ネコと和解編-6
窓ガラスも修善も完了。モフボウズも貴子の元へ戻って来た。
貴子の希望もあり、今日はカフェで「モフボウズおかえり会」を開いていた。カフェの人気メニューをテーブルに並べ、ちょっとしたビュッフェのようでもある。もっともベラちゃん事件、窓ガラス事件も全く解決していなかったので、派手にはできなかったが。
「藤河も水川も本当にありがとう。モフボウズが帰ってくるなんて」
最初、貴子が挨拶。目がウルウルとし、泣いているみたいだ。
主役にモフボウズはカフェの赤い椅子の上に座り、平然としたものだったが。その隣にミャーも香箱座りし、偉そうに顎をあげていた。今日のミャーは貴子もいるので、普通のネコのフリをしていたが、モフボウズとも仲良くなったらしく、ピッタリくっついて座っていた。黒いミャーと白いモフボウズが一緒にいるとオセロみたいだが、本人、いや本ネコ達は全く気づいてはいなかった。
もちろん、貴子はミャーがモフボウズを助けた事は知らない。
織田家の裏口からこっそり侵入したミャーは、すぐにモフボウズを発見。織田が仕事を行った隙を狙い、モフボウズと一緒に逃げてきたとか。偶然、裏口に鍵が開いたため、侵入できたらしいが、それがなかったらモフボウズは助けられなかったらしい。ミャーは後で危機一髪だったと語ってはいたが、「ベラちゃんの事件の証拠までは見つけられなかった」と悔しそう。貴子のように手放しで喜べないらしいが。
「でも良かったよな、貴子。モフボウズが見つかって。運が悪かったら生贄として殺されてたぞ」
「そうなのよね、藤河。まさかカルトの連中が関わっているとは」
貴子も完璧に喜んでいるわけではなさそう。モフボウズが誘拐された経緯を藤河から聞かされると、頬が強張る。さっきまでパウンドケーキを食べていたが、止めてしまっていた。
泉美もそんな気分だ。せっかく窓ガラスが戻ったが、その犯人も見つけられない。そもそもこの状況でカルトの仕業だと訴えるのは可能か?
三人で考え込むが、なかなか難しい問題だった。警察には繁栄のミラクル聖母教の信者もいるらしいし、決定的かつ科学的、客観的な証拠もない。結果的にミャーが潜入調査してモフボウズを助けたわけだが、そんなのは証拠になりそうもない。ネコが話すなど誰が信じよう(ちなみに貴子には藤河がモフボウズを助けたと説明していた)。
「うん? ミャーちゃんって人間っぽい表情していない?」
貴子に何か勘づかれ、泉美も必死に誤魔化す。
ちょうどその時。貸し切りのカフェだったが、あの迷惑系YouTuberのユージンや風早も遊びに来てしまい、テーブルの上のカフェメニューは、あっという間に空になっていく。特にユージンはバクバク食い尽くし、本当に迷惑だった。
「ちょ、あんた食べすぎ!」
つい泉美が注意すると、ユージンはヘラヘラ。若者らしい舐めた態度で頭が痛い。
なぜか風早と藤川はすぐに仲良くなり、事件の詳細も語り合っていた。貴子もそこに加わり「織田のやつ許せない!」の大合唱。ネコ大好きな風早はヒートアップしていた。
「そんなネコ様を誘拐するなど、許せない。罰を受けるべき! カルト信者なんて全員悪人だよ! 論破してやりたい!」
この中で一番綺麗なスーツを着て、まともそうな風早だったが、顔を真っ赤にし、睨みつけている。
「おいおい、お兄さん! 正義感は暴走させるなよ。ネットで誹謗中傷とかしてないか。なんか、心配だぜ。俺みたいにみんなに迷惑かけながら行こうぜ!」
ユージンが揶揄い、さらに風早はご立腹。余計に目が吊り上がり、貴子が「うちのモフボウズ貸しましょう」と言うほど。実際、モフボウズを撫でながら、風早は少しずつ落ち着いていたが。
「まあまあ、風早さん。そう怒るなよ。汝の敵を愛せよ。そうだ、今度の日曜日。教会で子供祝福式っていうユルいイベントがあるんだが、来ないか?」
藤河もそんな提案をし、ようやく風早は落ち着き、帰って行った。
「そうだ、みんなもイベントに暇だったら、来てくれよ。ユージンは子供枠でもいいか。お菓子貰えるから」
「やった! 俺、お菓子貰えるのか? なんか面白そうじゃん」
ユージンも貴子も教会のイベントにやる気。一方、泉美はカフェの椅子に座り、相変わらず偉そうにしているミャーに小声で声をかける。
「なんかミャー、偉そう」
『ふん! 全部私のおかげなのに』
「しょうがないでしょ。貴子にしゃべれる猫っていう? 腰抜かすよ」
『ふーん。って言うか、私、あの風早って男嫌い。泉美と付き合わないで欲しい』
「はあ?」
ミャーはツンと向こうを向く。せっかくミャーと仲直りしかけたが、逆戻り。一体ミャーはなぜ風早を嫌っているのか?
