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僕の特別な愛

作者: パミーン

多様性って何だろう?と考えていたらこんな作品になりました。

色々と粗があると思いますし、まだまだ未熟ですがお読みいただけると幸いです。



 僕は中谷信幸、今年22歳になる。この22年間、僕は本当に無意味なことをしてきたと思っている。最近はなんでこんなことしてきたんだろうとため息をつくことが多い。


 今僕は多くの物を手に入れることができた。だけど本当に手に入れたい物は手に入らない。それは愛。普通の愛ではなく特別な愛。どれだけお金を手に入れても、どれだけ努力しても、僕の欲しい愛を手に入れることはできないとどうしても思ってしまう。


 僕には二人の幼馴染の女の子がいる。僕の家の両隣に住んでいて、一人は山下瑠衣と言ってとにかく明るく元気で僕たちを引っ張っていくタイプの女の子で、もう一人は重田沙夜と言っておとなしくておっとりしているマイペースな女の子。


 瑠衣は1歳の時、沙夜は2歳の時に引っ越してきたらしい。三人とも同い年で親同士共通の話題が多く、仲が深まって交流が盛んになった。物心ついた時には瑠衣も沙夜も隣にいて、常に三人で行動することが当然だった。


 僕の愛が特別な愛だということに気づいたきっかけは、5歳になり三人とも同じ幼稚園に入ったときだった。


 僕は友達ができなかったけど二人には同性の友達ができ、その友達と二人がよく遊ぶようになった。この時初めて僕は嫉妬という感情を覚えた。今になって考えれば、同性の友達が欲しいと思うのは当たり前のことだ。


 でも当時の僕は「なぜ僕がいるのに友達なんかと仲良くしてるんだ!」という嫉妬から来る怒りでいっぱいだった。その友達にちょっかいをかけたり意地悪をしたりして彼女たちから引き離そうとかなり執拗に絡んだ。


 それを見ていた男子から「お前あいつのことほんとは好きなんだろ~」と揶揄われた。「いや違う!」と思いきり否定して殴りかかって大喧嘩になった。先生に怒られてなぜ殴りかかったのか聞かれたので「僕が好きなのは瑠衣ちゃんと沙夜ちゃんだからあんな奴好きでもなんでもない!」と答えた。


 そう、僕は瑠衣と沙夜が好きなんだ。二人とも愛している。どちらの方が好きかなどない。彼女たちへの愛の大きさは同じであり、二人に注ぐ愛情は平等だ。そんなのおかしいと思う人がいるのは当然だし、大多数がそう思っていることは自覚している。それでも僕は22歳になった今でも二人が好きで二人と結ばれたいと思っている。僕たちは三人でひとつなんだ。


 先生に怒られた時も当然のように二人が好きだと言っただけだった。それに対して先生に「じゃあ二人を取られたくなくてあの子に意地悪してたのね……。この年でハーレム願望があるなんて信幸くんはおませさんだね」と言われたんだ。


 ハーレム?それはなんだろう。僕は一度気になったことはとことん追求しないと気が済まない性格をしている。ハーレムという言葉をきっかけに色んなことを両親に聞いたり自分で調べたりした。そこから僕は色々なことを知っていく。僕の愛が特殊だということを。


 知れば知るほど僕は自分の愛に対する考えが世間一般の愛に対する考えとは全く違うことに気づかされた。ショックだった。それと同時に自分が孤独だと、独りだと感じた。分かってくれる人は多分いない。瑠衣や沙夜はどうだろう?聞いてみて自分とは違ったらどうしよう。怖かった。もし他の人と違う考えを持っていることを二人に知られたりして嫌われたらどうしよう。もっと怖くなった。


 自分が逸脱していることを知ってからはこの考えを知られないように、そして二人から嫌われたりしないようにと怯えて過ごすことになった。そうしているうちに人と接しなくなって幼稚園で孤立した。


 そんな僕を瑠衣と沙夜は見捨てなかった。他の人と行動することを嫌っているというのが伝わったのか三人で一緒に過ごしてくれるようになった。嬉しかった。二人への愛がより深くなっていくと同時に自分の考えを知られることがより怖くなった。彼女たちの前では絶対に知られないようにと本心を隠し、偽りの仮面を被るようになっていった。


