よん マルの家族
クレーターから助け出されたのはクロウだけではなかった。
なにかを抱き込んで離さないまま気を失っているアルと、その上で威嚇して毛を逆立てていたマルもだ。
でっかい猫又に、兵士たちがドン引きしたりハアハアしながら手を伸ばしたり色々あったが、皆無事救護室に運び込まれた。
その報告を聞いて出向いたゼルダが出会ったのが、ちょこんと座ったマル(それでもデカイ)である。
「はじめましてにゃー」
なんてお行儀の良い猫又さんか! とハアハアしとるおっさんはおいといて。
「名前を聞いてもいいだろうか。私はゼルダという」
「マルにゃー」
脳筋のゼルダは単純ともいう。猫又がそう名乗ったならそうなんだろう。猫又がそう言ったならそうなんだろう。だってここにいるんだし。
「マル殿。詳しい事情はご存知だろうか」
「わかるとこなら話せるにゃー」
「頼む」
そうして、マルの話はマルがセナとはぐれたとこから始まった。
セナの国が滅ぼされ、セナがアルとマルと逃げた頃。
残党狩り、というか初めからセナ狙いだった可能性大。その証拠にセナへの追っ手は日に日に増えて行った。
蹴散らすアルとマルにも疲れが見える。魔術でフォローするセナは、初めての戦いに精神的疲労が半端なかった。
どこかゆっくり休めるとこまで逃げなければ、がアルマルの共通認識となって数日。
とうとう追いつかれてしまった。
マルは囮となるために、セナに姿を変えて敵を引きつけるためにふたりと離れた。
疲れと怒りと悲しさと、色んなものが混じって八つ当たり的に敵を殲滅したのは、セナには言えない。内緒にゃ?
だって、セナの国がマルは好きだった。あちこちお昼寝に最適な野原があって、国民もマルに優しくて、国王さまもいつもなでてくれて、王妃さまのハグはいつもいい匂いがした。マルの日常はセナとセナの好きなものであふれていた。
そんな世界でずっとセナとアルと一緒に暮らすのだと思っていたのに。孫守りとかしちゃうもんね! とフンスしていたのに。
なのに。
突然奪われた全てを、マルは忘れない。あの優しくあったかい人々の未来がなくなったことを、マルは許さない。
けれど、今はまだちからが足りないから。そして彼らから託されたセナを守らないと。
泣くのはそれからでいい。
そうしてふたりと合流しようと、匂いを辿って見たものは。
血溜まりと魔術の痕跡と硝煙。ここからプツリと消えたセナの匂い。
あの後悔を。
あの慟哭を。
説明することは難しい。
ふたりを探して探して探して。そうしてアルをここで見つけた。アルは大丈夫、次はセナだと。そのセナは、セナは。
隷属の首輪についた鎖に引きずられるように歩く、痩せ細りボロボロの布を纏い、あんなに綺麗だった銀の髪はくすんでばらばらに切られていた。
青空のようなキラキラした瞳は、絶望に陰って、なにも映してはいなかった。
セナを取り戻すために機会を窺う日々が始まった。本当は今すぐにでも飛び込んでしまいたかった。
それが出来なかったのは、隷属の首輪のせいだ。
セナの自由を奪い、魔力を奪うあれをなんとかできないうちは、取り戻してもまたすぐ捕まってしまう。
我慢して耐えた。早く早くと焦る心は、セナの限界を知っていたから。諦めと絶望しかないセナは、死に安らぎを求め始めていたのだ。
隣国の警戒が緩んで、セナが辺境に連れてこられた頃には、セナの心は半分以上壊れかけていた。
チャンスはここしかない、とマルが覚悟を決めたのと、アルがセナを見つけたのと、セナが自滅上等でヤケを起こしたのは、ほぼ同時。
結果、三人の魔力とセナの魔術が暴走して爆発。おそらく、セナの回復のため結界が張られたのだろう。とマルは締めくくった。
「セナちゃんもアルも生きててよかったにゃ」
周りは泣いていた。セナちゃん可哀想、マルも大変だったな、アルぼーっと生きてるんじゃなかったのか、等々。
どさくさでマルに抱きついているおっさんもいたが、さすがに怒る気にはなれなかった。
かくいうゼルダも涙目だ。若い子たちになんてことを! 隣国滅ぶべし、と一致団結した瞬間だった。
ストックなくなりました。次から更新遅れます。