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生贄儀式事件編-6

 ネコと和解できなくても、決して仕事が消えるわけではない。


 今日は開店直後から途切れなく来客があり、目が回るほどの忙しさ。常連客の中には、ベラちゃんの事を聞いて来るものもいた。ユージンが野次馬として現場を生配信した為か、噂は大きく広まっているようだ。正直、ユージンのついては舌打ちしたくなった。


 客が途切れたのは、午後三時過ぎだった。雨が降ってきた為だ。カフェは天候に客行きも左右される。比較的安定した経営だったが、疫病の時はがくっと売り上げも落ちた。カフェ経営が全部店主の力だけではコントロールできないものだ。


「はあ。お客様が来ないなー」


 窓の外の雨音を聞きながら、テーブルを吹き、床掃除をした。よく見るとパン屑や髪の毛も落ちてる。やはり清潔感が一番!


 気合いを入れて掃除をしていると、一人来客が。


「いらっしゃいませませー!」


 客は珍しいタイプだった。近所の女子校・聖アガサ学園の生徒だった。セーラー服で、派手なリボンが目を引く。


 時計を見ると、午後三時十分。まだ学校の時間のはずだが。


「こ、アイスコーヒーを」

「かしこまりました。氷は入れてよろしいですか?」

「は、はい」


 女子高生は一人がけの席に座ると、注文してきたが、妙に怯えている様子だった。声も小さい。体型も痩せ型で、小さなリスのような雰囲気。気が強そう、しっかり者に見える泉美とは正反対のタイプだ。


 制服は校則をそのままコピーしたような着方だ。スカートは長く、靴下は短い。髪も黒く、アクセサリーは一つもつけていない。スクールカーストは決して高くなさそうだが、勉強は得意そう。


 泉美はカフェの厨房でアイスコーヒーを作りながら首を傾げていた。


 あの真面目そうな雰囲気な女子高生が、こんな時間にカフェのいるのは不自然だった。サボりだろうか。一応、聖アガサ学園の生活指導の先生からは「生徒がサボりに来たら連絡するように!」とチラシや名刺も貰っていたが。


「どうぞ。アイスコーヒーです」

「あ、ありがとうございます。グラスがレトロで可愛い」


 しかし、アイスコーヒーを笑顔で飲んでいる女子高生を見ていたら、聖アガサ学園に連絡する気も失せてきた。おそらく優等生がたまに羽を伸ばしているだけだろう。入店直後に怯えた様子だったのは気になるが、アイスコーヒーを飲み、元気になってきたらしい。


 会計時には笑顔を見せてくるほどだった。


「ご馳走さまでした」

「いいえ。またお越しください。って、お客様、そのネコのお財布可愛い!」


 女子高生が持っている財布は、ネコのフェス型で可愛らしい。若干子供っぽくはあったが、女子高生なら許容範囲だろう。泉美のようなアラフォーは決して持てない。


「実はこれ、自分で作ったんです」


 女子高生ははにかみながら言う。


「へえ、手先が器用ね。ネットで販売したらいいのに」

「いえいえ、それほどでも。あ、ありがとうございました」


 褒められ慣れていないのか、女子高生は顔を赤くしながら帰って行った。


「やっぱり、学園に連絡しないでよかったわ」


 泉美はそう呟きながら、アイスコーヒーのグラス類を片付けていく。


 これでも長年カフェ店員をやっていた。クレーマーや厄介な客はなんとなく顔つきでわかる。特に共通点はないが、直感で変な客なのかわかる。あの女子高生は人が良さそうだ。あんな可愛い猫の財布を作れるし。無闇に学園に連絡しないでよかった。