 そして幼稚園を卒園し、小学校へ入学。僕らの住む地域は子供が少なかったから1クラスしかなく、彼女たちと一緒に過ごせることはこの上なく幸せだった。瑠衣と沙夜は学年が上がるにつれどんどん可愛くなり、クラス内の人気者となっていった。


 一方の僕はクラスに馴染めず、彼女たち以外に仲良くできる者はいなかった。幸いなことに彼女たちが構ってくれたからいじめられるというようなことはなく、ただの変わり者という位置づけで見られていた。


 人気者になっていく彼女たちと変わり者で独りの僕とでは到底釣り合うわけがない。せめて一つでも彼女たちに誇れるものを持ちたいと思った僕は両親に何か得意なことを作りたいと頼んだ。結果、僕はそろばんを始めるようになった。


 本当はスポーツを始めたかったけど、僕は運動がからきしダメだったから運動よりも勉強で頑張ることにした。持ち前のとことん追求しようとする探究心も手伝って僕はそろばんにのめり込んだ。そろばんをやっている時は自分の愛だの何だのと気にすることなく没頭することができた。


 瑠衣と沙夜から「最近の信幸(君)は本当に楽しそうにしてるね!」と褒められた時はちゃんと僕のことを見てくれているんだと素直に嬉しかった。


 小学5年生に上がると僕は彼女たちへの愛がより深くなり、恋人になりたいという気持ちが強くなっていった。偽りの仮面を被っている僕はあくまで友達という立ち位置で彼女たちと接していたので、それが苦しくて仕方がなかった。おそらく思春期が来たんだと思う。周りも恋愛を意識し出すようになって瑠衣と沙夜が告白されるようになった。


 僕はとても焦った。二人が盗られてしまうんじゃないかって。瑠衣か沙夜どちらかが付き合いだしたら僕の愛はもう叶わないものになってしまう。彼女たちが告白を断ってくれることを切に祈った。だけど祈りは届かなかった。僕は二人を同時に失ってしまった。


 それは小学5年の夏休み明けのことだった。二人の転校生が転校してきた。みんなの前で一人は古川哲也、もう一人は古川雄輝と自己紹介をし、周りの女子は色めきだった。双子だった。俗にいうイケメンというやつだった。僕も普通にカッコいい奴だなと思った。一気にクラスの人気者となった彼らは瑠衣と沙夜に声をかけるようになっていった。すぐに仲良くなった4人はグループを組むようになり、僕も瑠衣と沙夜から誘われてそのグループに入って一緒に行動することになった。哲也は瑠衣に、雄輝は沙夜に好意があるのが見え見えだった。


 不安になった僕は彼女たちに双子のことをどう思っているのか聞いてみた。すると瑠衣は「哲也がしつこくて嫌なんだよね!」と、沙夜は「雄輝君がグイグイ来るの困る~」とあまりよく思っていないようだった。普通ならそれを聞けば安心すると思う。でも僕はもう一方の方はどうなの?と思ってしまったんだ。そこから4人を観察すると、瑠衣は雄輝といるとき、沙夜は哲也といるときに僕には見せたこともないとびっきりの笑顔でとても楽しそうにしていることに気がついた。


 ああ、この4人は好意を持っているけどすれ違っているだけなんだな。このまま関係を続けていけば、そのうちそれぞれの気持ちに気づいて付き合うようになるんだろうな。そう思ってしまった。そして同時に僕の中で何かが壊れたのが分かった。


 そこから僕は4人のグループから離れ、一人で過ごすようになった。休み時間になると一人になれる場所に行き、学校を終われば誰よりも早く下校して瑠衣と沙夜に声を掛けられないようにひたすら避けるようになった。理由はシンプル、僕の愛はもう手に入ることがないと分かったから。彼女たちの愛は世間の一般の愛と同じだったことが分かり、もう僕の愛を受け入れられることはないと諦めてしまったから。


 でもどうしても避けられない時間があった。登校の時間だ。僕たち三人は同じ登校班だから登校時間だけは一緒にならなければならない。当然「なんで最近一緒に遊んでくれないの?」と二人から追及される。「色々と忙しくて」と言って誤魔化していたけど、本当は忙しくもないからいつか嘘がバレてしまう。


