調査開始編-1
泉美はカフェの二階にいた。物置と事務スペースになっており、泉美はノートPCと睨めっこしつつ、ベラちゃんの犯人を見つける為、ポスターをデザインしていた。
カフェ店長として働く泉美だったが、高校卒業後すぐに店を継いでない。一年ほどぶらぶらとフリーターをしていた時期もあり、その時にWEBデザインなども勉強した事もあった。元々こうやってPCを使うのも嫌いではなく、色々とポスターのデザインをしてみたが。
「なんかイマイチなんだよなー」
優等生過ぎ。パッと他人目を引く目玉がない。母が作ってきたデザインの方が注目は集まるかもしれない。
「はは、あの藤河が言ってたキリスト看板風とかってどうよ?」
ふと、閃き、黒と白、黄色の配色にし、キリスト看板風のデザインを組んでみたところ、案外違和感がない。
「神もネコも犯人を見ている」という文言を中心にデザインし、ベラちゃんの写真も大きく配置。あとは事件のあった時刻、場所、手がかりを求めるメッセージ、連絡先も。
「あら、意外と違和感がないね。このホラー風デザインだと、目立つし、案外キリスト看板ってデザイン性は高いのか……?」
首を傾げつつ、もし犯人がこのポスターを見たら、良い気分はしないかも。藤河が万引き防止にキリスト看板風のポスターを貼っていたが、気持ちはわかる。このホラー風デザイン、何か防犯効果はありそう。残念ながら布教効果は全く無さそうだが。
そして、繁栄のミラクル聖母教の噂もざっと調べてみた。インターネット上の情報だが、かなり評判の悪いキリスト教系のカルトだった。
勧誘もしつこく、信者達が守る戒律も厳しいらしい。おかげで不良や引きこもりになる宗教二世が続出しているとか。教祖はミラクル・マリアというらしい。写真上では単なる派手なおばさんだったが、神の声を聞けるリーダーだという。
「気持ち悪いなぁ」
見るからにカルトだったが、入信すると、現世利益を受けられるそうだ。出世や結婚した信者達の声が載っていた。
祝福を受ける方法は三パターン。一つは献金。二つ目は勧誘。三つ目は善行。
これだけだったら、既存の宗教でもありがちだったが、善行の中身が怖い。数々の食べ物の禁止事項、土曜日の安息日の厳守、娯楽や恋愛の禁止もあり、一応キリスト教関連であるのに、クリスマスも禁止。実はクリスマスは異郷の祭りらしく、信者達が口汚く「クリスマスは廃止しろ!」と言っている動画も見てしまった。
生贄については善行の中にはなかったが、この熱心っぷりだ。ネコ一匹ぐらい殺しても不自然ではない。また、近隣住人とのトラブルも多く、勧誘を断った人に集団いじめ等をするとあり、全く笑えない。
「それにしても……」
もっと引いたのは、最近信者も増えている事だった。実際、現世利益を受ける人も多いらしく、芸能人や政治家もはまっている人が多いとか。与党の連中がはまっているのも似たようなカルトらしく、泉美の表情は強張っていく。噂だが、警察にも繁栄のミラクル聖母教関係者も多く、犯罪がもみ消されるという噂もあり、全く笑えない。ベラちゃんの件も同じ理由で警察が動いていないのかもしれない。
「やだ、もうカルトって何? 私は全く信じられないよ」
調べれば調べるほど、引いてしまう。宗教へのイメージは限りなく悪い。一般の日本人のように、イベントだけつまみ食いするのが一番平和な宗教の付き合い方だと思うのだが。
「神様なんて本当にいるのかしらね?」
こんなカルト問題を目にすると、ますます自分の考えに確信を持つ。ミャーはなぜか「神様はいる派」で、意見が合わず喧嘩になったが。
「うーん、やっぱりキリスト看板風のポスターデザインはないわ。普通のに戻そう」
ここまで調べ、ポスターのデザインも変える事にした。
「神様って実在するの? ベラちゃんの犯行も明るみに出る?」
首を傾げつつ、ミャーの顔も頭に浮かぶ。藤河はミャーのトイレやベッドを買うと言っていたが、気になる。
ミャーとは不仲中とはいえ、これでも飼い主だった。一応、また教会へ行き、様子を見に行ってもいいだろう。
もう窓の外は夜だ。いつの間にか雨音も聞こえなくなったいた。