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彼らのはなし  作者: りら
2章
12/60

転校

センシティブな表現があります。

不快に思われる方は、閲覧注意お願いします。


俺、齋藤楓は小学5年生から学校に行けなくなり、生まれの福島を離れ神奈川県に引っ越した。


原因は友達からのいじめだ。いや、彼らはただふざけていただけだろう。でも、朔良だけには、ちゃんと俺のことを分かってほしかった。適当に流してほしくなかった。守ってほしかった。でも、朔良は・・・。朔良だって幼かったのだ。今ならわかる。小学生にとって学校は自分の世界そのものだ。学校で馬鹿にされる、意地悪されることは、絶望に近い。


朔良のことを好きだと自覚したのは、宿泊研修の時だ。一緒に作った勾玉に光が差し、朔良の笑顔と相まって、可愛いと思った。愛おしいと思った。この笑顔が俺にだけ注がれればいいのにと思った。自覚したばかりだった。だから、トモダチ、裕也の言葉にうまく対応できなかった。


転校して時間がたっても、心に刺さった棘のように、いつまでも消えてくれなかった。


神奈川に転校して、自分で言うのもあれだが、容姿が良かったらしい、女子にもてることが多かった。付き合ったこともある。付き合うっていってもままごとのようなものだ。好きになることはできず、数か月で別れた。一部男子には疎まれていたのもわかった。そもそも、朔良のように親密な友達を作るのは怖かった。当たり障りなく過ごしていた。

梨奈と凛に会ったのは小学校でだ。梨奈は小さいころから強引だった。ぐいぐいと俺のパーソナルスペースにに入り込んできた。凛は一見クールな女の子だったけど、梨奈と仲が良く、俺にも媚びることもなくちょうどいい距離でいてくれた。


梨奈のうちに凛と勉強しに行ったことがある。その時出会ったのが。達臣さんだ。達臣さんは当時高校生だった。

梨奈の家に行くときは、よく達臣さんと話すようになった。達臣さんは大人だった。包み込まれる感じがしてほっとした。朔良とは違う感覚だったけど、自分が達臣さんに惹かれているのが分かった。


一度、梨奈と凛が買い出しに出て、達臣さんと二人だけになったことがあった。ソファに座っていた俺の隣にポスンと座った。触れそうで触れられない距離でもどかしかった。ドキドキした。

「達臣さん、俺があなたのことを好きだと言ったらひきますか」


達臣さんは俺の目を覗き込んだ。吸い込まれるような目だった。すっと顔が近付いてきて、唇が合わさった。「ひかないよ」


それが俺たちの始まりだ。

好きだと言われたわけではない。付き合おうと言われたわけではない。でも、受け入れてくれた。梨奈のうちに行くときは、達臣さんも必ずいた。隠れてキスをした。外で2人で会ったこともあった。体を預けることも抵抗はなかった。

高校3年生の夏、黙っているのは嫌だったので、梨奈にまずうちけた。実の兄で、相手は男だ。友達を失う恐怖心でいっぱいだったが、覚悟を決めた。ごめんと謝った。

「別にいいんじゃない?お兄ちゃんかっこいいしね。自慢案件!」梨奈はあっけらかんと言った。

後で凛にも報告したが、「おめでとう」といっただけだった。


自分が拒否されなかったこと、からかわれなかったこと、馬鹿にされなかったこと、受け入れてくれたこと、すべてが嬉しかった。

友達の存在に救われた。


満足だった。梨奈と凛といれることが。

達臣さんといれることが。




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