表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/58

事件解決編-7

 いよいよ教会イベントの当日だ。本来ならカフェの営業日であったが、泉美は教会でネコのアイシングクッキーを配っていた。もちろん、カフェのチラシも忘れない。


「アイシングクッキーです。どうぞー」


 泉美は笑顔だが、足元にいるミャーも大人気。


「ネコちゃん可愛い!」

「黒い! 目が大きい!」

「もふもふ!」

「まあ、毛並みの良いネコちゃんねぇ」


 あっという間に人気ネコになってしまい、ミャーは可愛いらしいポーズを繰り返していた。


 子供祝福式というイベントなので、幼稚園生から小学生ぐらいの子供が多く来ていた。礼拝堂もそんな親子連れでぎっしり埋まり、藤河は臨時のパイプ椅子を出していた。


 こういう教会イベントに初めて来る泉美だったが、意外と客も多く驚いた。日本人はイベント好きという事実を思い出してしまう。それにアイシングクッキーに喜んでくれる子供が多いのも嬉しく、本来の目的など全部忘れそうになるぐらい。


「店長さん!」

「ユージン!」


 迷惑系のYouTuberのユージン来た。


「動画ありがとうね」

「いや、良いんだよ。それにこのクッキー可愛いなー」


 無邪気に喜ぶユージンは、もう迷惑系はやめ、新しい動画の方向性を探っている途中なのだそう。この若者も新しく道が開ければ良いと思いつつ、女子高生の咲もやってきた。しかも両親とも一緒だ。そういえば咲の両親もクリスチャンだった事を思い出す。


「きゃあ! やっぱりこのアイシングクッキー可愛い! それにミャー! 可愛い! めちゃくちゃ可愛い!」


 相変わらず咲は語彙力崩壊中。咲の両親は苦笑し「もう少し落ち着いてほしい」とぼやいているぐらいだった。


「やあ、泉美さん」


 最後に風早も来た。今日もきちんとヘアセットし、ジャケット姿もハイスペ風。ブランドものの高い時計も似合っていたが、なぜか今日は少しもイケメンに見えない。織田を襲った犯人かもしれないからか。


「来てくれて嬉しいです!」


 泉美はわざとらしくリアクションしてみた。


「いや、良いんだよ。お、ミャー!」


 泉美の足元にいるミャーは、ここぞとばかりにあざといポーズをとり、上目遣いで風早を見つめる。


「おお、ネコさま。本当に素晴らしい……!」


 風早は相変わらずだった。泉美達が疑っている事は、夢にも思っていなさそう……?


『やっぱりあの男、気持ち悪い』


 ミャーがそう吐き捨た事も夢にも思っていない様子だった。


 そうこうしているうちにイベントが始まる数分前となり、アイシングクッキーも全て配り終え、泉美も礼拝堂へ。


 臨時の一番後ろのパイプ椅子に座った。礼拝堂は人でぎっしり。四十人ぐらいはいるのだろうか。

 子供も多いのでますます学校の教室のような雰囲気だ。金髪のユージンはちょっと目立つ。風早は窓際の席に座っていたが、ミャーはそちらへ向かい、一応監視しているようだ。もっともこの礼拝堂で風早も何か悪いことも出来ないだろうが。


 こうして時間になり、前方の教壇に藤河が登場。泉美は、牧師として藤河はコスプレっぽい服でも着ているのかと思ったが、普通のスーツ姿で拍子抜け。木崎苺が礼拝堂を見てガッカリしたのも今は何となく気持ちがわかった。


 とはいえ、聖書朗読や讃美歌演奏は、全く神聖感が無い事もない。これは泉美がイメージするステレオタイプのキリスト教に近く、少しホッとするぐらいだ。


 讃美歌演奏では美緒子がピアノを弾いていた。なかなか上手な演奏で、地味な礼拝堂でも華やかな雰囲気が広がる。


 それに音楽というものは不思議だ。少し緊張感のあった礼拝堂も、讃美歌演奏の後は、温かみのある空気にも代わり、藤河の説教が始まった。


「みんなも、子供祝福式に来てくれてありがとう!」


 藤河はいつもより、声のトーンをあげ、ハキハキと説教を初めていた。おそらく子供向けの説教内容なのだろうが、キリスト教初心者の泉美にも入りやすい口調だ。咲だけでく、ユージンも前を向き、ちゃんと耳を傾けていた。一方、風早は目をトロンとさせ、少し眠そう。


「聖書ではイエス様は、とりわけ子供を大切にしてたんだ」


 藤河は聖書の説明を始めるが、内容は簡易的に噛み砕いているらしく、イエス・キリストが子供好きだったエピソードなども語られ、泉美もふむふむと頷く。


「そう、君たち子供は世間ではちっぽけな存在かもしれないが、神様にはいつも『いいね!』って言われてるんだよ。君たちは何もしなくても神様に愛されてるんだ、うん」


 ここでなぜかユージンの目元がうるっとしていた。


「だから、ママに悪い事を言ったりお釣りを誤魔化したり、兄弟を叩いてしまった時、僕達の心が痛むようにできてる。『良心』という。神様がプレゼントしててくれたセンサーだ。僕達は神様の子供だからね。本当は神様の子供として誰もが大切な大切な存在なんだ。もう誰かと比べなくても良いんだよ。自分の事を否定しなくても良いんだよ」


 この藤河の言葉にユージンは泣いてる?