 どうすればいいか悩んでいた僕は本当に忙しくなればいいんだと閃き、両親に相談した。忙しくなるための手段をとことん追求した。その結果、中学受験と起業をすることにしたんだ。


 このままいけば彼女たち、そして双子と同じ中学校に進学することになる。一緒にいるだけでただただ辛い。遠くから彼女たちが双子と愛を育んでいくのを眺めながら生活したくない。違う中学に行けば彼女たちから離れられる。そこで電車で通える範囲で一番遠い私立の中学校を受験することにした。


 それと起業。なぜ起業?しかも小学生で?と思うかもしれない。僕の愛のことは親にも話したことがない。親伝えで彼女たちの耳に入るかもしれないと思ったからだ。僕はずっと孤独を感じていた。孤独でいると自分だけが取り残されたような気持ちになる。取り残されたくない、誰かと関わりと持ちたいと強く思ってしまう。だから仕事をして少しでも誰かと関わりを持とうと考えた。小学生でもできる仕事ということでパソコンを使った仕事で起業を考えた僕は知識やスキルを得るための準備を始めた。


 受験と起業、この二つを同時にやり遂げるのにそこまで苦労を感じなかった。むしろ楽しかった。学べば学ぶほど、知れば知るほどに僕の探究心はさらに強くなり、そろばんの時と同じように没頭できた。


 受験勉強も順調に進み、起業もできて仕事も少しずつもらえるようになった小学6年生の秋、彼女たちは僕が中学受験をするということを知った。ものすごく怒りながら「離れ離れになるのになんで中学受験するんだ!」と詰められた時は非常に困った。なんで怒るんだろうと。しかも今さらだ。よほど僕のことなど頭になかったんだなと悲しくなった。


 それで僕は「君たちに僕のことなんて分かるわけがない!」とかなり強めの口調で言ってしまった。彼女たちは何とも言えない悲しい顔をした。僕と彼女たちの間にもう修復ができない溝ができたことを悟った。踵を返して僕は彼女たちの前から去り、決別した。そこから彼女たちとは会話をしていない。


 無事中学受験は成功し、僕は彼女たちと離れることができた。決別までしたんだ。彼女たちのことは忘れようと勉強に仕事にさらに没頭するようになった。それでもたまに街で、近所で彼女たちを見かけると胸が苦しくなった。しかもあの双子と4人で遊んでいるところを見た時なんて言いようのない絶望を感じた。さらに中学2年生の時、母親から「瑠衣ちゃんと沙夜ちゃん、どうやら付き合い始めたみたいよ」と聞いた時にはショックで3日程寝込んでしまった。


 このままだと何かしら彼女たちの情報が入ってきてしまう。入ってくるたびに苦しい思いをしたくない。どうすればいいか考え抜いた結果、海外に行こうと決めた。仕事のおかげで貯金はしっかりあるし、一人暮らしもできる。海外留学について調べていくと、海外では飛び級で大学に進学することもできることを知った。僕は中学2年時で高校卒業レベルの学力を持っていたから、16歳で高認試験に合格して大学進学を目指そうと目標を定めた。


 目標ができた僕はひたすらに大学進学の準備と仕事に没頭した。没頭している時はそのことだけに専念できるから楽しい。気がつけばあっという間に中学3年生になっていた。周りは受験だなんだと騒がしかったけど、僕は高認試験を受けるだけだから高校受験は考えていなかった。そのことを両親に伝えたら「ちゃんと高校に行きなさい」と諫められた。家から遠い中学に通って通学時間が無駄だと痛感したので、家から近い高校を受験することにした。


 ところが家から近いからという安易な理由で高校を選択したのは大きなミスだった。なんと彼女たちも同じ高校を受験していたんだ。ちなみにあの双子も一緒だった。受験する前に親から彼女たちがどこの高校を受けるのか聞いておくべきだったと後悔した。


