うん、そうだよ
授業が始まった。
朔良とは関わらない様にしよう、という決意は早々に破られた。梨奈が朔良を一緒に授業受けようと誘ったのだ。次第に俺、梨奈、楓の3人で授業を受けることが多くなった。昼休みは凛も一緒にご飯を食べることが多い。流れで連絡先も交換した。朔良の連絡先が俺のスマホにある。何とも言えない気持ちに襲われる。そして、あの日以来朔良は『楓』とは呼ばない。
朝も一緒にはいかない。「なんで一緒に来ないの?」と梨奈にきかれたが、適当にごまかしている。
大学生活にも慣れたころ、大学に向かっていると梨奈から連絡が入った。体調不良で休むらしい。
大丈夫か?ゆっくりやすめよと送り、講堂に一人で座る。
「齋藤君、おはよう」後ろから、朔良がやってきて、自然に俺の隣に座る。
「おはよ」
「あれ、梨奈ちゃんは?」
「今日は休むって」
「そっか・・・」
無言になる。気まずくて俺はスマホをいじっていた。
「齋藤君」
「なに」
「今日午前だけだよね授業、おわったらちょっと話したいことがあるんだけど時間あるかな」
「・・・いいよ」
「ありがと」
授業が始まった。集中できない。何の話をされるんだろう。ふと朔良の視線に気づき顔を向けると目をそらされた。一緒に過ごすようになってからも、目はほとんど合わせていない。俺が合わせていないと思っていたけど、朔良も合わせないようにしているんだ。ズキっとなぜか胸が痛んだ。
午前中の授業が終わった。ここまで会話はほとんどない。
「齋藤君、お昼食べながら話せない?近くにいいカフェがあったからそこに行こうと思うんだけど」
「分かった」
再び無言になる。梨奈がいないと何を話したらいいかわからない。大学を出て歩いて朔良の後ろを歩く。気まずくて隣に並べなかった。しばらくして、朔良が前から来た人とぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いってぇな・・・って、お前朔良か?」
「そうですが・・・、もしかして裕也君?」裕也という名に、身体がこわばる。あいつだ。
「そうそう裕也。中学ぶりだな。こっちの大学に入学してさ。お前も?」
「うん、そう」
「・・・っつうか、後ろの奴どっかでみたことあるんだけど誰だっけかな・・・あ、お前楓だろ!おまえら、まだつるんでたんだ、うけるわ~ホモ楓くん久しぶり~」裕也がニヤニヤする。ほんと変わっていない。イライラする。
「じゃあやっぱり、朔良もホモだったんだな」
「うん、そうだよ」
は?
裕也も唖然としている。「あ、そうか、よ、気持ちわり。じゃな。」裕也は去っていった。
「齋藤君、行こう」
俺は唖然として朔良を見ていた。目が合ったが、不自然に目をそらされた。
「・・・あそこの角曲がって少ししたらカフェがあるんだ」
「・・・ん」駄目だ。考えがまとまらない。
「え?」
「ごめん、俺帰る」俺ははそのまま走って逃げた。
意味が分からない。
頭がぐるぐるする。
達臣さんに会いたい。
落ち着きたい。
落ち着かせてほしい。
達臣さんに「会いたい」と連絡しようとスマホを触るが、やめた。
達臣さんは入社して今は忙しい。邪魔したくない。
とりあえず家に帰って、布団に横になる。頭が痛い。ぐるぐるする。気持ち悪い。
「うん、そうだよ」といった朔良の顔は本当のことを言っている顔だと思う。
じゃあなんで、と心の中で朔良を責める。なんであの時、過去のことがよみがえる。涙がこぼれる。
俺は泣きながらいつの間にか眠っていた。