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生贄儀式事件編-2

 泉美、藤河はミャーを先頭にして一緒に歩いていた。事情を説明すると、藤河もベラちゃんを探したいという。


『牧師さんも来てよ。一緒にベラちゃんを探すわよ』

「おー! ミャーの頼みだ!」


 二人(匹?)は意気投合、すっかり仲良くなってしまった。これには泉美も何も言えず、とりあえずミャーについて行く事に。


 住宅街を北にすすみ、今日言った惣菜店の前までつく。もう夜なので店は閉まっていた。唐揚げのいい匂いもしない。泉美は夕飯を食べ損ね、もうお腹もぺこぺこだった事を思い出す。


「ふ、藤河。この惣菜屋の店長さんがベラちゃんをカルト教団の方で見たって。なんか知ってる?」


 猫と普通に会話する藤河に引きつつも、知っている情報を共有。


「まじか、あの繁栄のミラクル聖母教のか?」


 さっきまで笑っていた藤河だったが、その名前を口にし、眉間に深い皺。


「カルトは未だに生贄儀式をやっている事があるからな。ネコを生贄にしていても不思議ではない」


 苦い声で断言もしていた。


『そうなの? 怖いわー。でも意外とカルト教団の方からは動物的カンが来ない。こっちの道よ』


 ミャーはあの教団施設の前をスルーすると、その隣にある小道に入った。


 耳も尻尾も上がってる。これは何かを受信しているのだろうか。泉美は首を傾げる事しかできない。しかも人気にない小道だ。道も舗装されてなく、このまま歩くと、確か小さな森に入ってしまうのだが。


 泉美の心配はよそに、隣を歩く藤河の表情は再びゆるいものに変わる。


「それにしてもネコが話すなんて面白いよー」

「って驚かないの? 私はどうしても信じれない。夢のような気がするわ」


 一方、泉美はどんどん表情が曇る。あの陰謀論やオカルト好きな藤河もネコの声が聞こえた。一緒にされたくないというか、ますます自分の方が頭がおかしくなってしまったのではないか。


「とりあえず、街灯もないから、懐中電灯つけるけど」


 そんな思考をしてても仕方がないか。泉美は、カバンから懐中電灯を取り出すと、灯りをつけた。ミャーや藤河の姿もはっきり見える。


「おお、明るくなったなー。でもまあ、キリスト教では動物の声聞こえる人とか特に珍しくないから」

「本当? やっぱり信じられないよ」


 泉美はため息をつく。宗教のイメージも悪いのだが。


「だって旧約聖書のアダムとイブだってヘビと会話していたし、そうそう珍しくないぜ。ウチらは、こういう不思議系の事にも寛容だから。奇跡、不思議話、都市伝説、陰謀論ドンとこい!」


 藤河はドヤ顔で自身の胸を叩く。


『そうよ、泉美。世の中には科学で説明できない事があるわ。損得勘定だけでは見えない事もある!』


 ミャーにまで言われ、泉美はタジタジ。もうミャーにも藤河へ突っ込む気力も失せる。どちらといえば突っ込みキャラに回る事が多い泉美だったが、今は疲れた。先を歩くミャーについていくしかなさそうだ。


「そうだぞ、水川。自分が絶対正しいなんて思うなよ。それは差別やいじめが始まるきっかけにもなるからな。自分はいつも間違っているぐらいのスタンスでいた方がいいぐらいだ。自分の思いなんて全部主観的な思い込みや感想さ」

「そ、そうね」


 珍しく正論を言う藤河にもう何も言えない。


 そういえば、中学生の頃、黒崎貴子というクラスメイトがいた事を思い出す。


 貴子はいわゆる不思議ちゃんだった。今思えば、単なる厨二病だったのかもしれないが、スズメや柴犬と会話出来るとも話し、いじめられていた。泉美もそんな貴子は苦手だった。全く話が噛み合わず、見下された事もあったが、藤河は全く違う態度だった。


「おお、黒崎。動物と会話できるなんてすごいじゃん。キリスト教ではそういう人は、珍しくないからな。面白いぞ、どんどんやってくれ」


 そんな事も貴子に言っていた。


 確かに藤河は変わり者で、口が悪く、性格だって良くはないが、全部が悪とも言えない。良い部分もあるのだろう。懐が深いのは、藤河の良い所だ。単に泉美と相性が悪いから、分かりやすく良く見えないだけで。


 そんな事を考えているうちに、小道はいきどまり、森の入り口まで辿りついた。


 懐中電灯の灯りがあるとはいえ、薄暗い。風も冷たく、木々のざわめきも不気味。虫の音もするが、風情は何にもない。空に浮かぶ満月も、単に綺麗な風景に見えない。むしろ泉美の目からは、ホラー風風景にも見え、背中がぞくっとする。


「ミャー、この森の中に本当に入るの?」

『ええ。たぶん、ベラちゃんはこの森の中にいる。動物のカンがそう言ってるから!』


 ミャーが嘘をついているようには見えなかった。だいぶ頼りないが、一応藤河もいる。防犯ブザーも持っている。


「わかった、ミャー。ベラちゃんを探そう」

「おお。俺もいくぜ。まあ、俺は牧師だから大丈夫さ」

「牧師なのと関係ある?」


 泉美は突っ込みを入れるが、藤河は大笑い。何がおかしいのかさっぱりわからないが、三人(匹)で森の中へ。


『大丈夫よ、きっとベラちゃんはいるわ』


 ミャーは明るく言ったが、すぐに表情が凍りついた。耳もさらにピンと上に向けて、息を飲んでいた。


『ヤバ! ベラちゃん!』


 しかも猛スピードで走り始め、藤河も泉美もついていくのに必死だ。


「ミャー! 何なの?」


 走るのがあまり速くない泉美は、ミャーとも藤河とも遅れをとってしまう。


 それでも何とか追いつく。ミャーも藤河も立ち止まっていたからだ。ミャーも藤河も何故か固まり、一歩の動いていなかったが。


『まって、泉美は見ない方がいい!』

「そうだ、水川は黙っとけ!」

「は? 二人とも何なの?」


 なぜかミャーも藤河も、泉美が側に来るのを拒んだが。


「どういう事よ。見てもいいでしょ?」


 藤河の背中を押しのけたが……。


「え!?」


 それ以上、声が出ない。


 そこにはベラちゃんの遺体があったから。何者かに殴られたのか、出血し酷い状態だった。しかも魔法陣のような図表の上に。どういう事?


「これは生贄儀式だ!」


 藤河は吠えていたが、泉美は立っていられない。気持ち悪くなり、木の側に駆け寄ると、吐いてしまう。


「嘘、どういう事……」


 全部嘘だったらどんなに良いか。あのベラちゃんのレインボー柄の首輪が、記憶から全く離れない。


『そうね! 牧師さんの言うとおり! これは生贄儀式よ!』


 ミャーまでどうしちゃったんだろう。さらに泉美は気持ち悪くなり、吐いた。藤河の言うとおり、こんな現場見ない方が良かったが、後悔しても遅い。

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