 入学式、彼女たちと再会した。と言っても彼女たちに気づかれないように僕が一方的に彼女たちを見ていただけだけど。瑠衣も沙夜も美少女へと成長していた。これまで遠目でしか見ていなかったからよく分からなかったけど、瑠衣は可愛く、沙夜は美しくなったと感じた。思わず話しかけたいという衝動に駆られたところであの双子が彼女たちのところに現れた。


 哲也と雄輝はイケメンに磨きがかかっていた。身長も高く、体つきもがっしりしているのが制服越しからも分かる。美男子に美少女、お似合いだと思った。それと4人はそれぞれの思いに気づいたんだろう。瑠衣の隣には雄輝が、沙夜の隣には哲也がいて仲良く話していた。母親が彼女たちは付き合いだしたと言っていた。相手はあの双子だったわけだ。僕の思った通りになっていた。彼女たちから離れて正解だったと思い、邪魔にならないようにしようと心に決めた。


 それからの1年間はただひたすら彼女たちとの接触を避けるように、彼女たちと双子を視界に入れないように学校生活を送った。小学生の時に戻ったような感覚だった。同じことをしている自分は何も成長できていないんだなとひどく落ち込んだことを覚えている。


 気持ちが沈んでいく日々を送りながら高認試験に合格、続いてアメリカのH大学にも合格した。おそらくこの1年間が一番辛かったと思う。没頭することができなかったからだ。高認試験と大学受験の準備は高校入学前から完了していた。せめて仕事に没頭できたらよかったけど、僕が海外に行くため自走できるように組織を編成したから特段やることがなくなっていた。大学生活が始まったら自分のやりたいことをとことん突き詰めて没頭してやろうと高校を退学した。


 アメリカの生活は僕にとって最高だった。色んな国から色んな文化を持った人たちが集まっていて、それぞれ価値観や考えがあって尊重されている。色々オープンだったから僕もこれまで話したことがなかった僕の愛に対する考えをカミングアウトした。理解し尊重してくれる人達が多かった。これまでずっと靄がかっていた心が晴れたように感じた。孤独を感じていて取り残されると感じていた気持ちは少しずつ消えていった。心から分かりあえる友人もできた。充実した日々を送っていた。


 心が軽くなった僕は水を得た魚の如く大学の勉強に没頭した。これまでの没頭とは全く違うくらいにただひたすらに探究心を突き詰めることができた。気がつけば21歳で経営学の博士号を取得していた。まだまだ学ぶことはあるけれど、博士号取得という学歴では最高のところまで突き詰め、一区切りついたと感じた。


 ここで僕は大きなターニングポイントを迎えることになる。日本に戻るかこのままアメリカに残るか。大いに悩んだ。これまでの僕だったら自分の中で悩みを抱えて心を塞いでいただろう。だけどアメリカでの生活で自分の気持ちをオープンにすることの大切を学んだ。僕は親友に悩みを相談した。


「ノブユキはまだ二人のことを想っているんだろう?だったら日本に戻って今度はちゃんと自分の愛と向き合うんだ。君の愛は特殊な愛なんかじゃない。特別な愛なんだ。おかしいことは何もない。逃げていてはダメだ!ちゃんと向き合うんだ!」


 心にスパーン!とハリセンで叩かれたような衝撃を受けた。そうだ、そうなんだ。僕は自分だけがおかしいと思って、嫌われたらいやだ、失望されたらいやだと逃げていたんだ。逃げて逃げて僕はここまで来たんだ。親友はこのままでいいのか?と言ってくれたんだ。このままでいい訳がない!ちゃんと二人と向き合おう、話し合おうと覚悟が決まったような気がした。


 そして冒頭に戻るんだけど、なんでこんな遠回りしたのかなって本当に思う。すっごい長く語ったけどごめんね。僕は大学院を卒業して日本に戻ったんだけど、僕が日本にいない間に自分の会社がめちゃくちゃ大きくなっていたんだ。アメリカにいるときに報告は受けていたんだけど、自分が想定していた以上に成長していて驚いた。そこから自分の会社の内情を知るのに1年近くかかってようやく落ち着いてきたところなんだ。


 まあ結局会社を言い訳にしてまた逃げたんだよ、僕は。帰ったらすぐにでも二人に会って自分の想いを伝えようと思えばできたはずなのに、いざとなるとチキンなハートの僕は及び腰になってしまう。んで昨日親友から電話がかかってきて「いいかげんにしろ!」って怒られたところ。


