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生贄儀式事件編-7

 雨はしとしとと降り続け、結局、カフェの客足も遠のいたまま。閉店時刻十五分前になった。


 昨日と比べると売り上げは落ちたが、仕方ない。疫病の時はもっと打撃を受けたし、嫌がらせや噂、風評被害もあった。今も嫌がらせは続いていたが、あの時よりはマシだと思っていたところ。


「げ、ママ」


 本日一回目の「げ」。母がカフェにやって来た。泉美は露骨に嫌な顔を見せたが、母は違う。


「麗奈ちゃんも連れてきたわ。何か美味しいもの出してよ」


 母はどんと偉そうに客席に座ると、少し遅れて麗奈も来店。


「麗奈さん……」


 泉美は麗奈にはどう話しかけていいのか分からない。目の周りは真っ赤で、ずっと下を見ていた。何とか母の隣に座らせたが、麗奈の表情は暗い。


 母が励ましても、泉美がコーヒーやパウンドケーキを奢っても無駄だった。今にも泣きそうな表情で、俯く。


「麗奈さん、えっと、ベラちゃんは? お葬式は?」

「ええ。一応、ペット葬儀の所で済ませる予定だけど、辛くて……」


 一応、麗奈に今の状況を聞いたが、泉美は後悔。こんな話は聞き出すべきではなかった。


 母は麗奈の肩を抱き、励ましてもいたが、何の効果もない。レトロな雰囲気のカフェだったが、今は本当に葬式中のよう。実際、ベラちゃんは死んだわけだが……。


「許せない、犯人のやつ。警察はちゃんと犯人を探してくれるんでしょうね?」


 母はゴシップ好きだが、怒りやすい性格だ。ベラちゃんの事も、案の定、警察に怒りを向けていたが。


「いいえ。警察は闇バイトの調査で忙しいんですって。そもそもちゃんと面倒を見ていなかった私が悪いんだろうって怒られた」

「え!?」


 さすがに泉美も目が丸くなった。確かに昨日、現場に駆けつけた警察は、無能そうではあったが。


「そんな、私が悪かったのかしら。ああ、ベラがいなくなって、本当に悲しい」


 麗奈は肩を震わせ、涙で頬がびしょびしょだ。


「もう、絶対犯人も警察も許せないから。実は、こんなポスターも作ったの」


 母は手提げカバンから、A4サイズほどの紙を見せてきた。


「何これ?」


 そこにはベラちゃんの写真と共に「犯人よ、名乗り出なさい!」という怖いメッセージも印刷されていた。


「いや、これは逆効果なんじゃない?」


 デザインはシンプルに、人々に手がかりを呼びかけるポスターの方が良いかもしれないが、母の気持ちは伝わった。泉美も後でポスターをデザインし、カフェの壁に貼る事を麗奈に約束した。


「麗奈さん、気を落とさないで。悪い事は必ず表に出るから」


 泉美も麗奈の肩を軽く叩き、励ますが。


「そんな事、約束できます? 警察も取り合ってくれないのに」


 確かに麗奈の発言は一理あった。軽率な事を言ったのも後悔。確かにこれは失言だったかもしれない。


「そうね。でも……」


 明らかに絶望している麗奈を見てられない。そんな風早に言われたように、犯人をこの手で見つけるべき?


 仕事で荒れている手先を思わず見つめる。コーヒーや菓子、パンを作る事に長けたこの手で犯人など見つけられる?


 頭の中にある電卓は「NO!」を突きつけてきたが、無視。泉美は厨房にあるメモ帳とペンを持ってくると、麗奈の隣に座った。


「麗奈さん、ここは色んな人がくるカフェよ。何か手がかりが見つけられるかもしれない」

「そうよ。泉美の言う通りだわ。警察を当てにしないで私達で犯人を見つけましょ!」


 母に目はキラッとしていた。この状況でも面白がっているのかも。実にゴシップ好きの母らしい。


「そんな、良いんですか?」


 ここで麗奈は初めて顔を上げた。目元は真っ赤だった。声も震えていたが、泉美の目をちゃんと見ていた。


「ええ。何か手がかりが掴めるかも。何でも良いから気づいたら事はない?」

「気づいた事っていうか、ベラのお腹に、変なマークみたいのが落書きされてた」


 麗奈は泉美にスマートフォンを見せた。そこにはベラちゃんのお腹の画像。昨日の現場を思う出しそうになったが、逃げずにちゃんと見る。


 そこには確かに変なマークが落書きされていた。片目と三角形のピラミッド。怪しい雰囲気の絵だが、これは何?


「何このマーク。本当に気持ち悪いわ。あ、でもこれ、あのカルト教団のマークじゃない?」


 母は冷静だった。例のカルトである繁栄のミラクル聖母教の公式サイトを検察すると、泉美達にもスマートフォンを見せてきた。


「確かにベラちゃんのお腹の落書きと、このカルトのロゴがそっくりね」


 泉美はあまり見たい画像でもなかったが、それは認めざるおえない。これは確実にベラちゃんの死は、あのカルトが関わっている。


「でも証拠はある? そんなカルトの連中が私達がやりましたなんて認める?」


 母のツッコミはもっともだ。こんなマークは、偶然の一致、あるいは濡れ衣を着せられたと主張すれば、何の反論もできない。カルトの犯行だと主張するからには、科学的かつ客観的な証拠が必要。あるいは本人達の自白も。


「まあ、大丈夫よ。カフェの常連さん達でみんなで協力したら、案外すぐ犯人なんて見つかるよ」

「そうよ、泉美の言う通りよ。肩を落とさないで、麗奈ちゃん!」

「そ、そうね……」


 ここでようやく麗奈は薄らと笑顔を見せた。かなり無理した様子ではあったが。


「でも、カルトの仕業だったら、次の被害が出てもおかしくない。もし、町内のネコが被害を受けたら……」


 麗奈はそう言い残すと、カフェから帰っていく。


「そうね。このままカルトを野放しにしておくのは、本当に危険よ、泉美。もしミャーも……」


 その可能性はゼロではない。一体どういう動機でネコを殺したのか不明だが、犯行を繰り返さない保証はどこにもない。


「そうね。これは本当に調査するしかないわ……」


 もう決めた。頭の中の電卓がいくら「NO!」と突きつけて来ても、ベラちゃんを殺した犯人を探そう。


「そうね! カフェのお客さんで何か知ってる人もいるはずよ。泉美、私もゴシップを精査するから、あんたは手がかりを見つけるのよ!」

「ええ、もうこうなったらやるしか無いわ」


 泉美は閉店時間がとっくに過ぎていたが、腕まくりをした。


「犯人を見つけるわ!」


 家にある「私達の幸せな結婚式」を読むのは、お預けになりそうだ。

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