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ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜  作者: 地野千塩


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ネコと和解編-2

「っていうか、偶像崇拝って何なの? 宗教用語使われても、さっぱりわからない」


 泉美の本音はこれだった。


 あの後、美緒子は旦那が家に帰ってくるからと、去っていったが、その前に出前の高級寿司を頼んでくれた。泉美達が落ち込んでいるだろうという気遣いだったが、単純に嬉しい。


 リビングのテーブルで寿司を平らげた後、藤河に聞く。


 正直、寿司が美味し過ぎて無言になっていた。この味に、事件の事も忘れそうになったが、これではいけない。泉美は自身の両頬を叩き、偶然数はは何かと聞くことにした。


「えー、だる。そんな初心者のところから教えないといけないのかよ」

『七道おじ、本職でしょう。いいから泉美にも説明しなさい』

「わかったよ!」


 満腹になり目元がとろけていた藤河だったが、隣の部屋からガラガラとホワイトボードを持ってきた。このホワイトボードで説明するという。これだとまるで、先生と生徒のよう。最近の学問系の動画みたいでもあったが、ミャーと並んで座り、藤河の説明を聞く事にした。


「偶像崇拝を説明する前に『罪』についてまずは説明しようではないか!」


 狭いリビングにホワイトボードを持ってきたので、さらに圧迫感もあったが、藤河は水を得た魚のように堂々と話し始めた。声もよく通る。普段はオカルトマニアで陰謀論者キャラなくせに、ここでは普通に牧師に見えるのでおかしなものだ。


 藤河はホワイトボードに大きく罪と書く。漢字からして圧が強い。


「では水川に質問しよう。罪ってどうイメージか?」

「えー、犯罪? 不倫とか、万引きとか。法律違反」


 突然だったが、そういうイメージしかなく答える。そういえばキリスト教は「罪」とよく言っているイメージだが、おかげでより怖い印象だ。


「ご名答。そう、辞書的な意味では間違いない」

『辞書的とは?』


 ミャーがつかさず促す。


「聖書的な罪とは全く違う」


 藤河はホワイトボードの「罪」をペンでバシバシ叩きながら言う。


「聖書ではどういう意味なのよ?」

「聖書的な罪は神様を無視して生きる事だ。もちろん、不倫などの犯罪も含まれるが、いくら清く正しい人でも神様を無視していたら罪人だ」

「えー?」


 泉美は変な声しか出ない。


「だとしたら人類全員罪人じゃん」

「そうだ。遠い昔、アダムとイブという人間のご先祖さまがいたんだが、彼らが神様を無視した結果、人類は全員神を知ることができなくなった」

『いわば縁が切れちゃった状態。喧嘩中ってわけじゃないけど、本当の親を知らず、育ての親のヤクザをパパと勘違いしている状態かしら?』

「ミャーの言うとおり。本当の父親はヤクザに子供を誘拐されて泣いてるぞ」


 例え話が俗っぽすぎるが、人と神の縁が切れている事は理解した。


「ああ、だからキリスト看板で『神と和解せよ』って言ってるのね。もしかして、和解できるのはイエス・キリストの十字架のおかげ?」


 ここで藤河は大笑いで拍手。ミャーもニヤニヤと笑っていた。


「水川、お前、カンがいいな。全くその通りだ。ちなみにこれはちょっと難しい概念だが、三位一体といってイエス様と神様は同じ存在でもある」


 不意に褒められ、泉美の頬は少し赤なるが。意外と藤河は教えるのが上手い。牧師でなかったら、教師になっていたかもしれない。


「あとわかった。その子供を誘拐したヤクザっていうのが悪魔ね。本当の親が神様で、子供がわたし達人類という事ね」

「ご名答。水川、本当に飲み込みがいい」

『素晴らしいわ、泉美』


 こんなに褒められたのは、いつ以来だろうか。恥ずかしいが、泉美は悪い気はせず微笑む。


「でも、だったら藤河。悪いヤクザをやっつければ良いじゃない? 神様はそれぐらい出来るんでは?」

「それは無理。ヤクザに誘拐された子供は、自ら、罪を楽しんでいるからね。ヤクザのパパ、サイコーだって気が狂ってる状態だわな。ろくな食事も与えない誘拐犯とも知らずに。そんな家出している方が楽しいって言う娘や息子を無理矢理帰らせても無駄だろ。それこそ豚に真珠になるわけよ。自分から神様の所に帰るのが重要なんだ」


 藤河は罪の周りに、セックス(婚前前)、暴食、嘘、いじめ、惰眠、怠惰などと書いていく。


「これらの事は自分から好き好んでしてしまうのでは? あとホームレスや障害者に偏見や差別を持ったろとか」

「そういえば……」


 耳が痛い。


「そう。で、こういう事などを神様より優先して、楽しむ事が偶像崇拝だ」

「え? そういう意味なの? 像とか絵とかを拝む事では?」


 あれだけ褒められたカンも今は冴えない。肝心の偶像崇拝の意味はわからない。


「つまり、偶像崇拝というのは罪の性質から生まれるもので、神様より大事にしているものっていう意味なんだよ。一見、お金稼ぎやボランティア、料理も悪い事では無いだろう?」

『でもそんな良い事も、神様を無視して優先していたら全部偶像崇拝!』


 やけにミャーは偶像崇拝にも詳しいな?


 泉美は首を傾けつつも、ホワイトボードに近づき、こう書いた。


 神様より大事なもの>>>>神様


「つまりこれが偶像崇拝? キリスト教的な罪ってやつ?」

『その通り!』

「アーメン!」


 藤河とミャーの弾んだ声を聞きながら、偶像崇拝は何かわかった。神様より大事なもので、罪から生まれる。


「でも、これは私もそう。大好きなロマンス小説とかあるもの。仕事も大好き。ネコも好き。みんな偶像崇拝しているんじゃない? 神と和解せよっていうと怖いけど、ヤクザのパパと決別して実家に帰って来なさいよって感じなんかな?」


 人類みな罪人という事もわかったが、これと事件の関わりは何?


「でも、本当に事件の手がかりなの?」


 この疑問には藤河もミャーも答えない。一応、美緒子が言っていた聖書箇所の意味もレクチャーして貰ったが、クリスチャンでもない泉美が聞いてもさっぱり話分からない。他にもキリスト教の三位一体の概念(父、子、聖霊で一つの神)も教えて貰ったが、泉美には難しい話題で、うとうとしてくるほどだった。


 この教会に隣の糸原が駆け込んで来る時までは。


「大変だよ! 牧師さん! あと泉美ちゃんも! ちょうどよかった!」


 糸原はかなり慌てた様子だった。


「急いでカフェへ! 大変だよ、窓ガラスが破られてるから!」


 糸原の言葉に耳を疑った。


「は?」


 泉美はそう言う事しかできなかった。


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