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地には妖精、月には天使  作者: 仲島 鏡弥
第2章 名前
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自分にできること

 ユウの部屋から勢いのまま飛び出したはいいものの、地上にどうやって行けばいいのかをそういえばよく知らなかった。またユウの部屋に戻って、地上への行き方を尋ねたら十中八九ノドカに馬鹿にされる。いくつかの通路を進み、適当なドアを開けて、そこに誰かがいればいいなという期待を抱いた。

 入った部屋は、ユウの部屋と間取りはなにも変わらない。四角の空間がそこにあって、途切れ途切れの天井照明があって、ぽつんと置かれているベッドが中央に鎮座している。ユウの部屋と違うのは、そこにユウはいないということはもちろんだけど、ベッドの上にある謎の物体が異様さを醸し出している。明暗を繰り返す照明がそれを照らし出している。

 肉の塊のようだった。

 てらてらとした光沢を帯びているピンク色の表面に、紫色の筋が血管のように浮き出ている。一人用のベッドからこぼれ出すぐらいの大きさで、半液体状の肉の端が床に向かってだらしなく垂れ下がっている。見るだけでも気持ちが悪い。生理的な嫌悪感がある。これは、この世にあってはいけないもののような気がした。

 こんなことをしている場合ではない。それでも、ミライの足は肉の塊へと近づいていく。自分はこれを知っている気がする。知らなければいけない気がする。


「なにをしているんだい?」


 後ろから声がかかった。

 マコトだ。彼は部屋の中を一瞥し、ベッドの上に目線を移した。しかしすぐに何事もなかったみたいに、


「Dollがもうじき降りてくる。大方君のことだから、地上への行きかたがわからなかったってところだろう。案内するからついておいで。ほら」


 マコトが微笑みを絶やさずに、鋼製の通路を迷いなく歩き始めた。

 マコトに部屋の中にあったあれがなんだったのかを尋ねたけど、


「いまはDollのことに集中してくれないと。戦いが終わったらいくらでも話してあげるからさ」


 と言って、答えは教えてはくれなかった。

 続けて、彼はこう言った。


「僕らを、守ってくれよ」


 そして、FEAに初めに乗った枠組足場のある場所までたどり着く。マコトは自分の案内できるのはここまでだと言って、ミライに上に行くように指示してその場で立ち止まった。ミライは言われたままに踏み板のたまに外れている階段を慎重に昇っていく。外面壁に沿って進んで踏み板の振動音を響かせて、ぶ厚い鉄がものすごい力でひしゃげられたようなシェルターの出入り口にたどり着く。下を見れば、マコトが微笑みながら手を振っているのが見えた。

 外壁に手を引っかける。そのまま腕の力で体を持ち上げて、外に出る。自分の体でやるとFEAでは簡単にできていたことにだいぶ疲労感がともなう。赤い土を踏む。しばらく歩く。うつ伏せの形で、FEAが赤い砂漠の上で野ざらしになって寝そべっている。周囲には、ミライが倒したDollの残骸が倒した時そのままに散らばっている。

 Dollの残骸からFEAの修理は終わらせたとユウは言っていたけど、夕暮れの赤に照らされたFEAは最初の戦闘後からどこにも変化したところはないようだった。損傷は元々そこまで大きなものではなかったけど、見た目には特に変化は見られず、細かな損傷や氷結弾による凍結がいまだに拭いきれていない。

 とにかく近づく。FEAの仮面をかぶったような頬に触れる。脳波接続で簡易リモートをアクティベートする。FEAに喰われる形で中枢神経ガレージに移動し、呼吸補助器の内側にライフゼリーの流れ込みを感じ、最初の乗り込みとは違ってミライは至って冷静にリプレイスニューロを首元のカラーに接続した。

 FEAの全身にミライの神経が一秒にも満たない時間で駆け巡る。FEAのあらゆる機能が覚醒し、ミライはFEAの足で立ち上がる。

 テレスコープによる目視確認でDollの存在を確認した。

 落下しているのは五つの大気圏カプセル。Dollの数はつまり五体。

 最初の撃退した数と同じだ。

 Dollの総数なんて知る由もないが、一度撃退された数とまったく同じということは、人間の討伐には五体で行うという決まりがあるのか、それともこちらに手を回すほどの数がそもそもいないのか、そういえばノームとかいう妖精獣との戦いでDollは大きな被害を受けたんだったか、——それとも、こちらの撃破には五体という数で十分だということなのか。

 理由がなんであろうと一度倒したやつらだ。

 あいつらを倒して、ユウたちを守って、そしてちゃんと仲間の一員として認められる。

 記憶を取り戻すことなんて後回しでいい。

 自分の居場所をちゃんと居心地の良いものにする。

 そのために、自分にできることをしっかりとやろう。

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