問い
ずっと誰かが泣いている。
頭の中で、すすり泣くような声が途切れることなく聞こえている。いつからだろう。自分の中に別の自分がいる。
使徒の記憶を思い出した今、ある程度の記憶を掘り起こすことができる。
バンシーを討伐し、あの叫び声を聞いてからなにかがおかしい。自分らしくない行動もあったし、自分の知らない記憶があるし、時折自分らしくない考えが浮かぶ。
もしかしたら、あの叫び声を聞いた時、他の使徒と同じように自分も死んだのではないのか。
死体になった自分の体を記憶ごとバンシーに乗っ取られた。バンシーの本来の能力は自分を殺した相手の意識を乗っ取ることだった。そう考えれば、バンシーが無抵抗に№0122の刃を受け入れたことにも多少の納得がいくというものだ。
そして記憶が混在した。
自分にないはずの記憶は、自分の本来のものであるかもしれない記憶は、いつだって泣いている。
ベッドの上で縛り付けられている。注射針で何かを体に注入されている。体の変質に恐ろしい痛みが襲ってきて、涙が出て、それでも必死に叫び声を上げまいと歯を食いしばっていた。
歯を食いしばっていられたのは、誰かが手を握ってくれていたから。
声も思い出せない。
顔も思い出せない。
名前も、何だっただろう。
君はいったい誰なんだろう。
わからないことだらけだ。
俺は、いったい誰なんだろう。