元男性選手が五輪の女子ボクシングで無双!? 誤情報と問題点を解説!
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただき誠にありがとうございます。
今回はネット上で話題になっている「五輪の女子ボクシングで元男性選手が無双している」ということについて僕なりに解説していこうと思います。
ボクシング女子66キロ級イマネ・ヘリフ選手とボクシング女子57キロ級のリン・ユーチン選手(台湾)について特に物議を醸しています。
◇誤情報として流れていること
質問者:
まず論点から整理していただきたいのですが、この2人の選手の方は生物学的にどういう状況なんですか?
筆者:
一言で申し上げるのでしたら、いわゆるトランス女性(元が男性で性転換手術をして女性になった)では無く、性分化疾患(DSD)と言う病気です。
性分化疾患(DSD)は、生まれつき性に関する体の特徴が一般的な男女の特徴と異なる状態を指します。
病気でない方は、女性はⅩⅩ染色体、男性はXY染色体を持ちますが、
イマネ選手とリン選手の場合ば、XY染色体(通常は男性型)を持ちながら、外見は女性的な特徴を示しているような状態になっているのです。
その為にトランスジェンダーの性と体の不一致の問題とは異なり、医学的な病気なのです。
質問者:
「元男性のトランスジェンダーの方が無双している」という話とは異なるという事なんですね……。
筆者:
Ⅹ(旧Twitter)で周辺情報をよく調査していないインフルエンサーの方がそう言った誤情報を広めているので注意した方が良いですね。
◇男性要素(XY染色体)があるだけで女性とは全く違う
質問者:
見た目が女性に近い状態でしかも病気だとするのなら、
問題になっているところはどういう事なんですか?
筆者:
問題になった両選手は生まれてからずっと女性として育ち、アルジェリアのパスポートでも女性になっているのですが、染色体検査してようやく判明したケースになっており、
これまですべて女性の大会に参加しています。
(真実は不明ですが、少なくとも本人は女性だと思って出場し続けていたと主張していると思います)
ちなみにイマネ選手に関しては東京オリンピックにも出場しており準々決勝まで勝ち上がっています。
質問者:
それなら何で問題になっているのか分かりません……。
特にボクシングに関しては体重によって階級が決まっていますし、
そこまで影響が無いような気もするのですが……。
筆者:
問題は生物学的にXY染色体を持っていることで、
DSD患者はテストステロンは男性と同じ程度分泌することが問題になります。
テストステロンの量によって筋肉の発達しやすく骨密度が高いことが医学的・科学的にも証明されており、例え同じ体重の階級だとしても大きな差が生まれてしまうのです。
どちらかと言うとこの病気は「両性具有」と言われる状況に近いと言われていますね。
しかし、このことが女性の競技で有利に働くとみられるため、世界陸連(WA)においては「公平な競争の場」を守るための制限を設けています。
2018年に定められた規則では、DSD選手は大会の6カ月前までに薬を服用してテストステロン値を基準値以下に抑えない場合、競技への参加が禁止されているんですね。
2016年リオデジャネイロ五輪の800メートルで2連覇を成し遂げたキャスター・セメンヤ選手(南アフリカ)はこの規制に反発し、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に訴えるなどしたが認められず、3連覇の夢は大会前に絶たれたと言った出来事もありました。
また、副腎過形成症という病気の女性は、副腎から睾丸を保有しているレベルのテストステロンが分泌されるために参加できないと言った事件もあったそうです。
質問者:
陸上などではすでにそう言う事が起きているのは分かったのですが、ボクシングではどうして規制されていないのでしょうか?
筆者:
ここがまた問題を複雑化しているのですが、各競技によって参加資格が少しずつ異なるのです。
国際ボクシング協会(IBA)主催の昨年世界選手権でDNA検査を実施した際、XY染色体を持っていることが証明されたとして、世界選手権の出場権を剥奪されているという事件があったのです。
東京オリンピックではこの事件がまだ起きていなかったために問題なく出場できていたという事なんですね。
ただ、IBAはガバナンス問題と一連の審判スキャンダルをめぐる長年の問題のため、パリ五輪のボクシング運営を禁止されていることから「参加資格のルールがブレブレ」になってしまっているのです。
◇あるべき姿とは?
