なな みんなの未来
最終話です。
「それで、これからどうしたいとかはあるのか?」
食事が進み、ある程度腹が満たされたあたりでゼルダが問いかけた。
ゼルダ的には、ウチにいてくれてもいいしなんならウチに所属してもいいし、どこか行きたい所があるなら協力できるかもしれないから、と。
優しい大人は久しぶりのセナは、それだけで泣きそうだった。
「あ、ならうちに来ませんか?」
「「「え?」」」
唐突に声が上がったのはその時。セナ以外の少女の声が聞こえたのだ。
即座に臨戦態勢になるのは流石軍人さんだなー、と呑気な声は窓際からした。
誰にも気づかれないうちに、10歳くらいの少女がひとり座っていた。
長い銀の髪をハーフアップにまとめ、菫色の瞳は楽しそうに煌めいている。文句なしの美少女だった。
「どちらさまにゃー?」
セナを後ろに隠したアルの前に出て、マルが聞いた。
「あ、突然すみません。私はマナ。本名長すぎてカムのでご容赦を。魔王領、領主のお使いで参りました」
それは見事なカーテシーと共に挨拶がきた。
「魔王殿のお使い?」
「はい。うちの魔王サマ、僻地の人材ヘッドハンティングしてまして、その承諾とついでに隣国との様子確認がてら来てみたんですが」
なんかお取り込み中だったし先触れも受け取ってもらってないみたいで、もうどうしようかなーと砦の入り口で思ってたらしい。
「しょうがないんで、挨拶して勝手にはいりました」
オイオイ、と数人が突っ込んだが、華麗にスルーされた。
「そしたら、もう涙無しには聞けないお話中じゃないですか! 誰さこんな美少女辛い目に合わせやがった奴は! 許すまじ! マジ絶許!!」
本気で怒ってるマナもかなりの美少女なんだが、そこはどうでもいいらしい。
「とりあえずリトちゃんに話して報復措置とりましょうそうします決定」
リトちゃんとは魔王サマの名前である。超レア情報。
「あ、私魔王領に吸収合併してもらった領地出身なんです。魔王領にいる人間はそんな感じの人と、親に売られたとかまあ、訳ありの人もいるし」
そんなこんなで、人手不足の魔王領に娘を身売りに出すほど困窮している民をハントして回ってるそうだ。
「とりあえず、隣国から引渡し要請とか来る前の一時避難でもいいですし」
三人とも目立ちますしねー、との言葉にはゼルダも頷いてしまった。このまま隣国がセナを諦めるとは思えない。
そしてウチの国はセナを守ろうとはしてくれない、絶対。
「あと、マルさんとお呼びしても? できればちゃんで」
「いいにゃー」
「あざす! マルちゃんをうちの魔王サマに会わせたいんですよね。あの方大の猫好きで」
さらにレア情報きたー! てかこんなペラペラ喋っていいのかマナ。
「猫好きのあまり、新種を創り出すほどで」
どこから取り出したんだ? と聞きたくなる手際で、いつの間にかマナの両手にはちょこんと子猫が乗っていた。
白毛がほんのり銀に光って見える、菫色したトラ柄の、猫?
「かっ……!!」
あまりの可愛さに悶絶するおっさんズ。
ふんふんと鼻を近づけて匂いを嗅ぎ合うマルと子猫。
「眷属だけど違うみたいにゃー」
「魔虎族なので、正確には虎ですね。この子は私の相棒の紫と言います」
「みゅう」
「マルにゃー」
「魔狼の子供を魔力でなでなでしてる時に、うっかり猫愛を爆発させたみたいで」
そんな理由で魔虎族爆誕。マジか。てか魔王サマってどんだけ猫好きなの?
「この世界、猫はいないにゃー?」
「見た事ないですねぇ。だからマルちゃんの存在はなるべく隠したいかなと。セナさんとアルさんだけでも目立ちますし、ここでは情報筒抜けですから」
魔王サマの庇護下に入れば、魔王領ならある程度自由に動けるし。
先のことをすぐに決めるのは難しいだろうし、お客様としてどうでしょう、と再度のお誘いに頷いたのはマルだった。
「一時避難させてもらった方が、ここに迷惑かけなくてすむにゃー」
マルがそう言うなら、とふたりが頷きかけた時。
「あ、セナさんは、できれば次期魔王サマ候補としてお迎えしたいですー」
マナがのほほんと爆弾発言を落とした。
「……え?」
「「「「えーー!?」」」」
人生はこれから。
そらもう色々あるさー、と笑うマナの声は混乱と困惑の絶叫の中に溶けた。
その後。セナが魔王サマになったのかは不明だが、マルに会った魔王サマがマルに骨抜きになり、自身の相棒に嫉妬されたとさ。
ありがとうございました。
このお話は桜月的に不完全燃焼なので、キャラと盛り込めなかった設定をどこかで使いたいと思ってます。
またどこかでお会いしましょう!