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ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜  作者: 地野千塩


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急がば回れ編-3

「きゃー! 何この黒い子! 黒い毛玉みたい!」


 貴子はミャーを見つけると、目をハートにし、黄色い声を上げた。


 藤河の教会の住居スペースには、ミャーを含め、泉美、藤河、そして黒崎貴子がいた。藤河はお茶を作るとキッチンの方へ行ってしまったが、四人(匹)もいると部屋はやや狭い。


 ミャーはソファのポンと乗り移り、貴子をまじまじと観察。人の言葉は話していなかったが、貴子にも甘えた声を出し、さっそくぶりっ子モードをオンにした。これには貴子は大興奮で「可愛い! 可愛い!」とだけ言っている。貴子の語彙も崩壊。よっぽどネコが好きらしい。


 あの後、貴子から詳しく事情を聞く事になり、藤河の教会へ連れてきた。その途中、ベラちゃんの事なども事情を全部話したが、貴子は暗い顔してほとんど話さなかったものだが。


「この子、ミャーっていうの。可愛い、可愛い!」


 まさに溺愛中か。貴子はミャーの頬撫でると、とろけたように目が細くなっていた。


 この様子では貴子の事情を聞くのは無理そう。泉美はソファに腰掛け、ため息も出てきた。


 久々に再開した貴子だったが、いかにも厨二病地雷女子といった雰囲気から、カジュアル&キレイ目のOLさん風に変わっていた。長い黒髪はツヤツヤ。目もすっと切れ長で、欧米人がイメージする日本人女性といった雰囲気の女だった。茶髪でメイクもしっかりとしている泉美とは、雰囲気が合わない。同級生でなければ決してこうして話す機会はなかっただろう。


「お茶できたぞー!」


 そこのサブカル風の藤河も登場。ここにいる者はキャラが全く違う。客観的に見たら、誰も友達には見えないだろう。別に友達ではないが、泉美は何故こんな状況になったか分からない。またため息が出るが。


「これカモミールティー? やだ、藤河、女子力高いね!」

「そんな事いいから、黒崎。モフボウズの事教えてくれよ。どういう事だよ」


 ミャーと笑っていた貴子だったが、藤河に促され、真顔になった。言いにくそうではあっtが、事情を話し始めた。膝の上にはミャーを乗せている。今の状況では貴子にミャーを貸すのが一番だろう。


「実は、うちもネコ飼っているんだ。モフボウズっていう白ネコちゃん」


 貴子はスマートフォンの待受けをも見せてきた。確かにもふもふの白ネコ。藤河も「可愛いネコだ」とつぶき、ミャーも同意するように「ナウ」と鳴いき、自分の前脚を舐めていたが。


 話していくうちに貴子の表情はどんどん曇ってきた。なんと、モフボウズは昨日から行方不明になり、今日、貴子は会社を早退して探していたが、全く見つからないという。偶然、駅前でチラシを配っている泉美達を見つけ、何か関係があるんじゃないかと声をかけたらしい。


「モフボウズ、どこいったんだろう。もしベラちゃんと同じ目に遭ってたら。もし繁栄のミラクル聖母教が関わっていたら、どうしたら……」


 ミャーを抱きしめつつも、貴子の顔は真っ青だ。今は可愛いミャーも、香りがいいカモミールティーも何の慰めにもなっていないらしい。


「よく探した? まだカルトの仕業とは言えないんじゃ?」


 泉美は自分の頭の中の電卓をたたきながら、言う。まだカルトのせいというのは早すぎるのだが。


「あの、うちの近所の織田さんっていう信者がいるのよ、繁栄のミラクル聖母教の。実は数年前、彼女から勧誘を受け、はっきりとと断ってから、色々噂とか言われていて……」


 貴子の表情はさらに暗くなってしまった。この話が真実だとすると、モフボウズも織田という信者に誘拐さて、生贄儀式に使われてもおかしくは無い?


