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ネコと和解編-3

 糸原は夜の散歩中にカフェの窓ガラスが破られているのを見つけたらしい。他の近隣住民も、物音がしたと警察に連絡してくれたようだ。


 泉美達がカフェにつくと、すでに騒然としていた。警察や野次馬も連なり、店長の泉美はそこを分け入り、ようやくカフェの前につく。


 藤河はまた警察の誰かと喧嘩を始めた。ミャーは普通の猫のふりをしながら、野次馬に紛れている。あの迷惑系YouTuber・ユージンも到着し、配信も始めた。まるであのベラちゃんが殺された夜が再現されているようだった。


「まさか、ウチのカフェが……」


 よりによって割られた窓ガラスは正面のものだ。一番通りがよく見える場所の窓で、外には植木鉢の花も飾っておいたが、それも踏み荒らされていた。犯人の凶暴さや手荒さが透けて見え、泉美の顔は真っ青。


 母も到着したようだ。


「泉美! どういう事よ!」


 といっても母は、割られた窓ガラスを見てもさほど動揺せず、口元をニヤニヤさせ、何とユージンの動画に出演した。


「全く犯人は誰よ? 名乗りでなさい!」

「そうだぞ! このオバハンの言う通りだぜ!」

「誰がオバハンですって!」


 ユージンと母の会話は質の悪いコントのようだ。これが配信されていると思うと、頭も痛い。


 それでも泉美の頭は、素早く計算をしていた。もし、このままカフェの営業ができなかったら?


 店を閉めた後はどうする?


 十年以上、カフェを経営していた。飲食業界への転職は可能だろうが、こんな悪い評判もたった今、転職などできない。何より、今までカフェの客の笑顔が走馬灯のように浮かび、泉美の頭の電卓は止まった。拳を強く握りしめ、こんな事でカフェを潰したくない。絶対に負けたくないという強い想いが湧き上がるが。


「全く。またあんたらかよ」


 巡査部長の南辺は事情を聞かれた。向こうは泉美がベラちゃん事件のチラシを配っている事も把握済みで「捜査の邪魔すんなよ。自業自得だろ?」と凄まれる始末。


「ちょっと本当に調査してます? 多分カルト信者の織田が犯人です。さっさと捕まえてください!」

「そうだぞ、水川の言う通りだ! 本当に調査しているのか?」


 藤河も応援してくれたが、南辺には何にも響かないようだった。


「こっちは多発する闇バイトの調査で忙しいんだよ」


 舌打ちまでしていた。


「自業自得。首突っ込んでいるあんた達が悪いよ?」


 イヤミっぽい口調で言われ、泉美は声を失う。藤河はそれでも文句を言い続けていたが、疲れてきた。


 幸い、窓ガラスが割られただけで盗まれたものは何もない。代わりに「邪魔するな!」と書かれたチラシがカフェに投げ込まれているのを南辺が発見。余計に泉美は責められ、藤河は吠えた。


 しかし、現場でこうしていても無駄だ。この騒ぎの中、泉美は一旦野次馬の方へ行き、ミャーと落ち合う。小声で話しけると……。


「ミャー、何かわかった?」

『さあ、でも、目撃者がいたわ。女子高生みたいな子』

「本当?」

『野次馬に犯人は若い女性を見たって語ってたらしいけど、その子が見当たらないのよ』

「え、犯人は若い女?」


 その目撃証言が確かだとすると、犯人はカルト信者だろうか?


 あの駅前で布教活動していた繁栄のミラクル聖母教の信者は、全員おばさんだった。偏見だが、ああいったカルトで若い女性は少なそう(二世は多いかもしれない)。


 どうも窓ガラスを割る犯罪とカルトが結びつかない。カルトは一応「善行」と思い込んでいる所がある。疫病の時にカフェや惣菜屋に営業妨害する等、歪んだ正義感が見える。


 窓ガラスを割るのは野蛮だ。手荒でもある。どうも彼らがいう「善行」と相性が悪い気がした。もっとも、織田達が何かに勘づき、牽制して来たといえば筋は通る。


『泉美、これはもう警察に頼るのは無駄よ』

「そうね……」


 ミャーを抱きつつ、この騒ぎのおかげでだいぶ仲が改善して来た事は確かで複雑だった。泉美は少しも笑えないが、コントのような動画配信をしているユージンと母の方に近づいた。


「こんばんわ! このカフェの店長の水川です」


 ミャーを抱きしめたまま、動画に出る事にした。


「本当、迷惑してます。もしこの動画を見てたら、目撃した人は私に連絡してください」

「おー、これは宣戦布告だ!」


 ユージンは他人事だろう。かなり面白がっていたが、無視してカメラに訴える。


「もちろん、犯人の皆様もご連絡お待ちしています。その日にはうちのパウンドケーキとメロンソーダをたっぷりと奢りましょう」


 宣戦布告というか、挑発だったが、カフェを守る為には必要だった。軽く睨んでこうも言う。


「このネコもあなたの犯罪を全部見てるわよ!」

『ミャー!』


 泉美の表情はこわばっていたが、可愛いミャーがカメラに向かって猫パンチ。おかげで周囲はほのぼの感すら生まれていた。


「ネコも見てるが、イエス・キリストも見てるぞ! この世で隠せる犯罪などないからな! 犯人よ、さっさと自首せよ! このまま逃げ続けたら死後さばきにあうぞ!」


 藤河も乱入して吠える。


「おー、牧師さん! 怖いぞ! 神の怒りがくるぞ! イエス・キリストは怒ったら超怖いらしいぞ!」


 ユージンも囃し立て、動画はかなりカオスな雰囲気へ。


 その後、ユージンに聞くと、動画は百万回以上再生されたらしい。その中で犯人も見ているだろうか。それは泉美も不明だったが、警察に頼るより、事件が解決しそうな気がした。


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