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生贄儀式事件編-4

 その夜、泉美は疲れ果ててすぐに眠ってしまった。本当は「私達の幸せな結婚式」を読んでニヤニヤしたかったが、ベラちゃんの遺体を見た後に、キラキラしたラブストーリーは読めない。


 ミャーは相変わらず泉美を無視していた。だんだんと腹も立ってきたが、眠気には逆らえない。


 もっとも眠りはあまり深くはないようで、夢を見てしまった。


 よりによって中学時代の夢だった。


 中学生時代の同級生・黒崎貴子をうっかり庇ってしまった。貴子は厨二病で変な事ばっかり言っていたので、クラス中からいじめられていた。貴子の机には「死んだら?」とか「学校来るな」とまで書かれていた。


 確かに貴子は悪い部分も多かった。実際、泉美も貴子にバカにされた事もあったが、いじめは容認できず、ついつい彼女を庇ってしまった。


 この時の泉美の頭の中の電卓は、だいぶ壊れていた。損得勘定などできなかった。いつもは高機能な電卓だったが、時々壊れるから厄介。上手くやっているようで、案外損な性格。一言で表現するなら、器用貧乏だった。


 案の定、貴子を庇った事により、泉美も虐められるようになった。あろう事か藤河と勝手にカップル化された事もあった。藤河も貴子を庇っていたから。


 当の貴子は、知らんぷり。学校も休みがちになり、ますます泉美の立場が悪くなった。


「本当、この世に神様なんているの? 正直ものが損してる世の中じゃん!」


 たまたま下校途中で一緒になった藤河に文句を行っていた。中学生の時の泉美は、ませていた。化粧も濃いめでスカートも短い。典型的なギャル。当時、女子高生ブームもあり、ギャルに泉美は憧れていたというのもある。


 一方、藤河は典型的なヲタク系男子で、オカルト雑誌を片手にため息をつく。


「そう言えば藤河ってオカルトヲタクで、スクールカースト底辺なのに、全然いじめられてないね? 何でよ?」


 泉美はそんな藤河にイライラし、八つ当たり。なぜか藤河はいじめられていなかった。あんな貴子を何度も庇っているのに。


「それは俺が神様に守られているから」

「は? 神様? そう言えばあんたの家って教会だったね。神様ってイエス・キリスト?」

「そうだ」


 藤河は深く頷く。


 一方、泉美は首を傾げていた。歴史の教科書だと、キリスト教はかなりイメージが悪い。戦争ばっかりやっているし、ザビエルはハゲてるし、ご先祖様も救わない神様って何?


「だけど、水川。イエス様は必ずいる。試しにいじめっ子達を愛してみな。絶対にいじめが終わるよ」

「はあ? そう?」

「そうだよ。イエス様、いじめっ子達とも仲良くなれてありがとうって言ってみ? 先に言うんだ。現実は関係ない。願いを聞いてくれるぞ」

「そうかな」


 半信半疑だったが、おまじない感覚で口に出してみた。それに藤河にもキリスト教風の祈りをやって貰うと、なぜか泉美に対するいじめは完全にストップした。


「そうだよ、イエス様がいじめっ子達から叱って止めてくれたと思う。感謝しろよ、水川。神様はいるんだ。日本風に言えばお天道様がいるのだ。神様は水川の事も全部見てるぞ!」


 夢の中で藤河がそう叫んだ時だった。


 目が覚めた。夢の中では中学生だったが、目覚めると、手が完全にアラフォーのもの。しかもカフェの仕事で荒れた手だった。こればっかりはいくらハンドクリームを塗っても防ぎようがない。手の年齢は誤魔化せない。どうやら目が覚めて現実に戻ってきた。泉美は自分の手見ながら、実感する。


「はあ、ベラちゃんの事も夢だったらいいのに」


 そう思うが、スマートフォンを見ると、母や常連さんからメッセージが大量に届いていた。話題は全部ベラちゃんの話題だった。ベラちゃの話題はテレビやネットのニュースにならないが、ご近所では大事件。特にゴシップ放送基地のような母が、騒ぎ立てているようだ。


「はー、面倒な事になったわ。とにかくベラちゃんの事は、母に話すのやめよう。絶対面倒な事になる」


 そうは言っても、あの母だ。どこかからゴシップを仕入れ、大騒ぎする事が目に浮かび、今から肩が重い。


 ベラちゃんの事件は夢ではなかった。夢だったらどんなに良いかと思うが、母のメッセージを見れば見るほど、現実が迫って来そう。


 そうは言っても今日もカフェの営業日だ。仕事を休む訳にはいかない。


 泉美はいつものように身支度を整え、ミャーの餌も用意したが。


「起きて。ミャー、ご飯よ」

『フン!』


 ミャーも起きてきたが、顎をつんと上げ、泉美を無視。どうやらネコと会話できるという頭がおかしな事も夢ではなかったが、ため息しか出ない。


 おまけにミャーは泉美に喧嘩口調だ。今までこんな嫌われた事はなかったのに。一応高級ネコ缶を開け、マタタビの匂いがするポプリも与えてみたが、何の効果もない。


『フン! バカにしないでよ、泉美』


 ミャーは怒ったまま。一晩経っても全くネコと和解できない。


『私、泉美の子になるのイヤ。牧師さんのとこに行きたい』

「えー、ミャー。そんな事言わないで!」

『もう決めたわ。泉美と和解するつもりなんて無い。さようならー!』


 泉美は涙目だ。しかし、ミャーは全く言う事も聞かず、ご飯も食べてくれない。このままだと餓死するだろう。


「困ったわね」


 頭を抱えてしまう。まさかマタタビのポプリも全く効果が無いとは。


 一応泉美は朝ごはんを食べた。昨日、青嶋の惣菜屋で買ったものを温め食べたが、ミャーの事が気になって美味しくない。ミャーだけでなく、ベラちゃんの事も思う出スト、食欲は完全に失せた。なぜかネコの問題にこんな悩まされるのだろう。人間はネコと切っても切り離せない存在なのだろうか……。


「仕方ない」


 泉美はクローゼットの中からネコ用のキャリーバックを取り出す。動物病院に行く時に使うものだが、今日は別の目的だ。


「わかったわよ、ミャー。藤河の所へ行けばいいんでしょ?」

『にゃー!』


 ミャーは拗ねた声をあげた。泉美の目が死んでいく。


 ベラちゃんの問題だけでも気が重いのに、ミャーまで拗ねているとは。


「行くわよ、ミャー」

『わかればいいの』


 偉そうにキャリーバックに収まるミャーを見ながら、ため息しか出ない。


「ベラちゃんを殺した犯人が見つかればいいけど」


 あの警察がまともに調査するだろうか。せめてベラちゃ殺し事件が速急に解決するように。泉美はそう祈る他なかった。

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