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彼らのはなし  作者: りら
2章
13/60

引っ越し


大学進学のため、母にお願いし一人暮らしをすることにした。2階建ての1kアパート206号室。

今日からここが自分の家だ。


業者に荷物を運んでもらい、もくもくと片づけていく。

何もなかったただの部屋が、俺の部屋に変わっていく。好きな観葉植物も置いた。緑はいい。心が落ち着く。


隣も引っ越し業者が来ているようだ。あとであいさつにも行かないと、と急いで片づけを行う。

ある程度片付けが終わり、205号室のインターフォンを鳴らすも出ない。あとでまた来ることにしよう。


こまごましたものも片づけていると、スマホにメッセージが届いた。梨奈からだ。俺の新居を見るために凛とこっちに向かっているらしい。相変わらずの強引さだ。事前に聞くとかはしないのか。梨奈と凛を最寄り駅に迎えに行く。無事合流して、アパートに案内する。


「駅からちょっと遠い~」

「仕方ないだろ、安さ重視だよ」

「でも1kなんでしょ」

「部屋の中見るの楽しみ~」


階段を上がり206号室に入る。その時、205号室で物音がしたため、入居者が帰ってきていることが分かった。


「わ~かえちゃんぽい部屋~」

「俺っぽいってなんだよ、ちょっと隣の人に挨拶してくるわ。あがって待ってて。」

ドアを開け、205号室へ向かう。


ピンポーン


「はい」

ドアが開き、男性が出てきた。

「隣に引っ越しました齋藤楓と申します。よろしくお願いします。これ、つまらないものですが・・・」

頭を下げタオルを出すと、「あ、ありがとうございます」と受け取ってくれた。


「あ、私も本日引っ越してきました佐藤朔良です。よろしくお願いします」


朔良?顔をあげ男性の顔をよく見る。時が止まったように感じる。

朔良だ。大人になってるけど面影が残ってる。「朔良・・・」つい呟いてしまった。


「・・・楓?楓だよね、ひ、久しぶり。俺、佐藤朔良。お、覚えてる?」朔良がおそるおそる聞いてくる。

忘れるわけがない。でも・・・感情はぐちゃぐちゃだ。朔良に会えてうれしい気持ちもある。許せない気持ちもある。今さら俺の前に現れるなんてと戸惑う。あの時なんで守ってくれなかったのと悲しい気持ちも出てくる。過去のことを問いただしたい衝動に駆られる。

朔良の顔が見られない。下を向き、かぶっていた帽子を下にずらす。いま、俺はどんな顔をしているのだろう。


「かえ…」朔良がまた俺を呼ぶ。

「かえちゃん、まだ~」梨奈が俺の部屋のドアからひょこっと顔を出す。助かったと思った。

「あ、あぁ今行く。…佐藤くん、お久しぶり。覚えてるよ。今日からお隣なんてビックリだね。よろしくね。」なんとか言葉を振り絞り、部屋に戻った。さくちゃんなんて呼べない。朔良君とも呼べない。佐藤君が今の俺には精一杯だった。




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