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急がば回れ編-6

 どんなに疲れていても、寝不足でも日は昇る。仕事もある。


 翌日、泉美は眠い目を擦りながら、カフェに向かっていた。


 昨日は美緒子に聞き込み、現場に戻って青嶋に話を聞き、チラシを配り、貴子にも事情を話して貰い、その上、犯人(?)の織田の尾行もした。


 疲れはあったが、なぜか寝る前に風早から電話がかかってきて、飼いネコの自慢を聞かされ、すっかり寝不足だ。風早はよっぽど自分のネコが自慢らしい。泉美が電話を切ろうとしても、意外としつこかった。もっとも、イケメンで高収入の風早を邪険など出来ず結局最後まで話を聞いてしまい、寝不足。


 メイクですっかりとクマを隠したものだが、欠伸は出る。それに事件についても胃が痛い。結局、藤河が織田家の周りの様子を見つつ、モフボウズを探す事になったが、嬉しくはない。敵は想像以上だ。またカフェの嫌がらせも解決していないし……。


 暗くなりかけたが、泉美だってお客様から情報収集という役目もある。ここで負けてはならない。自分に喝を入れ、開店準備を初めていた。


 この店の名物のパウンドケーキを焼きながら、昔の事も思い出す。高校生の時は、親のカフェの仕事も嫌いで反発していた。いわゆる反抗期。高校卒業後は、進学もせず、プラプラとしている時もあった。友達からは「今時喫茶店とかダサくない? スタバで充分」と言われたら事もあり、この仕事に迷いがあったのも事実だ。


 今はお客様の笑顔を見られるだけで充分という境地になったが、あの頃のプラプラした状況を思い出すと、仕事があるだけ幸せだろう。ミャーも「人間全員、神様が使命を与えて創造した」と言ってた。確かにキリスト教のような一神教は不寛容だが、全知全能の神様が人間を愛している、使命を与えているという考えは、自己肯定感を上げるかもしれない。


 そんな事を考えつつ、テキパキと動き、開店準備を終了。最後に店のBGMをかけ雰囲気を作り、店の入り口にも「Open」のプレートを掲げた。


「あれ?」


 しかし、開店して三十分たったが、全く客が来ない。いつもは常連さんや母が来るが、今日は音沙汰なし。店の前の通行人もスルー。


 雨の日や天候が悪い時は、客が来ない事は当たり前だが、今日の天気予報は綺麗な秋晴れだ。温暖化のせいか、少し汗ばむぐらいの温度だ。


「おかしいな?」


 もう十二時になったが、客は一人も来ない。カフェはいつも以上にしんと静か。さすがに泉美の表情も強張り始めていた。


「まさか……」


 そういえば母はベラちゃん事件の犯人が第一発見者の泉美も疑われているというゴシップもあると言っていた。


 すぐに母に電話をかけと、大きな声スマートフォンから聞こえてきた。


「そうよ! カフェの悪い噂がいっぱいたってるよ。どうするのよ、泉美!」

「そんな……」

「まあ、第一発見者の宿命だね。とりあえず噂が収まるのを待った方がいい。商売していると、こういう事はよくあるから」


 長年、このカフェで仕事をしていた母は冷静だ。全く慌てていないが、泉美は違う。


 カフェの一人がけの席に座ると、ため息しかでない。疫病が始まった時の恐怖感や絶望感も思い出す。あの時も本当に客が来なかった。今以上に嫌がらやイタズラ電話もあった。


「ああ、どうしよう。困ったな」


 噂の真意などは関係ない。例え無罪でも、一度広がった噂は、なかなか取り消せない。


「よお、水川。どうしたんだよ」

「何だ、藤河じゃん。それにミャー、どうしたの?」


 絶望感でいっぱいだったが、昼過ぎ、二人(匹)が遊びに来た。


 藤河は出禁にしていたが、どうでもいい。相変わらず店のアルコールボトルに文句をつけていたが、コーヒーやパウンドケーキを奢る。どうせ今日は客も来ないだろう。


「マジか。客来ないのかよ」


 藤河は意外と同情的だった。てっきりいつものように毒舌を吐くと思っていた。


『噂流している犯人は、織田やカルトの信者の可能性あるわね』

「えー?」


 泉美は声をあげるが、噂を流す事自体は訴えられない。人の口には戸は立てられない。


「俺もその可能性高いと思うわ。しかしこのパウンドケーキうまいわ」


 藤河は呑気だったが、待った笑えない。泉美の表情は凍りついていた。とはいえ、このまま店を開いていても無駄だ。


 結局、夕方前に店を閉め、藤河の教会の手伝いをする事になってしまった。藤河は日曜礼拝の説教原稿を作ると牧師室に篭り、ミャーと泉美はリビングでチラシ折りを手伝う。


 退屈な単純作業だが、今は気が紛れた。それにミャーのチラシを持ってきたり、ネコなりに手伝ってくれた。ネコの手を借りてる状態はちょっと笑える。おかげで「このままカフェが営業できなくなったら……」という最悪な事は考えずにすんだ。もっとも明日の事は全く読めないが……。


『泉美、やっぱり決めたわ』

「何、ミャー?」


 今日のミャーは前と違い、泉美に友好的だ。膝の上に乗り、上目遣いでこんな事もいう。


『織田の家に潜入調査しようと思う』

「ダメだよ、そんな事したらミャーが殺されちゃう」

『いいえ。もう我慢ならない。生贄だけでなく、店の嫌がらせまでやってる。モフボウズの身も危険。我慢ならない!』


 ミャーは織田の家に潜入調査すると、意見を絶対変えなかった。藤河が説得しても無理だった。


『モフボウズを探すから! もう、ネコもカフェも邪魔させない! あいつらの好きにはさせない!』


 ミャーを説得するのは難しそう。


 この事件、一体どうなる?

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