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彼らのはなし  作者: りら
5章
39/60

さくら


楓とのノートのやりとりは続いていた。


凛ちゃんは誕生日当日やや顔がゆるんでいて可愛かった。せっかくだからカチューシャも買って一緒につけた。甲斐性がないので、プレゼントはそこでほしいものを買ってあげた。俺もなかなか楽しめたが、正直サンリオを舐めていた。帰りの電車では疲れて寝てしまった。

別れ際、楓のプレゼントを渡した。驚いていたけど、嬉しそうだった。直接お礼言えないからって、マスコットセットからカエルを選んで、楓に渡す用に頼まれた。少し惜しそうだったけど。俺のお土産はマグネットにした、もちろんカエルの。



約束の日の3日前のノートには

今度の日曜日、凛と2人で家にいてほしい。寒いかもだけど窓開けててほしい。理由はまだ言えないんだけど

と書かれていた。


わかった。それだけでいいの?


うん。わがまま言ってごめん。あとはこのノート持ってて


それで一旦やり取りは終った。

日曜日、塾のバイトを終わり自宅へ急いで帰宅する。帰宅が遅くなってしまう場合も考えて、事前に凛ちゃんに鍵を渡しておいて先に家に入っていてもらった。帰宅して、言われた通り窓を少し開けておく。雨が降っていなくてよかったが、風が冷たい。冬の近付きを感じる。電気はつけてない方がいいのかな。聞いておけばよかった。一応つけないでおく。


「ちょっと寒いかもだけど凛ちゃん大丈夫?」

「ん。平気」

「ありがとう、先に家にいてもらって。…でも、楓なんの話あるのかな。窓開けといてってさ、窓から部屋に来る気なのかな!?」

「…朔良君はずっとそのままでいなね」

「どういう意味?!」


他愛もない話をしていると、

「ほら、来たんじゃない?」凛ちゃんが言った。

階段を上る音が聞こえる。声も、2人分。この声は山縣さんだ。どういうこと。楓と一緒にいる。なんで俺に家にいてほしいって言ったんだろう。久しぶりに山縣さんが近くにいて背筋が凍る。心臓が大きく波打っている。怖い。

すると、凛ちゃんが手を握ってくれた。

「大丈夫。楓のこと信じてあげて」

凛ちゃんはいつも何かを知っているかのようだ。確信をもって、支えてくれている。


隣の部屋の窓がガラッと開いた。窓の近くにいるのだろうか2人の話声が聞こえる。内容はうまく聞き取れないが。ただ、楓の部屋に山縣さんがいると、どうしてもあの日の夜のことが思い出される。今日も聞かされるのだろうか、あの声を。でも、それならさすがに凛ちゃんを呼ぶはずがない。


聞き耳を立てていることに自己嫌悪に陥ってきて、席を立とうとしたが、なんだか楓と山縣さんは言い争っている?喧嘩?楓が山縣さんを問いつめているような気がする。窓を開けるよう言われたのはもしかすると聞けってことなのかもしれないと自分に言い聞かし、窓の方に顔を近づける。その時、んんっっとくぐもった声が聞こえた。

「やめ、ん、はなっ」と声にならない声を発してるのは楓だ。キスしているのだと思う。いやだ、聞きたくない。楓のその声は、山縣さんに出されてるであろうその声は。


「さっ…さくら!」


楓が急に俺を呼んだ。なんで俺の名を呼んだのか分からないけれど、衝動的に身体が動いた。駆け出し、楓の部屋へ向かう。玄関は開いていた。


「楓!!」

部屋には、ベットに押し倒された楓がいた。楓は抵抗しながら泣いていた。頭に血が上る。山縣さんへの恐怖心は忘れていた。山縣さんを押しのけ、2人の間に入る。楓が体を起こし、頭を俺の背中にくっつけたのが分かった。服の袖をつかんでいるようで、そこから震えが伝わる。


「嫌がってます。泣いていますよ」

「行為中はいつも泣いているよ、楓は。しかし、君は聞き耳を立てていたのかな。いい趣味をしているね」

「いい趣味してるのはあなただ。何回傷つければ気が済むんですか」

「俺のものに俺が何しようと問題ないんじゃないかな」

「楓はものじゃない」

「楓は自分から俺のものになったんだよ」

「最初がどうだろうが知らないけど、山縣さんは楓を支配しようとしてるだけです」

「支配?俺は楓を愛してるし、楓も愛してくれている」

「あなたは楓を思い通りにしたいだけ。楓の愛とは違う。あなたの愛情は歪んでる」

「はぁ、今日はよく話すんだね君は」

「梨奈ちゃんに対してもそうだ。愛してるなら大事にしてほしい」

「…君に何がわかる」

梨奈ちゃんの話をするとあからさまに敵意を向けられた。楓がビクッとしたのがわかる。でも、今更俺もやめられない。

「あんな噂流して意図的に梨奈ちゃんを傷つけて。あなたのは愛情じゃない」

「愛してるからこそ、梨奈が間違ったことをしていたら正すのが兄の務めだ」



「お兄ちゃん?」

玄関の方から声が聞こえた。全員玄関の方に目を向ける。なんで、梨奈ちゃんがいる?


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