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彼らのはなし  作者: りら
7章
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もう少し待っていて



会話している最中にふいにされると毎回心臓が止まる。

大学内でされるときは特に。

してもいい?と直球で聞かれるとすごく恥ずかしい。


ダメと一回行ったことがあるけれど、「そっか、残念」と楓はカラッとしていた。でも、その後しばらくなかった。それを寂しいと思う自分がいて、もうしてくれないのかと恐れる自分がいて、それ以来ダメとは言っていない。かといって、いいよとすんなり言えなくて、毎回羞恥心にさいまなれながら声をなんとか押し出している。


朝、おはようと玄関を出て会うと、いつもかまえてしまう。そんな時はだいたいしてくれない。たまに意地悪な顔でしてくるときもあるけれど。

夜、バイトが終わるとドキドキしながらスマフォを確認する。夜少し行ってもいい?ってメッセージが来ているときは嬉しくなる。おやすみだけの日は少しがっかりする。なにもない日は寂しい。



楓の告白を断ったのは自分。なのに、楓を求めていることに自己嫌悪を抱く。俺は今まで誰とも付き合ったことがないから、恋愛についてはよく分からない。楓は山縣さんと付き合っていて、いろいろ経験している。それが自分でないのが悲しいし、悔しいし、自分が上書きしたい。

キスは毎回軽く唇を合わせるだけ。それ以上はしてこない。抱きしめたり手を繋いだりの他の接触は、楓の誕生日以降全くない。


このまま流されたままでいいのだろうか。ちゃんとはっきり断らないといけないのに。でも今はもう、楓が他の人にキスするのは嫌だと思ってしまっている。だからといって、俺が今のまま何もしなければ、俺の他にもキス友作るのだろうか。急に、他に好きな人ができたと言われキスをすることはなくなるんだろうか。


もうすでに俺は沼に両足突っ込んでいる。もう抜けられない。分かってる、自分が楓を必要としていることなんて。自分が楓と恋人として付き合いたいことだって。資格なんか云々言い訳言って、もう一度楓を傷つけるのが、違う、『楓にまた嫌われるのが』怖いだけ。結局自分本位な考えだ。


夏休みに入ると、講義がないから定期的に会えない。バイトもあるし、自分は忙しい。楓も部活やバイトで忙しい。隣に住んでいるのに、会うことさえできない日も多い。キスの頻度は減った。寂しい。一緒にいたい。


凛ちゃんは今もたまに泊まりに来る。2人で出かけることも多い。凛ちゃんの存在にほっとする。楓のことを相談すると、ゆっくり話を聞いてくれる。落ち着いていられる。凛ちゃんがいるだけで、怖くないよと、後ずさりしそうな俺を支えてもらえている。


3年生になったら、就職のことももっと考えなければならない。就職先によっては、せっかく出会えたのにまた離れるかもしれない。だったら、やっぱり今のままでいた方がいいのではないかとも考えてしまう。付き合えたとしても未来の別れが怖い。


でも、後期が始まってほっとした。また、毎日会えるようになって嬉しい。またキスしてくれるようになった。幸せと思ってしまった。



こんな意気地なしの自分をまだ待っていてくれている。

飛び込むのはまだ怖い。もう少しだけ待っていて。


まだ俺のこと好きでいて。





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