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ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜  作者: 地野千塩


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ネコと和解編-5

 泉美はカフェから近所の女子校・聖アザミ学園まで歩いていた。


 小学部から短大まであり、比較的大きな学園だが、キリスト教主義で成る所で、門の周辺にはガードマンも立っていた。これでは女子高生に接触するのは難しいだろう。それに例の女子高生が目撃者とも限らない。はっきりとした証拠は一つもない。


「うーん、困ったわね」


 さすがに女子高生を割り出すのは難しいと判断したところ、お腹が減ってきた。昼ごはんを食べ損なった事を思い出す。とりあえず近くのコンビニに行くことにしたが。


「うん? 聖アザミ学園の生徒は利用禁止!?」


 コンビニの入り口にはそんなポスターが貼ってあり、驚く。ちょうど外のゴミ箱を掃除しに出てきた店員にどういう事か聞いてみた。色黒の外国人の若い女性だったが、日本語はペラペラだった。


「聖アザミ学園!?」


 その名前を聞いただけで店員は露骨に嫌な顔を見せた。今までは営業スマイルだったのに。


「あそこの生徒は最近柄が悪いよ。特に高等部が。うちも万引きされまくり」

「えー?」


 一応あの学園はお嬢様が通っているという評判も聞いていたが。


「そんな事はない。不良っぽい子は最近多いね。日本、ショシカ?」


 少子化と言いたいのだろう。ペラペラでも少しイントネーションは日本人と違う。


「特に織田って生徒が酷いんだ」

「え? 織田?」


 ここにきてその名前を聞くとは。そういえば織田の娘は不良という噂は貴子から聞いていた。


「親がカルトで酷いんだって。学校でもストレス溜めて、いじめもしているとか」

「本当?」


 泉美は急いでメモを取りだし、今聞いた情報を書き留めていく。


「うん。大人しい子が被害に遭っているらしいね」

「そうなの、ありがとう」

「あ、私、これから仕事だから」

「ええ、本当にありがとう」


 泉美はコンビニでチキンやサンドイッチの買うと、後にした。


 織田の娘=いじめっ子。大人しい子が被害を受けている。


「大人しい子?」


 ここまではわかったが、パズルのピースはバラバラ状態だ。そういえば、麗奈の証言では例の女子高生も大人しい雰囲気と言っていたが、何か関係あるのか分からない。それに聖書でいう「偶像崇拝」というヒントもどこへ繋がっているのだろう?


「ダメだ、さっぱり分からない。とりあえずご飯食べよう」


 泉美は一人でこの答えを出すのは、不可能だと判断し、学園の近くの公園に向かった。


 平日の午後だ。犬を連れている老人が数人いるだけで、閑散としていた。一応街路樹に囲まれ、自然も残っていたが、疫病の時から子供が遊具を使うのは禁止されていた。元々疫病の前から子供の声がうるさいとクレームも多かったらしい。


 封鎖されている遊具を片目に泉美はベンチに腰を下ろす。ベンチは固く、絶妙に座りにくいデザイン。そういえばホームレス対策で座りにくいベンチがネットで話題になっていたが、この公園でも採用しているらしい。


「どうもこの世の中、生きづらい感じになってるわよね……」


 コンビニのサンドイッチを齧りながら、呟く。この事件も、もう少し世の中が寛容で大らかだったら、起きていない気もした。ネット上にある利己的な正義、裁き、誹謗中傷も思い出す。これだと日本人も戦争している他国を笑えない。泉美の表情は重くなってしまう。