「いらっしゃいませ!」


 ホッとしたのも束の間だった。まだ雨は降っているのに、また客だ。


「風早さん!」


 しかも、あのマッチングアプリで知り合った彼だった。


 ベラちゃんやミャーとの事ですっかり存在すら忘れていた。都トークアプリの連絡も既読すらつけていない事にも気づき、泉美は平謝りだ。


「いえいえ、そんな謝らないで」


 風早は苦笑している表情も整っていた。反射的に泉美の心臓もキュンとなった。


「ユージンさんの生中継見ましたよ。ネコが何者かに殺されたんですって?」


 しかし、なぜか風早はお怒りのようだ。コツコツと貧乏ゆすりをはじめ、不快な音が響く。高そうな革靴での貧乏ゆすりは、想像以上にチグハグ。


「ええ。あのベラちゃんが殺されたの」


 泉美は厨房で作ったメロンソーダを風早の前に起きつつ言う。メロンソーダもこの店の名物だった。レトロな丸びをおびたグラスに、鮮やかなメロンソーダ。てっぺんには大きなアイスクリームとチェリーのトッピングもある。元々はお子様向けのメニューだったが、今は昭和レトロブームぼおかげで、男性客からもよく注文を受けていたが。


「あのベラちゃんが!?」


 風早は目の前のメロンソーダにも目もくれず、怒りはじめた。顔を真っ赤にし、こめかみには薄らと血管も。顔が整った男が怒っていると、意外とサマになるが、泉美は首を傾げる。


「風早さん、ベラちゃんに会った事ありました?」

「そうじゃないけど、愛しのネコ様を殺すヤツなんて許せないよ。殺人犯より酷い。どうせだったら、俺を殺してくれれば良かったのに」

「え?」


 泉美は営業スマイルを維持できなくなっていた。それはやり過ぎというか、ネコ好き過ぎる気がするのだが……。


「いえ、今のは冗談」


 風早は我に帰り、咳払いをしていた。きっと正義感が強いイケメンなのだろう。これが藤河が同じセリフを言っても気持ち悪いだけだが、風早なら許す。イケメン無罪だ。


「分かるわ、その気持ちだけは。まさかベラちゃんは殺されるなんて。しかもカルトが変な儀式をして殺されたという噂も」

「本当ですか。酷いな。やっぱりこの世には神はいない。いや、ネコは神様だが、公正も正義も何もないじゃんか」


 思った以上に風早は正義感が強いらしいが、この男は年収一億だった。泉美は金持ちは正義感が強いと無理矢理納得した。たぶん、これも泉美の頭に中にある電卓が上手く計算した答え。


「警察はろくに調査しないよ。俺も昔、迷いネコについて相談してもスルーされたから」

「そうなのね。辛いわ」


 泉美は見た目によらす正義感が強い風早に引きつつも、わざとらしく優しい表情を作った。こっちの方が得だと思ったからだ。泉美も藤河の前で猫撫で声をあげるミャーを批判できない。


「ああ、だからベラちゃん殺しの犯人は我々が探した方が早いかもね。今は闇バイトの件で警察の人出不足だから、余計にそうでしょう」


 風早はメロンソーダを雑に駆け込み、会計すると、帰って行った。


 このカフェの客層に合わない、キッチリとしたスーツ姿の風早が帰ると、ほっとため息がで出てしまったが。


「自分達でベラちゃんを殺した犯人を探す?」


 風早がいたテーブルを片付けながらを、自問自答。


 確かにベラちゃんが殺されて納得などできない。許せない。警察もあてにならないだろう。


 それでも、このままで良いのか分からない。泉美の表情は曇る。


「いや、素人が口出しとかしたらダメだよ。それにカフェの仕事で忙しいから」


 泉美の頭中にある電卓が答えを出した。やはり、自分達で犯人を探すなんて現実的ではない。


 もしカルトが犯人だったら、危険が及ぶ可能性大だ。ここは電卓が導き出した答えに従うのが一番だろう。


 カフェの壁に貼ってあふベラちゃんのチラシと目が合うが。


「いえ、調査なんて無理……」


 チラシを剥がし、ゴミ箱に丸めて捨てた。


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