 瑠衣と沙夜は同じ大学に通っていて今4年生。二人とも今現在彼氏はいないらしい。あの双子とは別れたみたい。めちゃくちゃ美人だと噂で色んな男共からアプローチされまくってるんだってさ。あ、これは社員に調べてもらって分かったことね。これって思いきり職権濫用だけど自分から彼女たちに近づけないからさ、許してほしい。


 今日は土曜日で仕事も休み。親友にも怒られたから、二人と会うだけ会ってみようと思って瑠衣の家へ。ピンポーンとインターホンが鳴るとおばさんが出てきた。


「はい、どなた様……ってもしかして信幸君!?高校の入学式以来じゃない?」


「どうも、ご無沙汰してます。おばさんとは入学式以来ですね。瑠衣は家にいますか?」


「ええ、休みだからって今もまだ寝てるわ。ちょうどいいから起こしに行ってあげて」


 いきなり彼女の部屋ってめっちゃドキドキするじゃん。最後に瑠衣の部屋に上がったのは小5の時だったはず。家に入らせてもらって彼女の部屋のある2階へ上がる。


「おーい、瑠衣。僕だよ、信幸だよ。起きてる?」


 コンコンとノックをして反応を見る。中から「うーん、え?信幸?」って声が聞こえたと思ったらドアがバン!と開いてパジャマ姿の彼女が現れた。可愛い……。高校の時よりさらに可愛くなってるし、スタイルも何かエロい。パジャマ姿だから余計そう思っちゃうのかも。


「の、信幸だ!信幸―!」


 と僕に抱きついてくる瑠衣。アメリカじゃハグは当たり前だからね。こんなことでは動揺もしないよってドヤろうと思ってたけどすごい密着してくるじゃん!柔らかいのがすごい当たってる。いや、これは当てている?すっごい嬉しいけど恥ずかしい。アメリカで培ったカルチャーが全く通用しない。


「とりあえず苦しいから一旦離れようか、瑠衣」


「いや!信幸成分を補給しないと死んじゃう!もう何年もお預け食らってるのよこっちは!」


 信幸成分?そんなのあんの?聞いたこと一度もないけど。結局10分くらい抱きつかれてやっと僕から離れてくれた。


「落ち着いた?久しぶりに会いたいなと思って来たんだけど、沙夜とも会いたいから一緒に沙夜の家に行かない?」


「そうだね!沙夜も信幸成分補給させてあげないとだね!じゃあ先に行っといて。着替えて準備できたら沙夜の部屋行く」


「分かった。じゃあ先に行って待ってるよ」


 僕は瑠衣の家を出て今度は沙夜の家へ向かった。同様にピンポーンとインターホンを鳴らした。インターホン越しから「はい、どちら様?」と沙夜の声。


「僕だよ。信幸。久しぶり。」


「の、信幸君!?ちょっと待っててね!」


 ドタドタ足音が聞こえてきてドアが開くと、中から沙夜が出てきた。うわ、めっちゃ美人じゃん……。しかもお胸の発達がけしからんことになってますね!


「信幸君だ~!本物だ~!」


 僕の手を握りながらぴょんぴょん跳ねる沙夜。けしからんお胸が大変なことになってますよ!


「このあと瑠衣が来るからさ、沙夜の部屋で三人で話しない?」


「うん、いいよ~!じゃあ部屋行こ~!」


 普段はおとなしい沙夜のテンションがすごい高いのが分かる。瑠衣もそうだったけどすごく嬉しそうだな。二人から嫌われてるだろうなと思ってたのに全然反応が違ったな。そのまま沙夜の家に上がらせてもらい2階の沙夜の部屋へ。瑠衣は部屋の前で話したから中はよく見えなかったけど、沙夜の部屋は落ち着いた大人の女性の部屋って感じだ。


