調査開始編-4
その二日後。泉美、藤河、それにミャーも集合し、事件現場近くの家の前にいた。
「前々からこの家、金持ちだと思っていたけど、大きな家ね」
泉美は門の前で、少し後ずさっていた。
レンガ造りのどっしりとした洋館で、庭も広い。大きな池まである。確か町内一番の金持ちとし有名で、泉美の母もよく噂をしていた。名前は坂倉。ご主人は幾つもの会社を経営し、土地も持っていると聞いていたが、奥さんの噂は全く聞いたことはなかった。まさか藤河の教会に通うクリスチャンで、元カルト信者だとは、泉美も全く知らない情報だったが。
「そんなビビるなよ。奥さんの美緒子さんは引きこもりタイプだけど、優しい老女だぜ」
藤河は金持ちの家の大きさに全く引いていない。ミャーを腕に抱え、いつも通りだ。
『そうよ、泉美。確かに泉美は庶民だけど、そんなビビるんじゃないわ。それにせっかくカフェも休みでしょ? 今日調べないといつベラちゃんの事件を調べるの?』
「そうだぜ。そもそもこの二日間、何か収穫はあったか?」
ミャーだけでなく、藤河にも突っ込まれ、泉美は何も言えない。
カフェに例のポスターを貼り、お客様にも情報提供を呼びかけていたが、何の進展もない。それどころか母によると、泉美や藤河が第一発見者として犯人じゃないかと疑われているゴシップもあるらしい。今日の朝もSNSに変な嫌がらせコメントが届いていた。
「そ、そうね。調べるしかないわ。ミャーを連れて行っても大丈夫?」
「むしろ美緒子さんは大のネコ好きだ!」
『やった!』
「でも人も知りでもある。ミャー、君が美緒子さんの気分を和ませてやれよ。今日の調査はお前の可愛さにかかってる!」
『わかったわ、七道おじ!』
藤河の腕の中で首を傾げ、あざといポーズをとるミャーにため息が出る。この二人(匹)は確実に事件調査を楽しんでいる模様。
「もう、冗談はいいから。チャイム鳴らすわ」
泉美は呆れつつも、門のチャイムを鳴らす。すぐにお手伝いさんらしき女性が対応し、家にあがる事になった。
玄関からしてべらぼうに広く、そこだけでもカフェの厨房ぐらいの半分ぐらいのスペースがあった。廊下には高級そうな調度品や海外も飾られ、あの藤河もようやく顔が惹きしまってきた。泉美はミャーがなにかイタズラしないかヒヤヒヤしたものだが、大人しく藤河の腕の中に収まっていた。
三人(匹)が通されたのは客間だった。庭に面し、広い窓からは日差しが広がり、明るい洋間だ。ソファやテーブルは明らかに高そう。ふかふかで泉美も藤河も沈みそうになっていたが、ミャーはのヤニニヤと楽しそう。ソファの上でも可愛らしく香箱座りをしていた。
お手伝いさんが紅茶やクッキーを運んで来たが、どちらも高級そう。泉美は職業病を発症し、どこの紅茶が言い当て「こんなのうちのカフェでは出せないやつ! 紅茶もクッキーもめっちゃ高級!」と話してしまう。
「ぶっちゃけうちのカフェ、業務スーパーの食材も使ってるからね」
「おいおい、水川。夢がねーな!」
『そうよ、泉美。本当に庶民丸だし!』
二人(匹)に呆れられた時だった。
「あ、貴方達……。牧師さんと、どなた?」
そこの美緒子が入ってきた。
藤河が事前に教えてくれた通り、おとなしそうで優しそうな雰囲気の老女だった。花柄のスカートやピンクのカーディガン姿だったため、余計に優しそうな人物に見えたが、初対面の人物と会うのは苦手らしい。泉美と自己紹介を交わしても、緊張状態だったが。
「この子はミャーです。私が飼っている黒ネコです」
「美緒子さん、ネコ好きだろ。ミャーも遊びに来たからな」
泉美と藤河はミャーの自己紹介もした。ここではネコらしい態度で、人間の言葉は話さなかった。おそらく美緒の前で人間の言葉を話したら、卒倒しそう。ミャーは空気を読み、ネコらしくしていて助かったが。
「クロ次郎!」
突然、美緒子はそう叫ぶと、ミャーを抱き上げてしまった。
「クロ次郎! 会いたかった」
しかも泣きながら、ミャーを抱きしめているだけはないか。
「ごめんね、クロ次郎!」
クロ次郎?
「って誰?」
泉美と藤河は顔を見合わせていた。よく分からないが、ここにミャーを連れてきた事は、正確だったかもしれない。