質問者:
複合的な要素が絡み合っているという事なんですね……。
いったいどうしたらいいんでしょうか……。
筆者:
スポーツにおけるルールや規範と言うのは努力や実力をより発揮しやすくするために不公平をなるべく起こさせないために存在します。
例えば、ルール無用でオリンピックを開いた場合にはドーピングやロボットの使用も認めることになりカオスなことになってしまいます。
一般的にこれまで科学的や医学的見地からテストステロンの分泌が多いと競技において有利に働くことで「純粋な女性の活躍」を阻害してしまう事が分かっています。
そう言った不公平を防ぐためにも例えそれが自分の意志とは無関係な病気であったとしても規制されるべきだと思います。
特にテストステロンに関しては血中濃度を下げるための薬を一定期間服用することで下げることも可能の様なので対策はできるわけです。
質問者:
病気ですから非常に心苦しいですけど多くの女性選手を守るためには仕方ないのでしょうね……。
一方でIOCはイマネ選手らについて
「2024年パリオリンピックのボクシング競技に参加するすべての選手は、競技の資格と参加規則、およびパリ2024ボクシングユニット(PBU)が定めるすべての医療規則に従う。これまでのオリンピックボクシング競技と同様に、選手の性別と年齢はパスポートに基づいている」
と発表しているみたいなんですけど、これについてはどう思われますか?
筆者:
テストステロンについて全ての競技において共通規範を作らないことは問題だと思います。
特に「パスポートでもって性別を決定」と言うのは非常に危険のように感じます。
例えば日本においても最高裁や高裁において「性器を手術をしなくても戸籍を変更可能」と言う判断が今年出ています。
日本では現行制度でも家庭裁判所が認めれば日本のパスポートの性別を変更可能なので、恐らくは戸籍の性別を変えれば手術をせずともパスポートの性別変更も可能になります。
質問者:
日本でも競技によっては他人事では無い話という事なんですね……。
どうしても勝ちたい方ってそう言うルールやレギュレーションの「穴」みたいなところを掻い潜ってきますからね……。
筆者:
最悪は戸籍の性別だけでなく国籍まで変えて来るケースが出てきそうですね。
オリンピックに執念を燃やす方は本当に凄いので何でもやってくるでしょうね。
それらの問題を解決するためには、これは完全なる私見ですが、「男性の遺伝的特徴を持つ女性選手は女性競技に参加すべきでない」と考えます。
むしろ先天性の病気の方々に関してはパラリンピックに競技を求めた方が良いのかもしれません。
このあたりも含めて今後議論されるべき重大な案件であると僕は思いますね。
◇選手個人には責任は無く、ルールが問題
筆者:
ここで最後に問題にしておきたいことはイマネ選手やリン選手が出場したり勝ち上がったりすることについて誹謗中傷があるという事です。
これは看過されるべきことではありません。
オリンピックのルールや規範を決めたのはIOCであり、選手たちは先天性の病気にも関わらずこれまで僕たちがこなしたことのないような過酷なトレーニングを続けオリンピックの代表に選ばれているわけです。
その努力や栄誉についてIOCのルール内を逸脱しない限り批判されるべきではありません。
現に過去に陸上競技で出場できなくなったセメンヤ選手らも過去に獲得したメダル剝奪と言う措置には至っていません。
※ちなみにドーピングが発覚するとメダル剥奪、下位の選手が繰り上がります。
質問者:
確かに個人攻撃をしてはいけませんよね。
問題を起こしているのはルールをちゃんとしていないIOCなんですからね。
筆者:
IOCに対してですら過激な表現は慎むべきです。
冷静に合理的でないことについて議論していくことを求めていかなくてはいけないと思います。
質問者:
攻撃をしてくる相手に対してはむしろ頑なに考えを曲げなかったりしますからね……。
その辺りも注意が必要ですね。
筆者:
僕たち人類は遺伝の問題などまだまだ知らないことも多く、議論の上においても科学・生物学の上においても発展途上であると言えるでしょう。
次の段階に人類がステップアップしていくためにも突き付けられた大きな課題だと僕は思います。
このエッセイをご覧になった皆さんも是非とも考えていただけたらと思います。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
僕は「論点の交通整理」が得意だと思っていますので、
こうした時事問題や政治・経済について僕なりの解説をいつもしていますのでよろしければ他の作品もご覧ください。