 目元をティッシュで押さえていることに驚くが、風早は教壇に立ち説教をしている藤河を睨みつけていた。


 もっとも藤河は説教に集中している為、全く気づいてはいなかったが。


「牧師の俺もな、子供の頃、大嫌いなクラスメイトがいたんだよ。水川泉美って子なんだけど」


 急に自分の名前が出てきた。泉美は目を丸くしていた。


「本当水川は嫌なやつでな。しっかり者だが、計算高くて、全く俺と気が合わない」


 泉美は藤河の声を聞きながら「それはこっちのセリフ! 私も藤河とは気が合わないから!」と心の中でツッコミを入れた。


「でもさ、そんな自分が嫌にもなった。自分はこんなに神様に愛されているのにって。だから、俺は水川をいじめたり、やり返す事、復讐する事はどーしてもできなかった。神様が与えてくれた良心が痛むのさ」


 良い話だ。ユージンはまた泣いているぐらいだが、泉美はまた心でツッコミを入れる。「復讐したいぐらい私のこと嫌いだったんかい!」と。


「そうだ。みんなもどうしても復讐したい、許せないって時は、イエス様に愛されている事を思い出してみてな。俺も最近水川とは、ベラちゃん事件を調査しながら、仲良くなれたと思う。いや、これも神様の愛だね!」


 良い話風にまとめられていたが、泉美は軽くため息をつく。もう心の中でツッコミをいれるのも疲れてきた。


「そういえばベラちゃんの事件ってどうなったんですかー?」


 子供の一人が手を挙げて質問していた。


「それがまだわからないんだよ。でもま、大丈夫だろう」


 ここで藤河は教壇から風早の方に視線を向けた。


「悪事は必ず表にでる。神様は全て見ておられるぞ!」


 ここで藤河は咳払い。ヒートアップした自覚はあったのだろう。


「まあ、大丈夫だ。ベラちゃん事件の犯人も必ず捕まるから」


 ここで藤河の説教は終わり、子供たちへの祝福の祈りや式も終わり、最後は讃美歌演奏で締めくくられた。


 なぜかさっぱりわからないが、ユージンはこのイベントに感動し、号泣しながら迷惑系は絶対辞めると宣言しているぐらいだった。


 咲や美緒子達も「今日のイベント良かったねー」と満足気に帰っていった。客の中にはカフェのチラシに興味を持った者もいて、泉美もその事については満足しながら、礼拝堂の片付けを手伝っていたが。


「風早さん、少しお話ししましょう」

「ちょっと、風早さん、待ってください」


 泉美と藤河は風早が帰るのを引き止めた。


「このミャーも少しお貸ししますから。抱っこしてみます?」


 ミャーはぴょこんと風早の膝の上に乗り、上目遣いだった。あざとく、高い声で「ミャーオ!」と鳴き、これには風早も逆らえなかった。


「ネコさま、可愛いな。尊い」


 相変わらずネコを拝んでいたが、もう他の客は帰ったららしい。泉美は藤河と目配せした。


「という事で風早さん。話を聞いていい?」


 泉美はミャーのようにあざといポーズは取れない。喜ぶ演技もこれ以上できそうになく、いつも通りの口調だった。


「話?」

「そうだ。織田の件だ。木崎苺から話は全部聞いているからな」


 藤河もいつも通りの口調で冷静に語っていたはずだったが。


「は? お前ら、まさか全部知ってるのか?」


 風早は動揺し始め、顔は真っ青。指先も震えていた。泉美の目には、左手首の時計が急に色褪せて見えるぐらい。


「まさか、まさか……! まさか!」


 唾を飛ばしながら大声も出していた。


 この態度は「織田に危害を加えたのは自分です」と告白しているようだ。髪もぐしゃぐしゃとかき、シャツの襟元のボタンも乱雑に外していた。息苦しいのだろう。


 ミャーはいち早く風早の膝から降り、礼拝堂の隅に隠れていた。ネコはこうして冷静な判断をできたが、人間の泉美と藤河は無理だった。


「あなたが犯人ね?」

「事情を話せ! イエス様が見てるぞ!」

「うるさあああああああい!」


 風早は絶叫し、ズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出していた。


「うるさああああい! お前らも全員まとめて殺す!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