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地には妖精、月には天使  作者: 仲島 鏡弥
第2章 名前
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不協和音

 そして他の四体が、コフィンの中から一抱えほどの筒状の物体を取り出している。

 見たところそれはバズーカ砲のように思える。大質量の砲弾はブラックアーマーでもアンノウンボックスでも防ぐことはできない。範囲の広い攻撃はどれだけ軌道を読んでも避けることは難しい。

 四体のDollは一定の間隔で横に広がった。

 そのままDollは移動し、FEAをバズーカの射程圏に収めようとしている。

 対策は一つも思い浮かばない。

 ミライはとにかく包囲される前に移動を始めようとした。それを阻むように、四つのアンノウンボックスが槍の形状になって飛んでくる。ヒートナイフの拡張を解除し、ヒートナイフを操りやすい元の大きさに戻し、飛来してきた槍を次々に切断していく。しかし切断された槍はすぐさま切断面をくっつけ、螺旋状に回転し、こちらを穿とうと飛んでくる。倒したDollから奪ったヒートナイフとの二刀流で切断し、盾の形状のアンノウンボックスで防御する。

 まともに動くこともできなかった。

 それでも、必死に包囲の輪から逃れようと動いた。

 そして気づけば、すぐ目の前に海原が視界に広がっている。

 ——誘導されていた。

 逃げ場がない。

 どこまでも手のひらの上で踊らされている。

 そんな思考が頭から抜けない。

 走る足を休めず、このまま海に飛び込むか——ありえない。水中で動きの鈍くなったFEAなんてただのいい的でしかない。

 反重力翼を展開して、海の上を飛んで逃げるか——ありえない。反重力翼は自由自在に空を飛びまわるような便利なものではない。あくまでもその場で滞空ができる程度の力しかない。


 ——あのわけのわからない力に頼るしかないのか。でも頼り方がわからない。


 バズーカ砲の射程圏。


 Dollの一体が砲身を肩に乗せた。砲口をFEAの頭上に向けた。放たれる砲弾は、放物線を描くからそのまま砲口がこちらを向くことはない。

 しかし、それにしては上を向きすぎていないか?

 やけに軽い発砲音。

 丸い塊がFEAの頭上を目指して飛んでくる。砲弾にしてはあまりにも遅い。それでもあのままの速度なら、FEAの頭上を飛び越していくだろう。しかし、丸い塊は徐々に面積を広げて、速度を落としていった。そしてFEAの頭上で完全に速度を殺しきった。

 丸い塊だったものの正体がわかった。

 網だ。

 FEAを包み込むのに十分な大きさの網が、四つ角の重りの重量でFEAに向かって落ちてくる。

 あいつらの目的はFEAを殺すことじゃない。あいつらの目的はFEAを捕らえることだった。

 どうしてだ。

 FEAを捕えて自分たちの戦力にするつもりか? 

 しかしやつらは一体のDollを犠牲にしている。これでは等価交換どころか完全に損だ。

 それとも網に殺傷力のある何かを仕込んでいる?

 網を解析してみれば、アンノウンボックスやブラックアーマーの変形を防ぐ高電圧が流れている。しかし、FEAの機能を殺しきるほどの電圧ではない。

 じゃあなんで。

 一つ、ミライには思い当たることがあった。

 以前、あのわけのわからない力が目覚めたきっかけはなんだったか。

 ミライは、不快な叫び声が頭を埋め尽くす前になにを思ったのか。

 死を予感した。

 あの力の覚醒条件は、避けることのできない死を感じること。

 だとすれば、Dollたちの目的は、あのわけのわからない力を覚醒される前にFEAの動きを封じることだ。どのような力を呼び起こそうとも、身動きが取れないのであればなにも恐くない。

 やつらは一度の戦闘から、仮説と対処法を組み立てて、それから立ち回りを演じていたということになる。

 最初にFEAから一体だけが逃げ回っていたのは様子見で、四体が傍観を決め込んでいたのは、変にミライを追い込んで死を予感させないようにしていたということだろう。一体を撃破された後だってミライを本気で殺そうという攻撃はなかった。

 分析と、仮説と、実践。

 Dollの恐ろしさはきっとこういったところにある。

 しかしこちらにも仮説が生まれた。

 前提として、力の覚醒条件がミライの死の確信であったとする。

 その死は、果たして相手からもたらされるものに限定されるのか。

 その死は、どのような形でもどのような者からでも与えられるもので良いのか。

 ——FEAが逆手にヒートナイフを振りかぶる。ヒートナイフを勢いよく振り下ろす。ヒートナイフの切っ先が向かったのは、ミライの肉体が眠る心臓部の操縦空間だった。


 ギ——。

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