『とにかく嫌いね。顔も声も生理的に全部いや』
そう言われても、仕方がない。泉美はみんなのおお代わりのアイスコーヒーを注ぎつつ、自分も教会イベントに行ってみる事にした。まだ「偶像崇拝」の謎は解けてはいないし、教会のイベントに出ればまた何かヒントを掴めると考えた。
「っていうか、泉美はどうなのよ? カフェの運営は?」
コーヒーを貴子に渡すと、耳の痛い事を言われる。確かに窓ガラスの修善は成功したが、その犯人は全くわかっていない。ベラちゃんの犯人は織田で確定。決定的な証拠がない事、立件が難しい事と比べ、こちらは犯人の名前すら不明だった。
「そうなのよねー。どうしようかな。カフェの変な噂もある」
ついつい泉美の声は苦くなる。貴子も藤河も本当に心配している模様。二人とも複雑な表情を浮かべていた。
「そっちの犯人は本当に見つからない?」
「ええ、貴子。何の手がかりもないね。一応女子高生らしき子が犯人を見たって言うけど」
「女子高生か」
貴子も藤河も何の心当たりもないらしい。
「やっぱり店長さん、カフェ明日から営業したら? その方が手がかりお客さんから聞けるんじゃね?」
一方、ユージンは能天気。ミャーやモフボウズの動画を撮りながら能天気に提案してきた。
「でもお客さん自体が来ない状況なのよ。そんな提案されても」
「お! だったら俺の動画で宣伝すっか? カフェ店長のルーティンとか、オシャレで可愛いやつ撮って宣伝動画作れば良いじゃん。今の時代、ネットの宣伝動画の方が効果あるよ? テレビとかオワコン」
ユージンの声は明るい。この事件について全く深刻になっていないようだ。若者らしい能天気さ。今はユージンの金髪のヘアスタイルを見ているだけでちょっと眩しくなってくる。大人だったら現実を見て、そんな事は思いつかなかったかも?
「そうね。動画作ってみようかしら。協力してくれる?」
泉美は頭を下げる。誰かに依頼されるのに慣れていないのか、ユージンは顔を真っ赤にし、自身の黄色い髪の毛をグシグシャかいていたが。
「いいじゃない、水川。動画でお店の宣伝いいじゃん。このパウンドケーキが消えるのは惜しいよ」
「ああ、貴子もありがとう」
気が合わない貴子だったが、今は泉美の味方らしい。優しく励まされてしまった。
「動画はいいね。オカルト&陰謀論者として俺も出演していいかい?」
藤河はわざとボケてカフェの中は笑いに包まれる。モフボウズやミャーは、知らんぷりし座っているが、またこの場所が笑顔溢れる場所になった。
「そうね。できる事から頑張ってみる」
泉美はそう宣言すると深く頷いた。もうカフェが潰れる計算などは絶対にしたくない。




