ネコと和解編-4
カフェの窓ガラスが割られ、ユージンの配信にまで主演し、大騒ぎになった訳だが、陽はまたのぼる。
翌日、泉美はカフェの窓ガラスの修理の為、業者を呼んだり、事務作業に追われた。ちなみに警察によると、カフェには指紋や犯人の遺留品は全くないという。窓ガラスも修理して良いという。
修繕費は自腹。その見積もり金額を見ながら、ますます犯人への怒りが募った。
すっかり忘れていたが、風早からもトークアプリに連絡が来た。あの動画配信を見ていたら、面白がり、何か協力できることはないかと言ってくるぐらい。
残念ながら、風早にできることは無さそうだったが、今度食事に誘われた。正直、今は婚活どころではないが、ハイスペ高収入の風早に断るのも気が引ける。
また、藤河とミャーは織田家の近くに調査しに行ってしまった。ミャーもこの事に怒り、潜入調査をする事は決定事項になった。泉美としてはミャーに危険な事はさせたくなかったが、もう止められそうにない。モフボウズの事も心配だった。
こうして午前中は忙しかったが、カフェは営業できず、暇になった。
確かに織田家に潜入調査中のミャーは気になるが、泉美がそこで出来る事はないだろう。
結局、いてもたってもいられず、ご近所さんに窓ガラスの犯人について聞き込みをする事に。警察は当てにならないし、ご近所さんだったら泉美の方が詳しいという自負もあった。
まずは糸原の本屋へ。
平日の午後は客も来ないようで、糸原はカウンター席で暇そうにしていた。相変わらず万引き防止のキリスト看板風のポスターが貼ってあり、そこだけは華やかな書店の中で妙に目立っていたが。
泉美は書店の新刊コーナーが気になりつつも、糸原に何か知っていないか聞いてみた。
「それが知らんのだよ。何か若い女を見たって人はいたんだがな」
「そっか」
人の良い糸原は、心底困った顔を見せた。
「しかし窓ガラス割るのは暴力的だよ。なんとなくカルトのせいでは無い気がする」
糸原は顎をなでつつ考え込んでいた。
「なんかカルト的な『正義感』のようなものが無いんだよな。むしろ、突発的というか、イライラしてやったというか、暴力的過ぎるのが引っかかる」
「そうなのよねー。誰かしら。うちの店にカルト信者以外でアンチがいると思う?」
糸原の話に頷きつつ、泉美は首を傾げる。これでも長年、地域に密着して営業してきたつもりだ。恨まれる理由はどう考えてもわからない。
「でも逆恨みってあるから」
「そうねー」
結局、答えなどせず、サスペンスの新刊を買って店を出た。糸原の推し作家の作品らしい。サスペンスは得意じゃないが、何となく買ってしまった。そういえばまだ「私達の幸せな結婚式」は読めていない。このまま事件が解決しなければ、永遠に読む機会も無さそうだ。
そんな事を考えつつ、カフェの周辺のご近所に聞き込みをしたが、糸原の証言以上のものは一つも出なかった。
「困ったな」
カフェの前を通る。割れた窓ガラスにはシートは被せられ、明日、業者が修繕してくれる予定だった。踏み荒らされた植木鉢はそのまま。仕方なく、これを片付けていたら、背後から声が。
「麗奈さん!」
ベラちゃんの飼い主の麗奈だった。あの日に比べて少し痩せた模様だ。実年齢よりも老け込んでしまったようだが、無理もないだろう。それでも目は元気そうで、ずっと落ち込んでいる訳でもなさそうだった。
「大変だったわね、泉美さん」
「いえ、いいんですよ」
「こんな事になるなんて、責任感じちゃう。もうベラの調査はいいわよ?」
力無く笑っている麗奈。それを見ているとやるせない。こんな目に遭って不満しかなかったが、麗奈の事を忘れていた。やはり当初の目的だ。窓ガラスの犯人がベラちゃん事件と関わっているか不明だが、再度麗奈に調査を続ける事をハッキリと口にした。
「乗り掛かった船ですよ。犯人を見つけるわ」
「そ、そう……。でも無理しないで。危険な事はやめて。心配よ」
現在進行中、ミャーが危険な事をやっている訳だが、泉美は少し笑顔を見せて深く頷く。
「麗奈さんは他に気になる事や気づいた事は無いですか?」
「そうね。昨日、このカフェから大きな音が聞こえて出たら、もう野次馬がいっぱい」
麗奈は目を少し上の方に上げ、昨日の事を思い出しているようだった。
「女子高生ぐらいの子がいてね、若い派手な女を見たって言ってたけど、見失ったわ」
「本当ですか?」
泉美の声が弾む。それはミャーの証言とも一致するではないか。
「それは警察には?」
「言うわけないじゃない。ベラの事もろくに調査していないところに。あ、ちなみ女子高生はおとなしい感じの子だったね。じゃあね」
麗奈はそう言い残すと、手を振って去っていく。
「女子高生?」
やはり窓ガラスの犯人=カルト信者ではない?
まだ何もわからないが、今はこの女子高生を探すのが先決?




