表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地には妖精、月には天使  作者: 仲島 鏡弥
第3章 熾天使の涙
19/49

涙の意味

 ミライなのか№0122なのか、それともバンシーなのか。人間なのか使徒なのか、それとも妖精獣なのか。

 わけがわからない。

 地下に戻って、背中の痛くなるベッドで横になっても、答えなんて見つかるはずもないのにどうしてか自分はここにいる。


「ねえ、いつか二人で話したことを憶えていますか?」


 結局、ノドカもマコトも死んだのにこいつだけは生き残っている。

 それが一番わけがわからない。


「人ってなんだ、自分たちはなんだ、死が怖いか、って私に聞きましたよね。最初はなんでそんなことを聞くんだろうって思ったけど、今なら少しわかります。あなたがどうしてそんなことを聞いたのかってことが」


 うるさい。


「曖昧ではありますけど、私には妖精獣に秘められた人間の頃の記憶があります。ここみたいな地下の施設で、人間たちで寄り添いながら細々と生きていたんです。その中には先生がいて、友達がいて、そして家族がいました」


 黙れ。


「大切な人たちはずっと生きているわけではなく、いずれ死んでいくんです。それはゆっくりだったり、突然だったり、いろんな形で訪れたけど、どれもが悲しかった。もちろん死んだ人は生き返らない。そうやって消えていく命に意味はあるのかって、自分が死んだ時にいったいなにが残せるのかって、ふと考えちゃんです」


「消えろ」


「あ、やっと返事してくれましたね」


 きつい言葉を浴びせたのに彼女は嬉しそうな顔をした。

 横目で窺うその表情は、視覚野をいじられて見せられている幻だ。彼女が本当に嬉しそうにしているのか、そもそも彼女が本当にこの場所にいるのかさえわからない。


「この話題はお気に召さなかったですか? じゃあこれからの話とかはどうです?」


 これからの話。

 そうだ。Dollを倒して仲間を守る必要なんてなくなった。全部嘘だったから。使徒であった頃のように、妖精獣を殺して天使様のために行動することはもう何の意味もない。自分がその妖精獣になったから。

 これからなにをすればいいのか、目的を失い生きている意味が自分でもわからない。

 他に死んでしまったやつらと違って、彼女には生を選ぶほどの目的があったのだろうか。


「まあ、することなんて別になにもないんですけどね」


 へらへらと笑っている。

 なんなんだこいつは。

 どうしてこいつはここにいる。

 腹が立つ。

 感情が鋭利に研ぎ澄まされ、胸に刺さる。息苦しい。呼吸するのが難しくなって、そのもどかしさに涙が溢れてきた。涙なんて使徒であった頃は流したこともなかったのに、メディカルナノマシンが作動しなければ感情の制御すらまともにできない。

 いっそのこと、自分もノドカやマコトと一緒に死んでしまえばよかったのだ。

 そうすれば、少なくとも涙を流すほどに苦しむ必要はなかった。

 自分の弱さを、彼女に見せる必要もなかった。

 さっきまで絶え間なく喋っていた彼女が今は不気味なぐらいに黙っている。

 涙で滲む視界で、彼女のことを盗み見たら彼女がこちらに手を伸ばそうとして、悩む素振りで引っ込めていた。

 彼女はなにを思っているのだろう。

 自分は本当に彼女に消えてほしいのか。自分は本当に彼女に腹が立っているのか。

 自分はいったい、彼女をどう思っているのだろう。

 思考は栓なく混流する。答えは見つかりそうもなかった。


 今はただ、溢れる涙を止めようと必死だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