に セナの苦難
セナはとある小国の王女だった。
青みの強い銀の髪に空色の瞳の、国外に出たらそらもう美少女である。
まぁちっちゃい国なので、国王サマ? あ、収穫したやつ荷馬車に乗っけてくれる? ありがとさん、てなくらいフレンドリー。
威厳? ナニソレオイシイノ?
そんなわけで、セナも王女と言うより近所の子供、おじょーちゃんはしゃいで怪我すんなよーくらいの扱いだった。
一応、お城に住んではいたが何かあった時の避難所だったし、国民は誰でも普通に出入りしてたし。セキュリティ? なにそれ以下略。
念の為ひとりでは行動しないように、と言われていたセナは、ある日ひとりで散歩中に猫を拾った。
てか、落ちてきた。にゃおーん。
シッポが二本ある、キジトラの猫又さんだった。しかもでかい。2メートル近くあったから、伸びたらもっとあるだろう。
そんなどデカい猫又さんが、セナを抱きしめてスリスリする。良かった瀬名ちゃん会えた瀬名ちゃん会いたかった会いたかったんだよ瀬名ちゃん!
にゃおー、と猫又さん曰く。
自分はセナを追いかけてきた。
セナの前世は日本人で、飼い猫が自分。
ある日突然事故でさようなら。ここで猫又さん号泣。ぷにぷに肉球がずぶ濡れになるのを見過ごせず、なでなでさすさす慰めた。
頑張って頑張って猫又になってセナを探した。
見つからなくて、悲しくなって、泣きそうになって、諦めそうになった時、セナの匂いがした。
迷わず飛びついたら落ちた。
でもセナに会えた。無問題。
会えて嬉しい。もう離れない。
なんというスペクタクルなお話か。
聞いてた国民号泣である。てかいたんかい。次々と猫又さんに良かったな、とかもう離れなくていいぞ、とか声をかけてる。いやそれ一応国王に許可を、って猫又さんの背中に抱きついて泣いとるやん、国王。
にゃおー? と不安そうな猫又さんを、セナはよしよしとなでた。気持ち良さそうな猫又さんに、気づいたら言葉を投げかけていた。
「うちのこになろうね、マル」
にゃおーん! 猫又さんが泣いた。マルとは前世のセナがつけた名前。もう誰にも呼ばれることはないとそっと心にしまったもの。
セナに記憶はなかったけど、それでもいい。その名前を呼んでそばに置いてくれるなら。切ない想いに、泣きそうになったセナは、言葉にはせずにただ抱きしめた。
その日から、セナの隣にはおっきな猫又さんが二本足でついてくる。首輪の代わりに青いリボンをつけたマルは、セナの護衛兼お供兼飼い猫になった。
にゃおーん 猫又になって異界に渡ったから魔法使えるにゃーん。
なんとも頼もしい猫又さんである。セナの魔法の師匠にもなった。優秀すぎる。
色んな事をふたりでした。楽しみも悲しみも喜びもふたり。ケンカもした。泣いてごめんした。仲直りもふたり。
アルを見つけたのもふたり。真っ白な小虎は、傷だらけで弱々しく倒れていた。
手当ても看病もやっぱりふたり。小虎が目覚めたら人間になった。パニックになった。ピコピコケモ耳にセナが絆された。セナちゃーん! とみぎゃんと悲鳴が響いたが、セナは基本猫好きだった。
猫又と小虎のキャットファイトを経て、アルはマルの弟子に収まった。アルの番がセナだって聞いて、マルが納得したから。獣の事情はケモノにしかわからない。
そんな穏やかな日々が終わりを告げたのは、突然に唐突。
国が攻め滅ぼされたのだ。逃げろ、とセナは国から出された。
逃げて、逃げて逃げて。どこに? どうやって? 子供だったセナに自活の術は少ない。
残党狩りの囮になったマルとはぐれて、アルと同時に捕まった。
地獄の始まりだった。
「お前のせいで死ねなかったが、お前のおかげで生きている」
ねぇ、また笑いあうことはできる?