「あら、泉美さん! 昨日はどうも!」


 そこへ美緒子がやってきた。


「ユージンさんの動画見たよ。面白かった!」


 第一印象は大人しそうな金持ちマダムの美緒子だったが、今は面白がっていた。泉美の隣に座ると、事件の進捗や昨日の話もニコニコと笑顔で聞きたがっているぐらい。


「み、美緒子さん元気ですね?」

「ええ。悪いけど、野次馬気分だと事件も面白いとうか」


 泉美は上手く反論できない。当事者の泉美は困った状態だが、野次馬の気持ちは何となくわかってしまい、苦笑する他ない。


「ところで昨日のお祈りの答え、偶像崇拝と事件は何か関連は分かった?」

「それはですね……」


 一応藤河から偶像崇拝や罪について勉強はしたが、さっぱりわからない。この事件のピースは色々と集まってはきたが、これだけは異質。逆にいえば、これが分かると事件の解明に進むのだろうか。


「ところで偶像崇拝ってやってしまうとどうなるんですか?」

「あ、牧師さんから聞いたのね」


 なぜかここで美緒子の表情が変わった。今まで面白がっていたのに、目は急に真面目になった。


「偶像崇拝すると、色々悪いことになる。なぜなら神様は愛の存在。ルールで縛り付けたいんじゃなくて、偶像崇拝すると結果的に本人の為にならないから、愛ゆえの注意というか警告」

「えー? でも人類みなやってる事ですよね?」

「それは程度もあるから。深くずっと偶像崇拝すると、気が狂ったり、子供が不良になったり、病気になったり、不倫や女遊びが激しくなるのよ。カルト二世が精神疾患患いやすいのも、ぶっちゃけ親のせい。私もカルトを抜けた後の方が色々と大変だった」

「本当ですか? 怖いんですが……」

「別にこれは神様が人から崇拝されたいっていう思惑はないわ。人間は神様に似せて創造されているから、別のものを拝むとエラーが起きるのよ。偶像崇拝は漫画原作を歪めて作るドラマや映画っぽい感じかな? 人間も原作通りに生きれば上手くいくのにね」


 宗教っぽい話題にはついていけないが、聞き逃せない言葉もあった。子供が不良になる? これは織田親子のことか?


「ええ。特に偶像崇拝すると、異性関係がだらしなくなるって言われてるけど、これは事件に関係ある?」


 しばらく美緒子と考えていたが、さっぱり分からない。ただ、織田親子とも関係が深そう。「偶像崇拝」という言葉は事件と全く関係が無いとは言えないのか?


 藁をも掴むような気分。この事件、本当に解決するのだろうか……?


 ついつい後ろ向きになりつつも、美緒子と別れ、教会に戻ることにした。ミャーや藤河の動向も気になる。


 案の定、教会の玄関は開きっぱなしだ。


「ちょっと、藤河。事件に巻き込まれている自覚あるの? 鍵かけてよ。っていうか、藤河もミャーも帰って来てなさそうね」


 頭を抱えそうになるが、とりあえず教会に入り、藤河の住居スペースのリビングへ。相変わらず散らかったリビングで、ホワイトボードもあの時のまま置きっぱなし。


 泉美は今までわかった情報をホワイトボードに書き整理していく。織田が犯人の可能性が高い事、窓ガラスの犯人は若い女や女子高生が関わっている事、偶然崇拝すると気が狂ったり、子供が不良になったり、女遊びが激しくなる事など。


「うーん、やっぱりこの女子高生がカギ? 窓ガラスの犯人はこの子に当たるしか無いよね」


 事件は全くわからないが、こうしてホワイトボードに整理すると、収集したパズルのピースがわかって来た。


「あとはこれを一枚の絵にするだけ?」


 そう、つぶやいた時だった。玄関の方から物音がした。しかもネコの鳴き声もする?


 泉美は玄関まで猛ダッシュ。そこにいたのはミャーを抱いた藤河。しかも白ネコ、いや、モフボウズを抱いた貴子の姿もあった。モフボウズは怪我も病気もしていない。元気そうにミャーミャー鳴いていた。


「モフボウズが見つかったの!」


 貴子は満面の笑み。ミャーと藤河はドヤ顔。どうやらミャーの潜入調査は成功したらしい。


「ああ、よかったわ!」


 難しいパズルだったが、どうやら一部の絵は完成しつつあるらしい。泉美も笑顔でモフボウズを見つめていた。

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