番外編短編・ネコを創造した神様が素晴らしい
「うぅーん。ミャー可愛い!」
バイト終了後、咲は看板ネコのミャーを抱きしめ、頬をスリスリしていた。
「ああ、なんてネコってこんな可愛いの? 店長もそう思うでしょ?」
バイト先のカフェ店長、水川泉美は呆れたように目尻を下げた。しっかり者でツッコミ役の店長らしい表情だった。
「そんなネコ、ネコ騒いでいて大丈夫?」
「え?」
「もうすぐ期末試験では?」
見た目は地味で芋臭い咲だったが、ギクっとする。咲は学年トップで成績もよく、有名大学への進学も希望していたが、今のままだと落ちそう。
「それに風早みたいになるわ!」
「ひゃー! あの男みたいにはなりたくない!」
咲は慌ててミャーを椅子に下ろした。ミャーは相変わらず女王様にように毅然とした態度だった。黒い美ネコさんだが、事件の後は日本語を話さなくなった。不思議な事だが、話さない今の方が当たり前なのだが。
「おいおい、水川も咲ちゃんも何を騒いでいるんだ」
ちょうどそこに近所の教会の牧師・藤河七道がやってきた。
背も低く、目も細め。服装も子供おじさんっぽいが、今は陰謀論牧師として動画配信活動もしていた。
咲はそんな藤河が嫌いではなく、彼の教会員にもなった。一方店長の泉美とは犬猿の仲だ。今日もうるさくお互いに悪口を言ってはいたが。
「ところで咲ちゃんはバイト慣れたかい?」
「ええ、牧師さん。バイトは全然慣れましたよ」
藤河に咲は笑顔で頷く。
「でも、ミャーの事可愛がりすぎかも」
先程店長に指摘された事が頭をグルグルする。思わずミャーを抱きしめたくなったが、自重。
「そうね。あの偶像崇拝者の風早みたいになったら困るっていう話をしていたのよ」
店長の泉美は話を補足してくれた。
「そっか。でも、ネコだって神様が創造したものだ。ネコを通して神様を賛美すれば、偶像崇拝にはならないんだ」
藤河はそう言うと、即興の讃美歌を歌う。
「ああ、可愛いネコ〜♪ どのネコもすばらしい♪ そんなネコを創造した神様が一番素晴らしい♪」
上手くない歌を聞かされ、店長の泉美は露骨に耳をふさいでいたが、咲が目から鱗が落ちる。
「そうだね! 作品買いじゃなくて作者推しって事だね!」
「うーん、咲ちゃん。ざっくりした解釈すぎるけど、いいか?」
藤河は腕を組み、微妙な表情。
「でも、神様が本当にネコを創造したとしたら、相当センスがいいわ。この耳、鳴き声、背中の丸み、もふもふさ。全部可愛い。人間の好みにもぴったり。確かにネコが偶然発生したというより夢はある」
珍しく店長の泉美も藤河の意見に同意し、ミャーの背中を撫でていた。
「そうだね。神様はネコを創造した時、何考えてたんだろ?」
咲もミャーの黄色い目を見つつ、頷く。
「咲ちゃん、そう思うと動物全てに優しくしたくなるね。もちろん、肉や鶏なんかは人間の食糧として創られたと思うが、いじめたりしたくないね」
「そうだね、牧師さん」
「それは私も同意」
珍しく三人の意見が一致し、ミャーも小さく鳴いていた。
その夜。バイトから帰った咲は自室の掃除をしていた。
今日、藤河から聞いた話が妙に心に残っていた。
部屋にはネコのキャラクターグッズやぬいぐるみもたくさん集めていたが、これを見ても「神様ってすごい」とまで思えず、全部捨てる事にした。
今までは可愛いキャラグッズを依存症のように集めていたが、これも偶像崇拝のような気がして気持ち悪くなってきた。風早を安易に笑えない。
「やっぱり生きてるネコの方が可愛いね。神様がどういう想いでネコを創ったのか、イメージすると余計に面白いし」
すっかり部屋は綺麗になってきた。この綺麗な部屋だったら受験勉強も集中できるかもしれない。
咲は笑顔でおでこの汗を拭う。
「やっぱりこんな可愛いネコを創造した神様が素晴らしいって事だね!」
なぜか神様に感謝の言葉を祈ると元気が出てきた。受験勉強もこの調子で乗り越えられそうだ。




