ご マルの覚悟
アルが目覚めたのは、マルが砦に滞在を許可されてから三日後。
あちこち擦り傷だらけだったので、治療したかったのだが、セナに近づくなとばかりに威嚇。シャー! 威嚇。
まぁ、番だしな、しゃーないな。と周囲は遠巻きに説得。一部がリア充滅ぶべしと壁に吠えていたが皆にスルーされた。哀れ。
最後はマルに、治療して風呂入るまで戻ってくんな、と放り出された。ポイッと。
「ひどっ!? でも今セナと離れたら!」
「そのためのマルにゃ。いいから行くにゃ」
「でも!」
ヤダヤダなアルに猫パンチ炸裂。痛くないだろって? 魔力でカッチカチの猫手ですがなにか。
「アルがずっとセナちゃんに魔力送ってたのはしってるにゃ。おかげでセナちゃんは安定してきたにゃ。だから今度は体力の回復にゃ」
アルは回復魔術は使えなかろ? 交代にゃ。
「さっさと風呂に行くにゃ。セナちゃんが臭いに顔しかめてるにゃ」
その言葉にアルは秒で消えた。好きな子に臭いとか言われたら泣くもんな。うん。
それから、アルが抱え込んでいたセナにも治療が施された。風呂は意識がないので浄化魔法で。アルは? ヤローはワッシワシ洗ってらっしゃい。
「でも猫は水ダメじゃん?」
「なら水でもかぶればいいにゃー。いい加減臭いにゃー、マルちょー我慢したにゃー」
身も蓋もないマルである。でも臭いのカンベン、これ真理。
「でも、マルさんは近寄ってもへーきなんスねー」
「マルはセナちゃんの飼い猫で(これ重要にゃ)今は親代わりで魔術の先生でお友達だからにゃ」
ちなみにアルとはキャットファイトして仲良くなったにゃ。
猫の喧嘩はちょいと激しいよ!
「さて、にゃ」
フンスと鼻を鳴らしたマルは、ちょいと大きくなった。
「伸縮自在!?」
周りの驚きなんのその。そのままセナをふわふわの毛皮でくるむ。なにそれ最高の癒しじゃん。羨ましい! と叫ぶ声がうるさい。
「ごめんにゃ、セナちゃん。よく頑張ったにゃー、よく生きててくれたにゃー。これからはマルもアルも一緒にゃ、もう離れないにゃー」
ごめんにゃ、たくさん傷ついたにゃ、頑張ってくれてありがとうにゃ。可愛らしい声、マルの言葉は回復魔術と一緒にセナに染み込んでいく。
それは、同じくらいの辛さを味わったからこその重み。セナと同じ時間、マルもアルもセナと共に在れない辛さに耐えながら、セナを諦めることもできず、心に想う唯一をただ追うことを己に課すことで生きてきたのだから。
先に身体を満たしてくれたアルの魔力は暖かく、生きていてくれて、また逢えてよかった、嬉しいと心まで届けてくれた。その魔力とマルの言葉と優しく流れ込んでくる回復魔術が溶けて混じって、セナを作り直していくように。
壊れかけた心が、寂しさが悲しさが、辛さも全て。
セナの中から消えるまで、マルはセナを包み込んでいた。
今度こそ。今度こそ守るから。
だからお願いセナちゃん。生きることを諦めないで。
もう、ひとりにしないで。
もう、ひとりにならないで。