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地には妖精、月には天使  作者: 仲島 鏡弥
第1章 居場所
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Doll迎撃 1/2

『作戦を立てましょうか。えと、先ほども言いましたが、Dollの大気圏カプセルが燃え尽きた瞬間に、Dollの弱点を攻撃します。まあ狙撃ですね。なるべく一発で仕留めてください。時間をかけると、相手は狙撃になにかしらの対処をしてきます。そして狙撃位置の索敵を遅らせるために、海に姿を隠して狙撃してください。まずは海に飛び込みましょう。そして水底にアンカーで体を固定し、海流の影響を最小限にしてください』


 言われた通り、まずは足から海に向かって飛び込んだ。

 大量の水しぶきが岩壁から跳ね返る。水位はFEAの膝にも満たない。奥に進む。FEAの体長の半分ほどの水位になる。その辺りで、仰向けの姿勢になり、水底に背中をつけ、肩、腰、脚の部分から、アンカーを射出し、水底に体を固定した。

 海流の演算を二時間分済ませる。海流の流れが手に取るようにわかる。これで海流の影響は受けない。


『それからクリエイティブマシンガンを、アンノウンボックスの拡張でアンチマテリアルライフルに変化させます。弾は、貫通力の高い徹甲弾を装填し、発射音と反動をなるべく抑えるためにマズルブレーキを忘れずに装着してください』


 クリエイティブマシンガンに、性質と形を同化させたアンノウンボックスを纏わりつかせる。クリエイティブマシンガンの形が、バレルの長大なアンチマテリアルライフルに変わる。発射機構はボルトアクション方式、ボルトハンドルによりAP弾頭と装薬の装填を行う。水圧による作動部分の阻害は、銃身に水を抜くための穴を作ることにより解決する。


『あとはDollの大気圏カプセルが燃え尽きた瞬間を狙うだけです。降りてくる五体すべてを、空中で撃破してください。一体を残すだけならなんとかなるかもしれませんが、二体以上残せばこちらの勝率は十パーセントにも満たないでしょう』


 銃口にある箱型のマズルブレーキを、海面から覗かせる。マズルの先には五体のDollの内の一体がいる。狙撃をするにはまだ早い。大気圏カプセルはまだ健在だ。息をひそめて待ち、狙撃における最高のタイミングを計る。

 狙撃のタイミングの六秒前。

 五つの大気圏カプセルが、周囲に炎を纏い始めた。大気圏を突破しようとしている。

 あと0.73秒。

 大気圏カプセルが、燃え尽きた。

 天を穿つ角度で、体の構造でいう胸椎の中心部分を貫くように、AP弾頭の軌跡がまっすぐに描かれた。彼女に教えてもらったDollの急所部分だ。そこを貫いてしまえば相手はたちまち戦闘不能状態となる。

 一体目は沈黙。

 ボルトハンドルを回し、マズルの位置を修正し、二体目をレティクルに収めて狙撃。

 二体目のDollは、一体目の沈黙を探知してブラックアーマーを動かしている。弱点箇所に部分的に収束しようとしている。しかしAP弾頭は、ブラックアーマーが部分的収束を終える前にDollの体を貫いた。

 二体目も沈黙。

 ボルトハンドルを回し、マズルの位置を修正し、三体目をレティクルに収めて狙撃、しようとするけど、ブラックアーマーがDollの心臓部分に幾重にも重なるように収束し終えている。マズルの位置を変えた。狙う箇所の変更をした。三体目のDollの、アイ・センスに繋がるメインカメラのある頭部を貫いた。しかし致命傷ではない。弾頭の変更、HESH弾をボルトハンドルの回転により装填、Dollの鼠径部に向けてHESH弾を撃った。弾頭が鼠径部にへばりつくようにして潰れ、起爆する。Dollの片脚が胴体から離れていく。脚を使った相手の機動力を奪った。もう片方の鼠径部にも同じようにHESH弾を撃ち込む。起爆。脚による機動力を完全に無効化する。三体目のDollは上半身のみになった。

 しかし機能停止には追い込んでいない。

 すでに五発の弾頭を消費している。すべてを一発で終わらせるつもりだったのに。

 空中での殲滅は諦める。

 三体目の完全な沈黙よりも、すべての敵に少しでも手傷を負わせることに決めた。


『————————————』


 こちらに降ってくるDollから、圧縮言語が届いた。

 あいつら言葉を扱えるのかと思いながら、FEAに搭載されている補助脳に開示許可を出した。しかし開示許可を拒否された。なぜだろう。悪性のウイルスでももしかしたら仕込まれていたのかもしれない。

 まあ気にするところではない。どうせ聞く耳なんて持つ気もない。

 大事なことは、彼らがこちらの命を脅かす敵だということだ。

 四体目のDollにマズルを向ける。そこで、Dollの背中からなにかが生えた。白く輝いた翼のように見える。Dollの重力落下の勢いが殺される。あれは、反重力翼だ。そこにプラスでDollは推進剤に着火し、スラスターを展開した。Dollが、右へ左へと、空を縦横無尽に飛び回り始めた。他のDollも同様だ。ランダムな軌道で飛んでいる。ランダム飛行のせいで、照準がとてもじゃないけど合わせられない。

 彼らはさらに、二つのアンノウンボックスを溶け合わせ、それを薄く広げてヴェールのように展開した。

 FEAの視覚から、Dollの姿が見えなくなった。

 ヴェールの後ろで、さらなる移動を続けているとすれば相当な運でもなければやつらに弾は当てられない。


『こうなると空中での迎撃は難しいですね。ここからは地上に出て戦いましょう』


 たしかに、海にこれ以上いることはただの移動の邪魔にしかならない。水底に固定されたアンカーを外す。陸に向かって移動を開始した。

 そして二歩歩いたところで、さっきまでFEAのいた位置にAP弾が撃ち込まれた。

 真っ黒なヴェールのその奥で、FEAと同じように、Dollはアンチマテリアルライフルを作り上げ、ヴェールごと撃ち抜いて、弾によりFEAの狙撃位置を抉ったのだ。

 位置はすでにバレていた。

 移動が、あと数秒遅れていたら損傷を受けていた。

 あいつらの真似をするようで癪に障るが、こちらもクリエイティブマシンガンの拡張に使っていたアンノウンボックスを解除し、それを薄く引き伸ばして正確なこちらの位置を探らせないように傘のように展開した。陸にたどり着くまでに、すぐ傍を銃弾が何度も通り過ぎた。

 陸に上がってからは、とにかく少女たちのいる地下施設から遠ざかった。巻き込みたくはなかったし、なにより自由に動けないというのが一番の理由だった。

 黒のヴェールが、月と星空のすべてを覆ってしまうほどに近くにある。 

 そして、黒のヴェールが二つの立方体に戻る。

 現れたのは、顔も脚もないボロボロのDoll一体と、まったく損傷を受けていない無傷のDoll二体だ。彼らは、落下のすべての衝撃を反重力翼により殺し、地に降り立った。

 一対三だ。

 こちらが圧倒的に不利ではあるが、勝てる可能性は決してゼロではない。十パーセントより、少し少ないぐらいだ。

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