表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地には妖精、月には天使  作者: 仲島 鏡弥
第1章 居場所
3/49

まどろみに溺れる

 ひどく息苦しかったことはなんとなく理解できた。

 意識がまどろみに溺れていることも、頭が鈍い痛みに侵されていることも、体中が重りをつけられたみたいに動かないことだって理解できている。

 だけどわからない。

 ここはどこだ?

 たぶん、上を向いている。滲む視界には底なしの闇があって、耳を澄ましても雑音の一つだって聞こえやしない。背中に当たる感触はかなり硬質な物質で、やっとのことで伸ばしてみた腕にはなにも触れることはなかった。闇に取り残されたような感覚。

 思う。

 背中にある物質以外は本当になにもなくて、身じろぎの一つでもしてみれば終わることのない落下が待っているに違いない。そうやっていつまでも落ちて、死ぬまで落ちて、自分の一生は誰にも知られることなく終わっていくのだ。

 だけどわからない。

 自分とはそもそも誰だ?

 ぼやけた疑問が、靄の晴れていく頭にとんでもない恐怖へと変わり染み込んでいく。呼吸が荒くなる。体が小刻みに震える。寒いのか暑いのかもわからない。どうしてこんなにも息苦しいのか。どうしてこんなにも心が熱を求めるのか。

 誰かの声を聞きたい。

 誰かの姿を見たい。

 誰かに手を握ってほしい。闇が恐ろしく、自分がなにより恐ろしい。

 自分を信じられないのなら、誰かの存在がなによりも必要だった。

 心の空虚は、しかしどこまでも自分に馴染む。今までの自分は、このような闇を抱えていたのだろうか。

 狂いそうだった。

 もしかしたら、すでに狂っているのかもしれない。

 必死に誰かを求めた。

 死に物狂いで無理やりに体を動かそうとし、なにかを思い出そうと壊れるぐらいに頭を働かせようとした。体の動かし方も頭の働かせ方も至極曖昧ではあったけど、それでもやらなくてはならない。自分を必死に手繰り寄せようとする。そうして誰かの存在を感じたかった。

 頭の中には、誰かがいる。

 安心しきったへにゃへにゃの笑顔だ。

 誰なのかはわからない。

 だけど、この笑顔に救われたような気がする。

 もう一度この笑顔に会いたかった。

 そのためならばなんだってできると思った。


 ——突然の激痛が走った。それは直接脳を揺さぶられたような感覚で、目覚めかけていた意識が無理やり閉ざされていくように錯覚した。いや、違う。錯覚ではない。意識が何者かの意思によって閉ざされかけている。


 笑顔のあの子が遠のいていく。

 やめろ。奪うな。もう少し、もう少しだけでいい。あの子の笑顔を、あの子の記憶を奪うな。目に刻む。心に刻む。だからあと少しだけ、時間を——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