 藤河もそう思っていたのだろう。藤河の細い目も焦りが見えた。


「これはヤバいぞ。早くベラちゃんを殺した犯人を捕まえないと、第二、第三の被害者が生まれる!」


 藤河の悪い予想は全く笑えない。ミャーが被害者になる可能性だってある。泉美も貴子と同じように顔が真っ青になっていた。当のミャーは貴子の膝の上で呑気に鳴いてはいたが。


「もうどうしようかと思って。職場の人に相談したら、ネコ神社やネコ探しが得意な占い師のところにも行こうかなって思ってる」


 貴子はカモミールティーを飲むと、そんな事も言っていた。


「それって効果あるの?」


 泉美は損得勘定で考えるので、神社や占いの類いは全く興味がない。損の見積もりを立てるとコスパもタイパも悪そう。そう言えば貴子は中学の時も神社参拝で受験を乗り越えようとしていた。元々そう言ったものが好きなタイプだ。


「いや、やめとけよ、神社は。あれは悪魔崇拝だ」


 藤河は空気を読めない。


「藤河、ポリコレ! ポリコレ!」


 泉美は慌てて藤河の口を塞ごうとしたが、空気読めない発言は一秒もやめなかった。


「神社や占いは悪魔の力で不思議なパワーを見せているだけだぞ。後で代償を要求されて、とんでもない事になる。うちの信者でも昔占いにハマって借金漬けになり、大変な目になった人もいるからな」

「そ、そんな……」

「実際、神社のお守りで効果あったかい? カルトのグッズとの差はどこだ? もし本当に神社の神様を愛しているのなら行ったら良いが、ご利益目的だけで行ったら偉い目に合うぞ。どんなものでも信仰とか宗教を利己的に利用するのはまずいんだよ。そこに悪魔が攻撃してくる。日本風に罰当たりって言えば分かるか?」


 いつになく熱っぽい藤河の言葉に貴子は全く反論できそうになかった。


「貴子、私も神社や占いは反対。藤河が言う通り、お守りとか、パワーストーンで効果あった事ないでしょ。だったら現実的に出来る事を先に試しても良くない?」

「た、確かに……。モフボウズがいなくなって冷静さがなくなっていたかも」


 貴子はミャーの丸っこい背中を撫でる。少しは落ち着いて来たようで、貴子の顔も血の気が戻ってきた。


「全能の神に全部任せな。神様は全部天から見てる。そっちの方が怖いよ?」


 こに藤河の台詞は貴子も何も言えないようで、モフボウズの調査もお互いに協力する事になった。藤河のドヤ顔には貴子も引き、泉美も苦笑するしかなかったが。


 もうすっかり夜だ。


 また宅配ピザを頼も、貴子も含めてみんなで食べた。不思議な事にこいして一枚のピザを分け合って食べていると、貴子ともすっかり打ち解けてしまった。仕事の悩みや猫の話題で盛り上がるぐらいだ。


 何の共通点もない四人(匹)で話が弾むのも不思議だ。そういえば、今日、藤河は「イエス様は色んな人と食事をした」と語っていたが、その効果は確実にあるらしい。損得勘定好きな泉美でさえも、モフボウズを何とかして探し出したいと思うほど。


 テーブルの上のピザはすっかり空だ。ミャーも高級ネコ缶を食べ、気が緩んでいる模様だ。今は藤河の膝の上に乗り、ゴロゴロとリラックス中だ。


「そうだ。その織田って信者ってどんな人なの?」


 とは言っても事件は忘れていない。泉美はペンとメモ帳を取り出し、気になる事を聞いてみた。


「うん。見た目はフツーの主婦。旦那さんは公務員で、高校生の娘が一人。たしかこ街の聖アザミ学園の生徒だよ」


 貴子から聞いた情報をメモする。藤河はミャーと遊んでいたが、何が役に立つかわからない。泉美はせっせとペンを動かしていた。


「その娘って子が気が強くてねー。いじめっ子らしい。万引きしている噂も」

「本当?」


 青嶋からも繁栄のミラクル聖母教の子供は万引き疑惑があると聞いていた。これは無視できない。「織田の娘が糸原の所で万引きしていた可能性は?」と一応メモ。


「そうだ! 夜、水川のカフェの周辺でコソコソしているのも見たよ。何か関係ある?」

「大アリ!」


 泉美は思わず大声を出してしまう。カフェの嫌がらせの犯人も織田だとしたら?


「やっぱり急がば回れ! まずカフェの嫌がらせの犯人を捕まえよう!」

『ミャー!』


 ミャーも泉美の言葉に同意した。


「藤河、次はうちにカフェに行くわ! まずはこっちで犯人を捕まえよう!」


 いつになくやる気を見せている泉美。藤河も貴子も目を丸くしていた。

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