンの中から自分の背丈の半分くらいの分厚い本を取り出した。
(え……それどうやって入ってたの?)
「358ページの42項。神格と理の正を読んでみたまえ」
「えーっと、神格は地上での使用を基本的に禁止とする。正し、人類の救助及び神の威厳を保つためであればその限りにあらず」
つまり、人助けの時か神が侮辱されたときの天罰の時だけ神様の力を使っていいということだ。
聞いている分にはおかしなところはない。しかし、それを平気で破る鈴は、やんちゃを通り越して天災そのものだ。
「その文を読んだ上で、本日の行いを振り返ってみよ」
「えっと、数学は私が解けないと侮った教師がいたので、信仰心がないと判断しました。また歴史の授業は人類の知恵の発展に尽力すべく偉人を召喚しました」
自分の行動を正当化するかのように言い訳を並べる鈴の真剣な表情に、俺は思わず錯覚しかける。
(あれ……こっちが間違えているんじゃ……?)
しかしラフィーネには通用しなかった。
「はぁ……。君には力を制限する必要がありそうですね」
鈴はギョッとした表情で後ろに下がり、会長との距離を空ける。
「神格の制限は困ります! カロス・フィラクス!」
金色の無数の花が鈴の周りを包み込む。
(なになに、急なバトル展開!?)
「そういうのがダメだと言っているんだがな…… クレイノード!」
会長が腕を向けると、手のひらから小さな鍵が出てきた。
鍵は徐々に大きくなり、金色に輝くと勢いよく鈴に向かって飛ぶ。
花は鍵を避けるように散らばり、鈴に鍵が刺さった。
すると、頭上の輪っかが半分ほど小さくなる。
「あぁ……」
落ち込む鈴と、追加で反省文を書かせる会長。
神様も大変なんだなと思いつつ、半分空気になった俺はそっと教室を後にした。




