エピローグ
事件も解決し、すっかり平和な日常だ。カフェに客も戻り、家族連れや子供たちもきてくれるようになった。看板ネコのミャーの力かもしれない。
バイトで来てくれる咲は接客は苦手だったが、常連客に見守られ、だんだんと笑顔や話し方もよくなってきている。ミャーや可愛いものを見ても、最近は落ち着いている。不要なグッズや漫画なども捨てたらしい。風早の件で何か思う事もあるのだろうか。藤河の教会にも通うようになったとか。「偶像を避けなさい」という祈りの答えは、一番は咲のためだったのかもしれないが、それは神のみぞ知る事だろう。
藤河はユージンと二人で都市伝説&陰謀論系チャンネルを開設し、さっそく炎上していたが。
とはいえ、チャンネル内では繁栄のミラクル聖母教の闇も暴かれ、ネット上ではネコの生贄儀式があった事も話題になっているそうだ。ベラちゃんの事件は結局、織田も誰も捕まらなかったが、悪事はちゃんと表に出るらしい。また動画の収益化も成功し、藤河の懐も潤い、今は副業を辞め、牧師業に専念できているという。
「はー。やっぱり『私達の幸せな結婚式』面白いわぁ。最高!」
泉美はカフェの定休日、家でゴロゴロしていた。ようやく「私達の幸せな結婚式」の新刊を読む事ができ、口元はにやけっぱなしだ。
風早の件もあり、泉美の結婚願望も薄れてきた。もし、今後婚活したら、見た目や収入、肩書きなどは無視すると決めた。結婚相手はアクセサリーではないのだから。泉美の頭の中にある電卓はかなり性能が悪くなっていたが、それで良いかもしれない。
「ねえ、ミャー。本当にこの作品は素晴らしいと思うわ。ね?」
「ミャー、ミャー」
「え!?」
側にいたミャーに話しかけたが、もう日本語は話していなかった。前と同じように普通のネコの鳴き声が泉美の家に響く。
「え、ミャー。どうしたの? 日本語喋って?」
「ナーオ、ナーオ!」
全く日本語が聞こえない。心なしか、表情も普通にネコっぽい。
「どういう事!?」
焦った泉美は藤河の教会へ。藤河もミャーの声が聞けた。何か知っているかも知れない。
「藤河! あ、咲ちゃんも! 大変なのよ、ミャーが普通のネコに戻ったわ!」
教会の前で掃除している藤河と咲に事情を話し、キャリーバックからミャーを見せた。
「ミャーォ!」
ミャーはここでも一切日本語を話さなくなってしまった。
泉美は自分だけ頭が変になったとも思ったが、藤河も咲もミャーの声は聞こえないという。試しにネコ語翻訳アプリを使ってみたが「お外気持ちいぃ」とか「楽しい!」という結果が出て全く会話が噛み合わない。
咲はこんなミャーを抱っこし、残念そうな表情だった。泉美も似たような顔を見せたが、藤河は笑っていた。
「もしかしたら、ミャーの中に天使が入ってたんじゃないか?」
藤河はさらにクスクス笑う。
「聖書の中ではロバが神様の言葉を語ったりするからね。ノアの方舟のときだって、動物達は神様の言葉がわかってたような所もあるしな?」
「えー、だからって」
「神様がネコに入るのはあり得ないが、天使だったらあり得る気がするんだよな。俺たちを助ける為に神様が御使いを送ってくれたか!?」
泉美も咲も言葉を失ったが、ミャーはやけにキリスト教の知識もあり、クリスチャンの藤河や咲にも妙に懐いていた事も思い出す。美緒子の前ではミャーなりに自制していた気もするが。
「よし! これも動画のネタにするぞ。さっそくユージンに連絡だ」
藤河は掃除道具を放置し、教会へ入ってしまう。残された泉美や咲は、結局掃除をする事になったが。
「ねえ、咲ちゃん。藤河の言うような事ってあるの?」
「さあ? でも信じるか信じないかはあなた次第です!」
「ミャーオ!」
足元のミャーは首を傾げ、実に可愛らしいポーズをとっていた。
「そうね。これも都市伝説と思えば、少しは納得できるかもね!」
泉美は苦笑しつつ、咲と掃除を続けていた。ミャーが話さなくなっても、こんな日常は続いていくのだろう。今はそれが一番だ。
ご覧いただきありがとうございました。完結です。聖書というかキリスト看板・ネコのコージーミステリでした。キリスト看板の協会と作者は全く関係ないのですが、聖書読みたいと一番最初に思ったきっかけはこれです(作者の地元によくはってありました。今思うとかなり目立っていました。当時厨二病真っ只中の作者に何か刺さったのでしょう)。
今作は別サイト掲載作品のリライトです。もともと平成っぽい話ではあるのですが、オリジナルバージョンの時代描写がさすがに古臭い感じになってきたので、その辺りを重点的にリライトしました。
もしかしたらスピンオフ書いてもいいかなぁとも思っています。まだまだ未定で、いつになるかははっきりと言えないのですが、その際はよろしくお願いします。あといつものようにおまけの番外編も書きます。
去年〜年始に書き溜めた作品があるので、少しずつアップしていきます。次は新作です。ハイスペ御曹司と牧師の娘のオカルトライトミステリの予定です(エクソシスト系)。その次は北欧カフェ、コンビニ舞台の短編としばらくほっこり系ライト文芸が続く予定です。よろしくお願いします。




