新しい事件編-2
逃げる女子高生は、聖アザミ学園の制服を着ていた。派手なリボンのセーラー服だったが、スカート丈は長く、靴下は短め。
泉美は一般の公立高校に通っていたので、聖アザミの制服は可愛いと羨ましいと思う事もあったが、この女子高生は野暮ったい。スクールカースト上位ではないだろう。万引き疑惑やいじめっ子疑惑がある織田の娘の可能性は低そう。
ミャーはすばしっこい。前方を風のようにかけていく。泉美も後を追う。
一方、女子高生は運動は苦手らしい。見た目通りに鈍臭いようで、住宅街の空き地につくと、バテていた。
空き地にしゃがみこみ、息も切れている。スクールバックからマイボトルを出すと、一気飲みもしていた。
マイボトルは可愛いネコのイラスト付きだ。スクールバックにもネコのキーホルダーやパスケースもジャラジャラ。野暮ったい見た目に反して、持ち物はファンシー。
「あなた、大丈夫?」
「大丈夫じゃないですー!」
女子高生は息を切らしつつも、叫ぶように言っていた。
「あれ?」
そういえばこの女子高生。見覚えがあった。客の一人だ。平日の昼間に客としてやってきた事を覚えている。確かネコの可愛い財布も持っていた。あの財布と似たようなデザインのパスケースもバックにつけている。間違い無い。あの客と同一人物だ。
しかし今日も平日の昼間だ。「学校はどうしたんだ?」という疑問も浮かんだが、下手に刺激しない方がいいだろう。とりあえず女子高生が落ち着くまでしばらく待つ事にした。
ミャーは泉美の影に隠れつつ、この女子高生をじろじろと観察していた。耳もピョコンと上がり、色々と見極めているようだった。
『ねえ、あなた』
見た目はあざといミャーだったが、慎重な部分もある。なので女子高生に話しかけた時は、泉美の方が驚いていた。この空き地に人気はないのが救いだったが。
「え!? 可愛い黒ネコちゃんが話したー!」
一方、女子高生は驚くどころか、目をハートにして大喜び。
「可愛い! 可愛い! ネコちゃんが話してるー!」
ネコが日本語を話し、意思疎通を試みているファンシーな状況だったが、この女子高生はあまり疑問を抱かず、語彙力も崩壊させていた。泉美はどちらが動物かわからないぐらい。
「可愛い! 可愛い! 写真撮るよ!」
しかも撮影会まで始まってしまい、女子高生はスマートフォンで写真を撮りまくっていた。モデルとなったミャーは満更でもなく、あざといポーズをとり、上目遣いで女子高生を見ていた。
盛り上がる二人(匹)に泉美はツッコミを入れる気力も失った。しばらく女子高生の好きにさせていたが、彼女はものの見事に「可愛い!」としか言わなかった。見た目は野暮ったい女子高生だったが、中身は何でも可愛く見える若者らしい。箸が転がっても笑うかもしれない。
この場で泉美だけが冷静だった。この女子高生は事件に深い関わりはなさそう。これだけ可愛いものが好きだったら、ベラちゃん殺しに関わっている可能性は低い。関わっていたとしても、すぐに警察に自首しそうなタイプ。野暮ったいが優等生的なルックスは、校則もきっちりと守るタイプにしか見えない。
「あなた、ネコが話している事について何の疑問も抱かないの?」
「可愛いから良いんです!」
一応、女子高生にツッコミを入れてみたが、無駄だった。結局、しばらく撮影会をさせた後、こう言った。
泉美は決して怖い先生のようなタイプではないが、この時は別。アラフォーの大人女性としてキリキリと表情を作って言う。
「で、あなた。どうして逃げたの? うちのカフェを見ていたのはどういう事かしら?」
「うっ……」
今までキャーキャー騒いでいた女子高生も言葉を失う。
「今日は平日だよね? 何で学校も行ってないの? テスト休みでも無いでしょう?」
『そうよ。どういう事が説明してちょうだい。さもないともう撮影会やってあげないわ!』
泉美だけでなく、ミャーにまで凄まれ、女子高生は完全に言葉を失っていた。
「さあ、カフェに行きましょう。事情はそこで聞くけどいい? 事件の事でも何でも全部話して貰いますからね!」
女子高生は少々のけぞりながらも、頷く。
「わ、わかりました」
どうやら「可愛い」以外の語彙も持てそうだ。その証拠に女子高生はこう言ってる。
「私が知っている事は全て話します」