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ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜  作者: 地野千塩


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事件解決編-2

 血相を変えてカフェにやってきた藤河。もしかしたらまた事件!?


 ゆるい雰囲気のカフェに緊張が走ったが、事情を聞くと後悔しかない。


 次の日曜日、藤河の教会では「子供祝福式」というイベントを開催するらしい。咲によると、「キリスト教バージョンの七五三イベント」だそうだが、そこで配るクッキーを発注ミス。届くのはクリスマス前になってしまったという。


「藤河、それは自業自得では!?」

『そうよ。うっかりしてただけでしょ』

「牧師さんなのに、何でもサタンのせいにしていいんですか!?」


 しかし、泉美、ミャー、咲にまで突っ込まれ、藤河はタジタジ。


「う、そうだな。これは俺のミスだった。しかしどうしようか。子供祝福式でのクッキー、どうしたらいいんだー! 子供達ががっかりするよ!」


 自業自得とはいえ、困っている藤河はかわいそうだ。ミャーも咲も藤河を宥めてはいたが、泉美は別の事を考えていた。


「クッキー、うちのカフェで作る?」

「え!? 水川!? いいんか?」


 材料費、製作時間、手間などを素早く頭の中で計算。


「ええ。ただし、ネコのアイシングクッキーでいい? このミャーをモデルにしたクッキーで、うちのカフェの宣伝チラシも入れる。だったら、タダで引き受けてもいい」


 色々と計算したが、ユージンもタダで動画を作ってくれた。困った時はお互い様。それにカフェの宣伝になるなら、悪くない気がする。というか、泉美の方が圧倒的に得ではないか。


「確かにユージンの動画のおかげでお客さん戻ってきたけど、もうちょっと宣伝したい。子供さんも親と一緒に来て欲しいし」

『泉美、いいアイデアよ! クッキー作ってあげよ!』

「えー、ネコのアイシングクッキー? だったら、私も手伝いたいよ!」


 咲も賛成し、結局、藤河もオッケーを出した。早速、小麦粉、バター、型抜きなどを注文している泉美に藤河は呆れていた。


「おいおい、みんな。なんかもう事件のこと、みんな忘れてないか?」


 とはいえ、クッキー作りという目標ができた面々はやる気がみなぎる。


 翌日、カフェの営業終了後。藤河はこども祝福式の説教原稿作りで忙しいので参加していないが、泉美がクッキーを焼き、咲がネコのアイシングをする作業を黙々と繰り返していた。


 ミャーは閉店後のカフェで適当に遊ばせていたが、厨房には焼きたてのクッキーの良い香りが広がり、その出来もよかった。


 ちなみにミャーをモデルにしたアインングクッキーは、泉美が趣味でよく作っていたので、それを応用する事にした。新しくクッキーのデザインを作ったわけではないが、咲は大興奮でクッキーにアイシングを手掛けていた。


「可愛い! 可愛い!」


 相変わらず語彙は崩壊していたが、細かい作業も全くミスがない。むしろ丁寧すぎる出来で泉美は驚いた。


「咲ちゃん、あんたネコのヒゲや目のアイシングがやけに上手。どこかでアイシングクッキーの作り方、習った?」


 実際、出来も良い。写真を撮ってSNSに流したら、「いいね!」がつきそう。


「習ってないですよ。でも、私こういう細かい作業が大好きなんです!」

「へー」

「ポーチとか手芸で作るのも好きなんですよ。可愛いもの大好き」


 それは立派な咲の長所だろう。このまま腐らせておくのはもったいない。確かに今の日本はものづくりよりも、コミュ力が高く、サービス業ができる人が重宝されるだろうが。というか、咲にコミュニケーションスキルがあれば、将来は鬼に金棒か?


「そうか。だったら、うちでバイトでもする?」

「え!? 良いんですか?」


 ここで咲は目をキラっとさせた。


「ええ。咲ちゃんは、コミュ力つければ鬼に金棒よ。そしたら何でもできるじゃん」

「そっか。コミュ力!」

「そうだよ。そこまで抵抗なけばうちのカフェで鍛えない?」

「やってみる!」


 という事でバイト人員も見つかってしまった。元々バイトも雇いたかったが、人手不足だったので、泉美としても嬉しい限りだ。確かに事件やトラブルが全部悪い方向に行っていないようだ。良い事に変わっているのもあり、やっぱり神様がいるのか?


 まだ事件については何の進展もなかったが、とりあえずアイシングクッキーは順調だ。目の前にある事は、過不足なくこなせているらしい。


「まあ、しばらくカフェの方で休憩しましょ」

「はーい!」

「バイトのシフトとか時給とかは後で相談ね」


 一体、二人は厨房を離れ、カフェで休憩。窓の外は薄暗くなっていたが、今日だけは実に平和だった。常連客も戻り、看板ネコの仕事をこなすミャーも人気だった。


 どうかこのまま事件も解決して欲しいものだ。


 そう願いつつ、ミャーを膝に乗せ、コーヒーを啜っている時だった。


「あれ? 店長さん、携帯着信来てない?」

「あ、何か通知?」


 ポケットに入れておいたスマートフォンに電話があった。しかも相手は風早。


 正直この事件のゴタゴタで風早の事は忘れてた。木崎苺の件も忘れかけていたが、風早の声を聞いていたら、急激に現実に引き戻されてしまう。


「泉美さん、ちょっと会って話したいけどいい?」


 風早に指定された日時はカフェの営業日だったが、仕方ない。この日は臨時休業する他ないだろう。


 結局、風早と会う事にした。


「店長さん、例の彼氏に会うんですか!?」

『泉美、チャンスじゃない? 木崎苺の件についてはそろそろ解決させた方がいいわよ』


 咲やミャーに言われなくてもわかっていた。そう、まだ事件は何も解決していない。とりあえず、窓ガラスの件は犯人もわかってるのだ。まずはその関係者である風早にも会う必要があるだろう。


 本来なら風早は婚活相手なのだが……。


 今はハイスペ風早とも結婚したい気持ちは失せていた。泉美の中にある電卓も、かなり性能が悪くなって来たかもしれない。

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