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ろく セナの未来

 懐かしい、夢を見ていた。


 今はもう、どこにもない故郷(ふるさと)


 緑豊かな大地に実る金色の麦穂を見るのが好きだった。。透き通った水がもたらす恩恵もわからずにはしゃいで遊んだ。ただ、与えられるままに享受していた、子供だった自分。


 マルがいて。アルがいて。家族がいた。それが全てだった。


 瞬く間に奪われたそれを、セナは忘れることはない。その後のことも、今自分を包むあたたかさが、遠い記憶として追いやっていく。


『もう大丈夫にゃ、セナちゃんはひとりじゃないにゃ』


 優しい声。マルが言うならそうなんだろう。もうセナがひとりになることはない。すとんと心に落ちてくる言葉を、セナは素直に飲み込んだ。


 もう、悪夢はやってこない。





 セナが目覚めたのは、あれからさらに10日たってからだった。


 まずは栄養補給である、とゼルダが食事をとることを勧め、なぜか主要メンバーが一緒に食べることになった。


「将軍閣下にはどれだけ感謝しても足りない。ありがとう」


 ぺこりと頭を下げるセナの髪は、肩のあたりで綺麗に切りそろえられていた。目覚めてすぐに、マル主導で身だしなみを整えたのだ。


 簡素なワンピース姿だが、所作は高位貴族のそれだったのできちんと教育を受けていたのだろう、とゼルダは納得した。


「いや、助けたのはマル殿とアルだ。私は滞在の許可を出したにすぎん。楽にしてくれ」

「ありがとう。アルがお世話になったようで」

「いや、面倒を見ていたのはクロウだ」


 ふられたクロウが慌てて頭を下げる。それに礼を返したセナに、ゼルダは言い難いことを問う。


「それより、話せるなら隣国に囚われてからのことを聞きたいんだが」

「ああ、うん。マルはどこまで?」

「セナちゃんが魔力暴走を狙って自爆しようとしたとこまでにゃ」

「……うん、ごめんて」

「そこは許さないにゃ」

「ほんとごめんて」


 ぷんすこ怒るマルにしょぼんとするセナ。セナの頭をなでなでするアル。和むー。


「アルもアルにゃ。不意をつかれたにしてもなさけないにゃ」


 今度はアルががっくりしょげて、セナが背中をぽんぽんする。いつものことなのか、マルはスルーである。


 さて。えーと? あ、そうそう。


「マルが敵を引きつけるために私たちと別行動をとってすぐ、私たちも敵に見つかったんだ。どうもマルと引き離したかったらしい」


 マル強いからね! 見た目が愛らしくかわいいので、躊躇う兵が続出したのが原因だとか。


 死角からアルが襲われた。あっという間に意識を刈り取られて、セナはアルを遠くに飛ばすのがやっとだった。


 捕まったけど、暴力はなかった。というより、出来なかったのが正しい。


 セナには、セナとアルとマルの三人がかりの防御魔術が重ねがけしてあって、ちょっとやそっとじゃ破れないようになってるのだ。


 物理がきかないので、メンタルはかなりやられたが、18禁はピーという音で消される仕様つきだった。マルの日本での知識すげぇ。


 男だと思われていたので、セクハラ被害もなかった。ただ、魔術師が数人がかりで防御魔術の隙をかいくぐり、隷属の首輪をセナにつけたことが、セナのメンタルに効いた。


 セナの魔力を搾りとられるだけの毎日に、救いを求める心が絶望に塗り替えられていった。


 せめて、マルとアルは無事でいて欲しいと願う日々に、嘲笑うかのように告げられた祖国が消えた事実と家族の死去は、セナの暴走の引き金になった。


 それがあの日。


 ここにいる敵全てを巻き込んで、セナは魔力暴走を引き起こした。


 舞い上がる土埃の中、魔力が渦を巻いてバチバチと弾ける。セナを虐げた奴らが悲鳴と共に空に消えて行くのをなんの感情もなしに見送り、セナは力尽きようとした、その時。


「「セナ(ちゃん)!!」」


 アルが。

 マルが。


 同時に飛び込んできた。


 三人の魔力がぶつかり、弾かれた衝撃でクレーターができた。


「セナちゃんの魔力暴走を無理矢理抑え込んだ反動にゃ」

「あの結界は?」

「セナちゃんの全てを巻き添えに消える、という意思が強すぎたにゃ。だから、マルとアルの魔力で包んだにゃ」


 心も身体も回復が必要だったしにゃ。


 絶望も慟哭も、消すことはできない。向かい合って折り合いをつけていくしかない。それは三人とも同じだった。


 時間だけが癒しだと、それはセナにもわかった。実際、あの日にすぐマルとアルに会っても素直になれたかは怪しい。


 生きようとする気力が、あの時のセナにはなかったから。


 マルに逃がしてもらったのに。アルには生きろと逃がしたのに。


 生を諦めた後ろめたさが罪悪感となり、視線すら合わせられなかった。


 そんなセナを、セナ自身が許せなかったから。


 マルには気づかれていたのだ。


「ほんと、マルには勝てない」

「とーぜんにゃ」


 ふふ、と笑ってセナは言った。


「ふたりのせいで死ねなかったが、ふたりのおかげで生きている」


 それはとても晴れやかな、すっきりとした笑顔だった。



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