「学校の怪談が現実に、、、。」
この学校には「ナニカ」が
棲みついているのだろうか。
夏休みに入って水泳部顧問代理として
週2回ほど水泳部の指導に来ている。
ここZ高校には普段は週1回
3クラスの保健の授業を担当していて
そのあと放課後に教えるだけだ。
昼過ぎから夕方までたっぷり
練習メニューをこなせて弱小水泳部は
少しレベルアップしてきた。
みんな真っ黒に日焼けしている。
俺ともずいぶん打ち解けてくれたようだ。
今日は初めての合宿で1泊だけ
学校に泊まることになった。
2年女子部員5人全員が参加。
剣道部顧問だけど水泳部にもよく
顔を出す(遊びに来ている)
I丹先生も泊まる予定だったが、
急用ができて帰ることになった。
体育教官室でI丹先生が
着替えながら言う。
「そうそうレオ先生、
この学校には幽霊が出るって
言われてるのん知ってます?」
「ああ、、、ハイ。」
女子部員のS田とT上のコンビから
信じられないようなオドロキの話を
聞かされていた。
他の生徒もけっこう知っている
有名な話だ。
3年のあるクラスの授業中に
突然白い服を着た髪の長い女が
開けていた廊下側のドアから
ふわあっと入ってきて、
黒板に書き込んでいる先生の前を
通り過ぎて窓のあたりで
スッと消えたそうだ。
白昼の教室はパニック状態の生徒で
大騒ぎになったという。
「この前ね、用務員のおっちゃんが
夜に体育館に行った時に
何か気配を感じてよく見たら
真っ暗な舞台の上に女が立ってて
ビックリして腰抜かしそうになった
らしいんやけど、
それは3年の生徒やったんですよ。
精神状態に問題あるみたいで
勝手に学校に入ってきたらしいけど、
怖すぎるでしょ。
真っ暗な中に立ってるんですよー。
もしかしたら今日も来るかも
しれませんねえ。
まあ幽霊にも気をつけて。じゃっ。」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよお~。」
ああ、帰っちゃった。
イヤなこと言うよなあもお~。
う~ん、今日はここでひとりで寝るのか。
I丹先生と入れ違いにS田とT上がやってきた。
「先生、オジャマしていいですか?」
「ああ、どーぞ。入って。
そこにインスタントコーヒーあるから
俺にもつくってよ。」
初めて学校に友達と泊まることで
2人ともはしゃいでいる。
ソファでしばらく3人で話していると
パタッ、パタッ、とスリッパを
引きずるような音が近づいてきた。
コンコン。ドアがノックされる。
「はあ~い。」
、、、、、、、、。
あれ?
「どおーぞ。」
なんで入ってけーへんのやろ?
「ちょっと、開けたって。」
席を立っていってドアを開けたT上が
「ええ~? なんでえ?」
と困惑した声を出す。
「ん?どうしたん?」
「先生、、、誰もいません。」
とこわばった表情で振り向くとS田が
「ええーーーーーーっ!!!
ウソやろおーーーーーっ!!!」
と叫ぶ。
どういうことなんや???
ドアの外に出て確認しても
ひとの気配はない。
小体育館の2階のこの体育教官室の
ドアの向こうにはただコンクリートの
通路があるだけだ。
誰かが走り去った音もしなかったし。
「スリッパみたいな音もノックも
はっきり聞こえたやんなあ!」
「これって、やっぱり
出たってことちゃうん??」
取り乱す二人をなだめて
「あれかな?用務員さん。
それか、他のクラブの部員とか。」
と言うと
「今日は用務員さん、来てませんよ。
合宿で来てるのは私らだけです。
他には誰もいないはずです。」
と蒼ざめたT上が答えた。
ちょっと、、、これって、、、、。
3人で1階の小体育館へ向かう。
女子部員の3人と水泳部顧問の
M橋先生(女)がいる。
今日の合宿の参加者はこれで全員だ。
俺の後ろで怯えてくっつき合って
立っているS田とT上を見て
M橋先生が驚いて事情を訊いてくる。
「あのお~、誰かここから出て
上の体育教官室に来ませんでしたか?」
「いいえ、誰も。
みんなずっとここにいましたよ。」
結局、恥ずかしながら
「ナニカ」がやってきた体育教官室で
ひとりで寝る勇気は俺にはなく、
体育館で器械体操に使うマットを
敷き詰めてM橋先生、5人の女子生徒と
一緒に寝させてもらうことにした。
広々とした体育館の空間の端っこで
落ち着かない時間が過ぎていく。
気温変化のせいなのか時折
ピシッとか小さい音が聞こえるのが
気になってなかなか眠れない。
もし、今日あの精神状態不安定な
女子生徒がやってきて
いつの間にかあそこの舞台に
立っていたら、、、。
もお~~カンベンしてくれよ~。