「じゃあここに座って」


 指定された場所に座ると沙夜は隣に座って手を絡ませながら繋いできた。所謂恋人繋ぎってやつだ。「んふふ~」と満面の笑みで僕の肩に頭を乗せてじっとしている。


「もしかして沙夜も僕の成分を補給してる?」


「うん、そうだよ~。ってことは瑠衣も成分補給したのかな~?」


 やっぱり。沙夜も信幸成分の補給か。てか僕の成分補給って何なんだよ……。


「うん、そんなこと言ってたよ瑠衣も。もう何年もお預け食らってたって言ってたけどどういうこと?」


「信幸君は気にしなくていいよ~。でも本当に私たち何年もお預け食らってたんだからね~」


 頬をぷくっと膨らませる沙夜。あ、すごい可愛い……。沙夜も10分くらい同じようにしてると満足したのか僕から離れた。


「瑠衣からメッセージ来たよ~。あと5分くらいで来るだって。お茶菓子用意してくるね~」


 そう言って沙夜は部屋を出て下へ降りて行った。二人ともすごい美人になってたな……。そりゃ男共がほっとけないわけだよ。そんな二人と付き合いたいんだよね。今の日本じゃ重婚は認められないから事実婚になってしまうけど彼女たちは受け入れてくれるだろうか?いやいや、その前に僕のこの特別な愛について理解してもらえるかが先だ。……なんて色々考えこんでいると沙夜が瑠衣を連れてお茶菓子を持ってきた。


「やっほ~信幸!さっきぶりだね!信幸いるだけでテンション上がっちゃう!」


「瑠衣のその顔久しぶりに見た気がする~。信幸君もいつのまにかすごいすっきりした顔してるね~」


「そうだね!この際だから信幸白状しなさい!あんた一体何を思い詰めていたの?」


 え?二人とも僕が思い悩んでいたこと気づいていたの?彼女たちの前ではそんな素振り見せないようにしていたのに……。


「二人とも気づいていたの?なんで分かったの?」


「そりゃあんな顔されちゃ嫌でも分かるわよ。もしかして隠せてると思ってた?」


「そうだね~。信幸君はすぐに顔に出るから分かりやすかったよ~。あれは幼稚園で大喧嘩の後ちょっとしてからだもんね~。高校退学するまでずっとだったから二人で心配してたんだよ~。」


「そしたら急にアメリカの大学に行って知らない間に大学院まで行って博士号まで取ったんでしょ?日本に帰ってきたと思ったら一回も私たちと会おうとしなかったじゃない!本当に寂しかったんだからね!」


 彼女たちは僕が気づいていなかっただけでずっと僕のことを見てくれていたんだな……。それが分かっただけでもものすごく嬉しい。もう覚悟を決めないといけないな!


「今さらだけどごめんね。心配かけさせてしまって。話は長くなるけど、僕が抱えてきた思いを聞いてくれる?」


 二人は黙って首肯する。僕は彼女たちに溜まりに溜まった思いを吐き出した。ずっと二人のことが好きだったこと。どちらかが好きとかじゃなくて二人とも同じくらいに好きなこと。二人と付き合って二人と結婚したいこと。これまでに起きたできごとに僕が何を思っていたのかなど。彼女たちは僕が話し終えるまで口を挟むことなく黙って聞いてくれた。


「……というわけなんだ。ずっと言いたかったこと言えてすっきりした。話を聞いてくれてありがとう!それで正直にどう思ったか教えてほしい」


 瑠衣と沙夜はお互いの顔を見合わせて僕の方を見た。口を開いたのは瑠衣だった。


「まさか私たちのことで悩んでいたとは思わなかったよ。私たちって意外と鈍感なんだね……。そこまで想ってくれていたなんて今私はめちゃくちゃ嬉しい。沙夜も同じこと思ってると思う」


「うん、そうだね~。信幸君の一途な思いにキュンキュンしてる~」


「分かってもらえたと思うけど、私たち、信幸のことずっと好きだよ。出会った時から今までずっとね。私たちは同性だし物心ついた時からの仲だから、色んな思いや考え方は共有しててさ。お互い信幸のことが好きだから信幸のこと取り合うんだと思ってて……」


「最初のころは勝負だ~って言ってどっちが信幸君落とすかやっきになっていたんだよ~」


「でもさ、沙夜は私の一部だから沙夜が選ばれなかったら私は心から喜べないって思うようになって、沙夜に打ち明けたら沙夜も同じように考えてくれてたことが分かったんだ。私と沙夜両方が幸せになる方法ってないんじゃないかって思うようになったの。本当は信幸に相談したかったんだ……。でも信幸はずっと思い詰めてるから言い出せなかった」


