神様、夏祭りに行く
自宅に帰ると、俺の部屋でゲームをしている鈴。
「おかえりー」
ゲームに集中しながらも言葉は交わしてくれた。
以前のようなチーターが多くなるゲームは鈴のストレスになると判断した俺は、スローライフゲームを進めていた。
牧場の運営を任される主人公。牛や鶏を買って、卵や牛乳を収穫して生計を立てる。
意外にも鈴にはハマったらしく、今は二人のヒロインのどっちと結婚しようか迷っているところだった。
「ユーリちゃんとミモザちゃん……どっちにすればいいの!」
「好きな方にしたらいいだろう」
「ダメよ! それじゃあもう片方は一人ぼっちになっちゃうじゃない!」
ゲームのシステム上、結婚は一人のヒロインとしかできない。
なんで一夫多妻制を導入しないのとぼやく鈴。
すでに二人のヒロインの好感度はカンストしているので、告白すればいつでもOKをもらえる状態で二年も経過している。
そんな葛藤のをしているときに申し訳んないが、
「今週末、花火大会に行かないか?」
「花火大会?」
鈴はゲームをしている手を止めて、俺の方に顔を向ける。
大きな瞳をキラキラさせながら俺の方をじっと見つめる。
「この間はバイトも頑張ったらかな、たまには息抜きもしないと」
なんてことない理由を作って、鈴と花火大会に行く予定を立てた。
大事なのは、神格を使わないで日常的な生活を送ること。
最初は不便かもしれないが、常識を身に付けるにはそれが一番手っ取り早い。
もちろん、危険が及ぶ可能性もあるので、姫島先輩たちに護衛をしてもらった上で花火大会に参戦する。
「花火大会は人が多いから、俺から離れちゃダメだからな」
「なんかお兄ちゃんっぽい」
悪戯な笑みを浮かべるも、花火大会が楽しみなのかウキウキしている。
そして日が過ぎて、週末。
日曜日ということもあり、駅前からすごい人だかりが出来ている。
GPSで生徒会長達には俺の居場所を共有している。
何かあれば直ぐに駆けつけてくれる手筈。
「そうだ」
俺は思い出したかのように、、ポケットからある物を取り出した。
「これ、お祭りの間はつけておくように」
取り出したミサンガを鈴の右手首につける。
生徒会から預かった、神格を100%抑え込む装具。
ミサンガをつけた鈴。特にこれといった変化はなく、カラフルなミサンガを見つめて「キレー」と溢す。
(これで神格を抑えることができたのか?)
若干の不安を抱きながらも、会場に向かった。
道中、屋台が並び香りに負けて色々手をつけて腹が満たされる。
「お前まだ食べるのか」
「こう言うのは風物の一環として楽しまなきゃ損だもん」
持論を元に、目にはいった屋台に行っては俺の財布が悲鳴をあげることとなった。
進むに連れて、人波が目立ってきた。鈴と逸れないように、俺は鈴の左手を掴んだ。
「お、お兄ちゃん!?」
「はぐれるよな」
妹の安を優先しあまり何も思わなかったが、引っ張る鈴の表情は少し赤らめていた。
川岸に着くと、大勢の人がブルーシートなどで場所をとり、かろうじで座れるスペースを確保した。
「本当に人がすごいな」
鈴は右手につけたミサンガをマジマジと見つめている。
もしかして、神格を抑制し他のがバレたか、と思ったが「お兄ちゃんからもらった初めてのプレゼント」と小声を漏らした。
それが聞こえた俺は、鈴を騙していることに胸がギュッと締め付けたれる痛みが走った。
ただ花火を楽しむ。神格を使わない日常を鈴に送ってもらうため。
危険はあるものの、日常的に事件や犯罪が起きることはそうそうない。
何事もなければ、それでいいと俺は思っていた。
「もうすぐ花火が上がる時間だぞ」
「じゃあ、青の前にトイレ済ましてくる!」
「じゃあ俺も一緒に……」
言うも、トイレぐらい一人で行けると言うとさっさと一人で向かっていった。
一応、姫島先輩にメッセージを送ろうとするも、人が多過ぎて電波が繋がらない。
上空に顔を上げると、半透明になった姫路先輩の姿が見えた。
人が空を飛んでいれば、騒動になりかねないが、神格の力により俺以外の人には先輩は見えないらしい。俺の合図に気付いた先輩はトイレに向かった鈴の後を追いかけた。
「これで、万が一何か起こっても大丈夫だろう」
こう言うことは言わないほうがいいのだろう。
「まもなく、花火が打ち上げられます」とアナウンスが入った。
トイレからまだ戻ってきてない鈴。
「そんなにトイレ混んでいるのか?」
少し心配しながらも、打ち上げのカウントダウンが始まった。
「5、4、3、2、1」
会場全体の人々が声を合わせてカウントダウンをする。
「「「0!」」」
ドンと音が聞こえるとともに、空に向かって一線の光が上がる。
目の前に光広がる大きな花火が夜空を覆い尽くす。遅れて大きな和太鼓を叩いたような音が、会場の空気を振動させる。
立派な花火が打ち上げられ、その光景に目を奪われてしまった。
「鈴も見てるかな……」
そんなことを口走っていると、後ろから声が突然声をかけられた。
「満里くん、エリザベス嬢様を見失ってしまいました!」
背後にいたのは制服を着た姫島先輩。
息を上げて、動揺した表情から事態の深刻さを察した。




