逃げるな
もう、何も怖くなんかない…なんなら愛おしい。
僕は目の前で泣く少女をそっと抱きしめた。
「レイラ?朝だよ」
目覚まし時計の甲高い音が部屋中に響き渡る。
ソファに横になっていたレイラはゆっくりと起き上がり、目をこすりながらアラームを止めた。
「……リュア?何で私の部屋にいるの?」
「おいおい、寝言は寝て言えここは僕の家だしそれは僕のソファだ」
レイラ絡まった長い水色の髪を手でとかし始めた。
昨日、仕事帰りに歩いていたら。
幼馴染のレイラとまさかの再会をし、一緒にタバコを吹かしながら僕の家で晩酌を楽しんでいた。
「あっそうだったわね」
「まあ、昔はお前がなかなか起きなくて僕が部屋に入って起こしたときもあったけどね」
「懐かしいね、あの時は遅刻しそうで大変だった」
「しそうというかしたけどね…はい水、昨日結構飲んでるでしょ?」
「二日酔いはなかなかしないんだけどね、ありがと」
僕はレイラに水を渡し、机に目をやる。
空の瓶ビールが4本、タバコの吸い殻が2人分、2人ともヘビースモーカーでは無いからまだマシなのだろう。
「そう言えば聞き忘れてたけどリュアって何の仕事してるの?」
「僕は……いやレイラ知らないほうがいいよ」
「どうして?話せないようなこと?」
「いやそういう訳じゃ…」
僕は取り敢えず対面の席に座ろうとする。
しかし、その途中でテレビのリモコンを踏んでしまい。
ニュースが流れ始めた。
「えー速報です、今警視庁から凶悪殺人犯サリファーが脱獄したという速報が入りました。犯人の特徴は…」
「物騒な話だね」
「ねぇリュア、この犯人の特徴リュアに似てない?」
「何?僕を犯人だと思ってるの?笑えるね」
「速報なんだから冗談に決まってるでしょ、あなたはここにいるじゃないそれにあなたの名前はサリファーじゃないでしょ?」
はぁ、やだなぁ。
「たしかに僕はサリファーじゃない」
「繰り返します。凶悪殺人犯サリファーが脱獄したという速報が入りました。彼はどうやって脱獄したのでしょうか?周辺住民からの不満も募っています」
ニュースキャスターはいかにも無責任と言った口調でそう告げる。
その時家のチャイムがピンポーンと鳴る。
「こんな朝に誰だろう?」
「ちょっと僕出てくるよ」
僕はテレビを消して玄関に向う。
ドアを開けて、僕は目の前の彼にそっと微笑む。
「お帰り兄さん…サリファー兄さん」
「入るぞ、サツに追われてる」
サリファー兄さんは、ズカズカと部屋に入っていった。
中からヒステリックな声が響く。
「なんだこの女?」
「兄さん、僕も女だよ?」
「兄さんってその人って…サリファー?」
「よく知ってんじゃねーか嬢ちゃん、安心しな俺は兄弟の女なんて奪わねーよ、変な気を起こすなよもし逃げたら…わかるな?」
兄さんは、リビングの階段を上がっていった。
レイラはあまりの恐怖で泣き崩れた。
もう、何も怖くなんかない…なんなら愛おしい。
僕は目の前で泣く少女をそっと抱きしめた。
「やっと君を僕のものにできる…逃げるな」
逃げるな…僕の可愛い。
「レイラ」