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カフェ店長の日常編-2

 泉美のカフェは街の住宅街にあった。


 地名は江伝町といい、郊外のベッドタウンといったところ。街の南部には駅があり、そこから特急に乗れば四十分ぐらいで都心につく。駅周辺は通勤や通学客でとても混み合う。新しいマンションや商業施設も続々と新しく建てられていた。


 一方、街の中央部はのどかな住宅地区だ。庶民の家やアパートが連なり、住民は老人も多い。いくら栄えてきた街でも、少々高齢化は避けられない。


 カフェの近くには、私立の女子校もあったので、若者はゼロとは言えないが。


 両親から引き継いだカフェは、そんな住宅街に埋もれるようにあった。外観もレトロ。カフェというより純喫茶と呼んだ方が合ってるが、最近は昭和レトロブームだ。泉美は店のSNSで昭和レトロ風の写真をたくさん載せ、そこそこの集客に成功していた。周りは住宅街で、駅からも距離があり、立地的にはさほど有利ではないが、何とか経営できていた。


 カフェまでの道のりでは、ご近所さんに挨拶する。近所で書店や花屋を経営する商業中間とも挨拶し、俄然やる気も出てきたが。


「泉美さん、カフェの入り口見てみ? また変な落書きのチラシが貼ってあった」


 書店を経営する糸原誠一から知らされた。誠一も一人で小さな書店を営み、色々と相談に乗って貰った仲でもある。年齢は倍以上離れていてる。真っ白な髪や髭は、どことなく羊を連想させ、癒し系のお爺ちゃん。


「本当ですか?」

「そうだよ。もう疫病も終わったっぽいのに、酷いね」

「ありがとう、知らせてくれて」

「いや、いいよ。あと、『私達の幸福な結婚式』の最新刊入荷してるから」

「本当ですか!?」


 カフェに嫌がらせがあると沈みそうになったが、糸原からいい知らせをきいた。「私達の幸福な結婚式」は、人気少女漫画。美しい絵とともに和風シンデレラストーリーが紡がれる。頭の中で電卓を叩くような泉美だったが、実はラブストーリーが大好き。ベタで王道であればあるほど好き。そんな漫画は予算以上買ってしまう事もあり、泉美の強い弱点だった。案外当人が思うほど、コスパよく計算できていないのだろうが。


「わあ、糸原さん。ありがとうございます! 仕事終わったら、買いに行きますね!」


 泉美は満面の笑みでカフェに向かう。カフェの入り口には、「疫病を広げるな!」というチラシが貼ってあったが、無視だ。どうせさほど店に売り上げには影響はなく、昭和レトロブームの恩恵も受けていた。


「さ、無視、無視。今日も張り切って仕事をしましょう!」


 泉美はそう宣言すると、嫌がらせのチラシを丸め、ゴミ箱へ。それから店の床をモップで掃除し始めた。


 店は広くない。席も四人がけの席が二つ、入り口側の壁際の一人席が四つ。


 あとは父が集めた雑貨や本も並び、何でもアリな昭和レトロ風の雰囲気の店だ。照明もレトロなチューリップ型のランプ。これが泉美が密かに店の中で一番気に入っていたりしたが。


 床を磨くと、テーブルも拭きあげ、砂糖やコーヒーフッシュ、ペーパーナフキンを補充。ちょうど注文していた材料も届き、冷蔵庫にしまうと、厨房で今日の仕込みも開始する。


 紅茶用のレモンの輪切りを作ったり、パンの耳を切ったり、店の目玉商品のパウンドケーキを焼いたり。


 鼻歌を響かせながら、せっせと仕込みをしていた。幼い頃から店を手伝っていた。泉美は一人っ子だったので、店のお手伝いが遊びみたいな所があった。無機質なステンレスの厨房も、遊び場かもしれない。特に客の笑顔を想像すると、自然にニヤける。


 同時に背筋も伸びてくる。確かに売り上げも大事。店も嫌がらせも気になるが、何よりも大事なのは、お客様の笑顔だ。それに今日は仕事が終わったら「私達の幸せな結婚式」の最新刊も読める。


 泉美はシャツを腕まくりをし、さらに気合いを入れて、仕込みも終了。あとはお客様を迎えるだけだ。


 厨房から入り口に向かうと、ドアプレートを掲げた。今日も営業開始。


「いらっしゃいませ!」

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