「ごめんね~、本当は言っちゃだめなんだけど、私たちは知ってるの。信幸君がギフテッドだってこと」


 なんだ、二人は知ってたんだ。僕がギフテッドだってこと。


「ギフテッドの子は普通の人よりも能力が高い分、周りから理解されなくて上手く馴染めないことが多いって聞かされてたの~。信幸君も私たち以外とは馴染めてなかったから、周りの環境のことで悩んでるのかな~って。信幸君を見てたら私たち悲しくなっちゃった。それからは私たちのことは置いといて、信幸君のこと支えようって決めたんだ~」


「でも信幸は私たちから離れていった……。いつのまにか中学受験してるし。私たち離れ離れになるって二人で毎日泣いてたんだよ。信幸の話を聞いてあの双子のせいだとは思わなかった。ほんとにマジあいつら最悪!って私たちも悪いよね、ごめんなさい」


「僕の方こそあの時ひどいこと言ってごめん。それで二つ疑問なんだけど、あの時僕には見せたことのない笑顔でいたじゃない。あれってどういうことなの?それと二人は付き合ったって聞いてたけど違うの?」


「多分愛想笑いだと思うよ~。あの人たち本当にしつこかったからね~。いやいや相手してたからあの人たちに信幸君に見せるような笑顔は見せなかったと思うよ?」


「そうね、本当に嫌だったからねあの双子。それでもうひとつの疑問だけど、付き合ったってことにしたのは私と沙夜が付き合ったっていうことにしたの。私たちの性の対象は同性ってことにしたら男共は近寄っては来なくなるでしょ?」


 そうだったんだ……。なんだか僕たちはずっとすれ違ってたような気がしてきた。てことは……。


「もしかして高校が同じだったのは僕を追いかけてくれたってこと?」


「そうだよ!おばさんに受験する高校聞いて私たちでも受かるじゃんってなって大喜びしたよね、沙夜!」


「うん、でも不思議だったんだよ~。頭いい中学校に行ったのになんでレベルの低い高校に進むだろうなって~。今は分かるよ~!飛び級でH大学なんて行くんだから~」


 瑠衣は気付いてくれたって喜んで、沙夜は少し拗ねて二人で抱き合ってる。なんだよ、めちゃくちゃ尊いじゃないか……!てえてえって奴だな!


「……ごめん、めちゃくちゃ可愛いじゃん!こんなん気持ち抑えられないよ!」


 僕は思い切って二人を抱きしめる。二人は驚いた顔をしたかと思うと顔を真っ赤にして慌てている。いや、それも可愛いんだよ!


「信幸からそんなアクション起こしてくれるのは初めてだね……。すごい嬉しい……!」


「そうだね~!キュン死だね~!それで瑠衣どうする~?信幸君の愛」


 そうだ、これまでの経緯を話していて肝心な僕の愛に対する返事を聞いていなかった。


「そんなの決まってるでしょ、沙夜?分かってる癖に聞くなんて意地悪だよ?」


「えへへ~、これくらいは許してもらおうよ~。もう何年もお預け食らってたんだよ?」


 それもそうねと瑠衣も沙夜も少し意地悪な顔をしている。僕には分からないから教えてくれよ~!


「それで、どうなの?答えを聞かせてほしい……」


 そんなの決まってるじゃん!と瑠衣。


「「よろしくお願いします!!」」


おまけ


「そういえばさ、信幸はまだキスとかエッチなこととかしてないよね?」


「ええ!?そ、それはもちろん僕はまだしたことはないよ!」


「沙夜、信幸の初めてはどうする?」


「キスが瑠衣ならエッチは私だね~!両方とももらうってのはなしだね~!」


「ふ、二人ともなんて話してるんだよ!」


「何言ってんの?大事なことでしょ!」


「そうだよ~!これこそ譲れない戦いだよ~!」


僕の初めてをどうするかという話は月を跨いでしばらく議論された。



お読みいただきありがとうございました。

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