さん ゼルダの現実
ゼルダは国境を守る砦の責任者である。一応女将軍という地位についているが、無駄にいらん責任ばかりで向いてない職業だなと本人は思ってる。
ゼルダは脳筋寄りなので、馬に跨り槍を振り回してる方が楽だし好きだ。書類なんて無くなればいいのに。
ゼルダは男性より女性ウケがよかった。
ショートボブの金髪は後ろに流し、青い目は切れ長で、流し目に倒れた女性がいたとかいたとか。高めの身長に程よくついた筋肉。細マッチョ素敵、と人気だったとか、未だに絵姿が爆売れだそうだが、利益はゼルダの懐には入ってこない。理不尽。
王都では、そらもう貴族女性にモッテモテで、野郎共の妬みを買いまくっての左遷だったらしい。ちなみに、ゼルダを追いやったからといって、野郎共にモテ期が来た訳では無い。むしろゼルダに会えなくなった女性たちに八つ当たりされて婚期を逃しまくってるそうだ。自業自得。
さて、そんなゼルダはクロウの戸籍上の妻である。28歳と17歳。かなりの姉さん女房だな。
なんせ反論しようにも阻止しようにも、辺境に報せが来た頃にはクロウも到着していたし。ご丁寧に入籍済だった、こんちくしょうが。
こんなことなら事実婚してないで入籍しとけば良かった、と思っても後の祭り。それを知ったクロウには土下座された。潔し。
そんなわけで、女将軍ゼルダには戸籍上の夫と内縁の夫がいる。すげぇ。
「辺境の穴が?」
「は、はい。へんきょーの穴が」
問うゼルダと繰り返す少年兵。
「バチバチーってやつが消えて、中に人がいるのがわかって、でんかたいちょ、あ、たいちょーで、あ、おうじたいちょー?」
「どれでもいい。クロウがどうした」
クロウのただ一人の部下があわあわと説明しようとするが、クロウの呼び方でループしたので、先を促す。てか名前呼んでやれよ。
「あ、はい。でんかたいちょーが穴の中に消えました」
「消えた!?」
「今は何人かで見張ってます。お、自分は報告に行けと言われて」
先日隣国とやり合った際にできたクレーターには、クロウの友人でもあるアルが巻き込まれていた。安否不明だったので、クレーターを毎日確認しに行くのがクロウの日課になっていた。
隣国が魔術師を連れていたので、十中八九その者が原因だろうが、なにが起きたのか見ていたものも説明できず、捕虜を捕ろうも爆発に巻き込まれて隣国兵はほぼ全滅。
こちらに死者がいないことで、不思議さと不気味さが増していた。
「その穴にクロウが?」
「はい。後を追ってひとりが飛び込みましたけど、ぽーんと返されました」
お前はいらん、てか? いや、なんだそれ。
「ラズ」
とにかく行かないとわからん、とゼルダは立ち上がった。長身細身の金髪男性へ振り返る。
「貴女はダメですよ。わたしが行きます」
「しかし」
「将軍が危険な場所へホイホイ行ってどうするのです」
ホイホイ行きたい。ゼルダは待つのが性にあわない。
行く行かないのやりとりを、イチャイチャしてるー、とほんわか眺める少年兵はしかし。
ガタイのいいおっちゃん兵に抱えて連れ帰られたクロウを見て、安堵のあまりギャン泣きするのだった。